1. トップ
  2. 恋愛
  3. 脳科学が解説、なぜ人は自分より優れた人が不幸になると喜びを感じるのか

脳科学が解説、なぜ人は自分より優れた人が不幸になると喜びを感じるのか

  • 2021.4.12
  • 663 views

知人の昇進や転職の報告を心から喜べない。そんな人も多いのではないでしょうか。脳科学が専門の細田千尋さんは、「反対に、(自分より)優れている点がたくさんある、と思っていた相手が自分より不幸になるほど、人は喜びを感じやすい」と指摘。どちらの場合も、それを恥じたり自分を責めたりする必要はないと言います。その理由とは――。

ミーティング
※写真はイメージです
「○○部長を拝命しました」友人の報告に感じるモヤモヤ

新年度を迎えると、「○○部長を拝命しました」「新しく○○になりました」という喜ばしいニュースをたくさん目にします。喜びに浸る人もいる一方、そんな身近なニュースを聞いて、落ち込む人も多いでしょう。

イギリスの哲学者でノーベル文学賞受賞者ラッセルが書いた『幸福論』のなかに、「他人と比較してものを考える習慣は、致命的な(よくない)習慣である」という一節があります。

子どもの頃は「他所は他所、うちはうち」と言われ、大人になってからは、SNSなどを見て一喜一憂しながら「人と比べても苦しいだけ」と自分に言い聞かせている人が多いのではないでしょうか。

人はなぜ、他人と自分を比べてしまうのか

一体なぜ人は、他の人と自分を比較してしまうのでしょうか?

他人と自分を比較する理由の一つは、自己評価のためです。

私たちは、社会生活に対して「適応」していく必要があります。適応的に社会生活を行うためには、自分の能力やおかれた環境・立場をよく知っていることが不可欠です。そこで、私たちは常に、「自分は果たして正しいのか?」「自分の能力はどの程度なのか?」ということを確認するために、他者と比較をしてしまう、と研究上説明され、これを社会的比較と呼びます。

この社会的比較をするときに、境遇、能力、見た目など自分と“似ている”人を選びます。なぜなら、自分と似た立場にいる他者と自分の考えや行動が一致すると、自分の意見の正確性や妥当性を感じやすくなり、その他多くの自分と類似した人びととの意見や能力との一致によって得られる“自分の確かさ”を得ることができるためです。

また、別の側面もあります。例えば、70点の評価をえた時、自分と同じカテゴリーに属している(と思っている)人が何点の評価をえたか比較できると、カテゴリー内での自分の能力がよりわかりやすくなり、自身の立ち位置や能力を客観的に知ることができます。

そのため類似他者との比較は、自己評価を行う際に非常に有意義であるという結論を出している研究も多くあります。つまり、ここでいう「自分と似た他人」と比べる社会比較は決してネガティブな現象ではなく、状況に適応するために必要なことだとされているのです。

「上方比較」は自分を高めることができる

他人と自分を比較するもう一つの理由は、自尊感情(自己肯定感)を高めることです。

嫉妬
※写真はイメージです

人と比較をするときには、自分よりやや優れた他者と比較する「上方比較」と、自分よりも不運・不幸な他者と比較することで、自分の慰めや幸福感を増やす「下方比較」が存在します。

上方比較については、自分より“少しだけ”優れた他者を比較の相手として選びます。これは、ライバル心をもやすことで、自身の向上につながるという良い側面を持ちます。

また、面白いことに、上方比較をする理由の一つに、人は、他者の優秀な成績を自分自身に結びつけて同一視する過程があるためだとする説も存在しています。例えば、身近に、エリート、美人、お金持ち、などがいることを誇らしく思っているような人の感情は、このような同一視の部分があるのかもしれません。

「下方比較」で幸福感・安心感をえる

自尊心を高めるための比較というと、よりわかりやすいのが、下方比較です。これは、自分より下、と思う相手と比較をし、自身が幸福感などを得るために行う比較です。中でも、(自分より)優れている点がたくさんある、と思っていた相手が自分より不幸になるほど喜びを感じやすく、その時他人の不幸を喜ぶ脳の状態になっていることも明らかにされています。

10年くらい前になりますが、日本で海外製の超高級スポーツカーが数台玉突き事故を起こした時、そのニュースは、世界中の人々に「悲劇」としつつも独特の感情をもたらし多くの皮肉ったジョークとともに報道されました。ここにもおそらく、スーパーカーに乗る優れた他人の不幸を喜ぶ感情があったのでしょう。

