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さとゆみ#135 私の今日が、誰かの明日に絡まっていく。みんな『ぐるり』と繋がっている。

  • 2021.4.21
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●本という贅沢135 『ぐるり』(高橋久美子 イラスト・奈良美智/筑摩書房)

朝日新聞telling,(テリング)

昨年の春、初の緊急事態宣言が出される直前。
ささくれだった心に、たぷんと粘度を与え、擦過傷から守ってくれたのが、このコラムでも紹介した高橋久美子さんの詩集だった。

そこに並ぶ言葉の粒たちを心の中で転がしているうちに、内側のほうから“やわされて”いくのを感じたし、あれは一種の治療みたいなものだったなと思った。ちゃんと選ばれ抜かれて残った言葉には、人を“治す”力がある。

私はコロナの期間を、詩集を読むことと古典を読むことで、ゆるやかに乗り切った(乗り切ろうとしている)。

言葉は、凶器で、
言葉は、薬で
言葉は、愛撫である。

それをまざまざと知ったのが、2020年、コロナ元年だったなと思う。

コラムを書いたあと、ご縁あって高橋さんとZoomでお話しさせていただく機会があった。
もう一発で恋に落ちるレベルの、素敵な方でした。その相槌の優しさとか、問いかけのやわらかさとか、地球全部がすぽっと彼女に包まれているんじゃないかと思うくらい、おおらかでふかふかでたくましい腕の持ち主だった。

そのとき私は、彼女の文章を書くときの心もちのようなものを聞かせていただいたのだけれど、以来、「こういう出来事を、高橋さんだったらどんなふうに書くんだろう」と思うことが何度もあった。

と、そんな高橋さんの新作。
しかも初の小説集が発売になったのです。
これは予約して正座して待つ案件じゃないですか。

勝手に期待がふくらみすぎていたのだけれど、実際の作品は私のふくらみを軽々と超える場所を飛んでいて、とても気持ちよかったです。

ページをめくるたびに、その場所のにおいがしたし、音が聞こえたし、絵が浮かんできた。
手をのばし、その作品と手をつないで一緒に飛んで、そこで見えた景色は懐かしかったり、怖かったり、愛おしかったりした。

ああわたし、旅を、した。
いろんな旅を、した。
本を閉じたとき、そんなふうに思ったな。

朝日新聞telling,(テリング)

どれもこれも、決してドラマティックな物語ではないの。
というか、起承転結を持って着地するのが「物語(ストーリー)」であるならば、ここに並んだ19篇の小説は、「物語」という頑固さを持っていなかったような気がする。

「書かれていた場面」の合間と前後に存在するはずの、「書かれていない場面」が濃厚に立ち上がり、お互いにつながっていく。

だから多分、読んだ人の数だけ物語が生まれる。
そういうタイプの本だ。
それを許してくれる余白のありかたも、なんだか、高橋さんのお人柄と重なる。

そして、気づくんだ。
小説の中に登場している人たちは、ぜんぶ、自分だなって。だから続きの場面が見えてくるんだなって。

自分のかけらが、いっぱい存在していた。
そしてみんな、ぐるりと、つながっている。
恥ずかしかったり、痛々しかったり、だけどやっぱり愛しい自分に何度も会ってしまう。
そんな本。

私は、とても好き。

それではまた、水曜日に。

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■佐藤友美のプロフィール
テレビ制作会社勤務ののち、2001年ライターに転身。雑誌、ムック制作、ウェブメディアの編集長を経て、近年は年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。 ビジネス書から実用書、自己啓発、ノンフィクションまで、幅広いジャンルの著者から信頼を得て指名をうけている。一方、読者からは「生まれて初めて書籍を1冊読みきった」「読みやすくてあっというまに読了した」などの感想を多くもらう「平易でわかりやすい文章」を書くライターとして知られる。 著書には8.2万部のベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)のほか、49歳で亡くなった伝説の女性美容師・鈴木三枝子さんの生き方と働き方を描いたビジネスノンフィクション『道を継ぐ』(アタシ社)が発売即重版し、話題をよんでいる。

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