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にらには剛のA面、柔のB面がある。平松洋子「小さな料理 大きな味」Vol.35

  • 2021.4.19
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小さな料理 大きな味 35

にらのB面

緑萌ゆる春。

にらも、萌ゆる緑のひとつです。

一年中出回っている印象があるけれど、春先のにらのパワーは特別だ。むかし住んでいた家の庭に植わっていたことがあり、春になるたび圧倒された。気温が上がるにつれ背丈が伸び、根元を切っても切っても(ハサミで切って味噌汁に使っていた)、すぐ次が生えてくる。緑濃く、香りも強く、翌年になると株も増える。季節のサイクルの先頭に立っているだけあってタフなのだが、葉はしなやかで柔らかい。

まず、あのしゃきしゃきの歯ごたえが好きだ。嚙むたび、繊維の内側から緑の風が巻き起こる。にらに多く含まれるアリシンは、疲労回復、滋養強壮、血行促進、冷え性にも効果があると聞く。ビタミンC、Eも豊富。生命力を還元してくれるところに、にらという野菜の誠実がある。

ただ、香りの強さが敬遠されがち。エネルギーが強いものには、それなりのクセもある。でも、にらレバ炒めに使うだけの野菜では断じてない。本当は違うんですよ。

剛のA面、柔のB面がある。

柔のB面(むしろA面かもしれないけれど)に出会うために絶好の一品を紹介したい。

にら豆腐。

じつは、この春、初めてつくってみた。

優しい優しい、うぶな味。

豆腐の無垢な味わいに、こんなにも優しくにらが寄り添うことに、私は本気で感動した。味つけは酒と塩だけ、鍋を火にかけたら3分以内でできる。でも、その3分の短さに大きな意味がある。ポイントは豆腐を煮過ぎない、にらに火を通し過ぎない。すると、ふわっと染み出たにらの上品なだしをキャッチできる。

【材料】(1人分)
にら1/3束 木綿豆腐1/2丁 水1/2カップ 酒小さじ1 塩少々 ごま油数滴

【作り方】
①にらを2ミリくらいの細かいみじん切りにする。

②豆腐を1センチ角くらいの細かい四角に切る。

③小鍋に豆腐、水、酒を入れて火にかけ、豆腐がふっくらしたらにらを入れて30秒ほど火を通し、塩で味を調える。

④うつわに盛り、ごま油を数滴たらす。

できるだけ細かく刻んで5分ほどそのまま置くと、にらの香りがふんわりと和らぎますよ。

GINZA2021年4月号掲載

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