度を過ぎた下方比較の例としては、他人の不幸がたまたま目についたのではなく、他者をあえておとしめて不幸にすることによって、自分の主観的幸福感を高めるというものがあります。これらは中傷や、社会的偏見、敵意を含んだ攻撃行動、スケープゴート化といったような非社会的行動に結びつきます。

下方比較は、脳でも喜びの反応として示され、程度差はあれ、誰にでも起こりえる感情です。そのため、日常の中で人の不幸を聞いて少しホッとすることがあっても、その瞬間の自分を「本当に嫌なやつだな」と過度に卑下する必要はありません(もちろん、人の不幸を喜ばないでいられれば一番よいのですが)。とくに、研究では、重い病を抱えた人などは、より悪い状態と比較することで自身の心の安定、自尊感情などを保つことも示されおり、下方比較が一概に悪いものとして扱われていません。

一方で、日常的な人間関係の中で非常によく見られる度を過ぎた下方比較は、客観的な自分の立ち位置を知ることが目的ではなく、優劣をつけることで自尊感情を高めたい人によって行われやすいので、これが多くの人の悩みの種になります。では、どのような人が、優劣をつけるための比較を行う傾向にあるのでしょうか。

“自分がない人”ほど社会的比較をしがち

自分の内面や外見に注意を向けることを自己意識と言いますが、自己意識の中でも、自分の考えなどに基づいて自身への判断を下すことよりも「他者から見られる自分」に対して高い注意を払う人や、うつ傾向が高めの人ほど、他者との比較をしがちです。なぜなら、このような人たちは、自己概念が不安定(一般的に、自分がない、などと言われる)なため、比較をすることで初めて「自分は○○さんより××だ」として自己を確立し、それにより自尊感情を保つためだと考えられています。

つまり、自分がない(自己概念が不安定)人ほど、元来自尊感情も低く、人と比べて評価をすることでしか、自分の価値を見出せない(自尊感情を保てない)ということであり、「マウントを取る」と言われている現象の背景には、自尊感情の低い人による、下方比較を利用した自尊感情の保持があるのでしょう。うつ傾向が高めの人は、逆に上方比較による自尊感情の低下がありそうです。

ただし、日本人は全体的に、自己を他者から独立したものとして捉える西欧文化と比べ、人とのつながりや調和を大切と考える傾向があります。そのため、日本人は概して社会的比較志向が強くなっていることがわかっており、これが多くの人にとっての抜けられない悩みにつながっているのです。

人生の多くの時点で他者と比較を行っていることは、ほぼすべての人にとって経験的事実であり、程度差はあれ人種、性別、年齢を超えて普遍的に起こっていることだと思います。そして、それにより苦しんでいる人が多いことも事実ですが、比較の度合いが過ぎなければ、他者と比較することは、社会に適応していく上で、人にとって必要な機能でもあるのです。この時期は、昇進や入学などの身近な他者の喜ばしいニュースに心がざわつき焦りがちですが、日本では多くの人が同じ経験をしていることでしょう。必要以上に社会比較をすることなく、自分を認めることで、自尊感情を保つことが大切です。

<参考文献>
・Feinberg, M., Neiderhiser, J. M., Simmens, S., Reiss, D., & Hetherington, E.M.(2000).Sibling comparison of differential parental treatment in adolescence:Gender, self-esteem, and emotionality as mediators of the parenting-adjustment association. Child Development, 71, 1611-1628.
・Fenigstein, A., Scheier, M.F., & Buss, A. H.(1975).Public and private self-consciousness:Assessment and theory. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 43, 522-527.
・Festinger, L.(1954).A theory of social comparison processes. Human Relations, 7, 117-140.
・Baumeister, R. F.(1982). A self-presentational view of social phenomena. Psychological Bulletin, 91, 3-26
・Buunk, B. P., & Mussweiler, T.(2001).New directions in social comparison research. European Journal of Social Psychology, 31, 467-475.
・Wills, T. A.(1981).Downward comparison principles in social psychology. Psychological Bulletin, 90, 245-271.

細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
博士(医学)
東京大学大学院総合文化研究科研究員/科学技術振興機構さきがけ研究員/帝京大学医学部生理学講座助教。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科認知行動医学卒業後、英語学習による脳の可塑性研究を実施し、研究成果が多数のメディアに紹介。その研究をきっかけに、「目標達成できる人か?」を脳構造から判別するAIを作成し特許取得。現在は、プログラミング能力獲得と脳の関連性、 Virtual Realityを利用した学習法、恋愛と脳についても研究をしている。

元記事で読む
の記事をもっとみる