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吉沢亮「青天を衝け」8話。草なぎ剛VS岸谷五朗のピリピリバトルに息を飲む

  • 2021.4.11
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吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第8話。
サブタイトルは「栄一の祝言」となっていたものの、祝言はラスト5分で申し訳程度に行われていただけ。
実質、井伊直弼(岸谷五朗)と徳川慶喜(草なぎ剛)メイン回だった。

新解釈の井伊直弼&徳川慶喜

井伊直弼の一般的なイメージといえば、安政の大獄で対抗勢力を粛正して独裁政治を行った結果、桜田門外の変で殺された極悪大老といった感じじゃないだろうか。
幕末の志士たちに大きな影響を与えた吉田松陰が安政の大獄で処刑されていることもあり、おそらくこの極悪イメージは明治維新の勝者である長州藩、薩摩藩によって作られたものなのだろう。
近年の研究では、井伊直弼の行動は決して私利私欲からではなかったという説も出てきている。
本作ではそういった説を取り入れつつ、さらに独自の新解釈を加えた井伊直弼像を作りあげており、見応えがあった。

将軍・徳川家定(渡辺大知)も、定番の病弱&ボンクラといった要素は踏まえつつ、慶喜に対するコンプレックスと憎悪に満ちた闇の深い孤独な将軍として描かれている。
「将軍とは名ばかりで政はすべて蚊帳の外。誰もワシのことなど見ておらぬ。父上はどうであったかのう。父上が見ていたものは……」
自分がいるのにも関わらず、父・徳川家慶は世継ぎ候補として水戸藩から慶喜を迎え「水戸の壮健な体を持つそなたがこの一橋に入ったこと、何よりと思うておる!」なんて喜んでいた。
将軍になったらなったで、家臣たちは自分を無視して勝手に政治を進め、大して年の変わらない慶喜を世継ぎにしろと勧めてくる。
そりゃあ闇も深くなるってものだ。

かわいかった茶歌ポンが赤鬼に

井伊直弼は、従来の強権的なイメージとは大きく違う、小心者で分をわきまえた男として描かれていた。
陰口を叩かれても見て見ぬ振りをして「自分でも柄でないのは分かっておる」と納得。大老に任命してくれた家定に対しても、
「上様、このような大役は恐れ入ったことで。それがし自身はまだつたなく、みなの信を得ておりませぬ」
と、役職を辞退するようなことを言っている。
そんな直弼が「井伊の赤鬼」と化して安政の大獄を推し進めたのは、家定の境遇に対するシンパシーからではないだろうか。

井伊直弼も不遇の時期が長かった。
徳川家康による時代背景解説でも紹介されていたように、直弼は彦根藩主の十四男として生まれている。

跡を継いで藩主となれるのはひとりだけ(通常は長男)で、それ以外の男子は跡取りのいない家の養子になるか、世襲した兄から「捨て扶持」と呼ばれるわずかな生活費をもらって細々と暮らしていくしかない。十四男というのは普通だったら藩主になれるはずはない立場だ。

直弼も、延岡藩主の養子候補となったことがあるが、結果的に選ばれたのは弟・直恭で、直弼は彦根に帰国。「埋木舎(うもれぎのや)」と自ら名付けた屋敷にこもって茶道などに没頭し、長らく世捨て人状態の生活を送っていた。

埋もれたままで一生を終えるはずだった直弼だが、藩主を継いだ兄が子どもを作らないまま亡くなり、他の兄たちも早逝したり、既に他家へ養子に出たりしていたため、まさかの藩主の座が転がり込んでくる。
「埋木舎」時代には家臣から疎まれ、冷遇されていたようで、将軍であるにも関わらず政で蚊帳の外に置かれている家定の境遇に大いに同情したことだろう。
「慶喜を世継ぎにするのはイヤじゃ! 何としてもイヤじゃ!」
泣き出さんばかりの表情で訴える家定の言葉を受け、かわいく芋菓子を食っていた“茶家ポン”直弼の顔はグッと変わり、家定の願いを叶えるマシーンと化すのだ。

草なぎ剛と岸谷五朗のピリピリすぎるご対面

今回のハイライトは栄一の祝言……ではなく、やはり慶喜と直弼の対面だろう。
他の家臣たちがこぞって「将軍の世継ぎに」と担ぎ上げている慶喜と、家定の意を汲んで徳川慶福(磯村勇斗)を世継ぎにしようとしている直弼。当然ピリピリ感はハンパない。

問題は、幕府の使者が天皇の許可を得ないまま勝手に日米修好通商条約を調印してしまった件。直弼が書簡で朝廷に事後承認を得ようとしたのに対し、慶喜は書簡で軽々しく知らせて許されるはずがないと考えていた。

慶喜は「すぐにここ(一橋の屋敷)に参れと伝えよ」。直弼は「明朝ご登城いただければお目にかかります」と、会う前から早くもピリピリだ。

ただ、この「書簡でオッケーかどうか」という判断は、関ヶ原の戦いで井伊直政が一番槍を上げて以降、徳川家に大恩を受けてきた井伊家と、父・斉昭(竹中直人)から「徳川宗家に背くことはあっても、決して天子様に向かって弓を引くようなことはあってはならぬ」と言われて育った慶喜の認識の違いという気もする。
幕府の力が落ちてきている時期とはいえ、まだ実権は幕府が持っているわけで、朝廷に気を遣う必要はあるにしても、書簡で事後承諾を取ることがそこまで「けしからん!」ことなのかは判断が分かれるところだ。

慶喜自身も「朝廷を軽んじるにも程があるぞ!」と怒って見せてはいるものの、本気で直弼を叱責しているわけではなく、この件を尊皇攘夷クレイジーと化している父・斉昭が知ることによって、とんでもない行動を起こさないか心配してのことだったのだろう。
直弼が「早々に上京して弁解します」と謝罪すると、「私に謝ることではない。すべて徳川のためじゃ」とアッサリ許していた。

直弼最大の懸念材料であったお世継ぎ問題についても、
「そうか、いよいよ紀州殿(慶福)に決まったのだな。それは大慶至極ではないか!」
と世継ぎにこだわらない姿勢を見せて直弼を安堵させる。

徳川家定への忠義のため、去勢を張って様々な政策を推し進めてきた直弼と、“徳川家”のことを考えて大局的に物事を考えている慶喜。
格の違いを見せつけられた直弼も、慶喜に多少なりともリスペクトの気持ちを抱いたことだろう。

家定の呪いの言葉で安政の大獄スタート

これで済んでいれば丸く収まったはずだが、コンプレックス将軍・家定は呪いの言葉を残して死んでいく。
「水戸や越前をみな処分せよ。慶喜もじゃ!」
さすがの直弼も「慶喜まで処分しなくても……」と感情の揺らぎを見せていたが、結局もう一段階邪悪な顔に変貌して安政の大獄を断行していく。

唐突に「登城禁止」を申しつけられた時の慶喜の表情よ!
結婚当初、あれほど揉めてた美賀君(川栄李奈)とも仲良くなったようで、子どもも作り、膝枕をしてもらったりと、人間らしい表情も増えていた慶喜だが、久々の闇深能面フェイスに。

世継ぎ問題に片を付けて安心しつつも、父・斉昭の望みを絶ってしまったことへの後悔の念や、いくばくかの寂しさ。複雑な感情はありつつも、今後は「徳川のため」に将軍を支えていく決心をしていたのだろう。
押し付けがましい様子はなかったものの、多少は「直弼に花を持たせてやった」感もあっただろうに、すべて台無しにされてしまった形だ。

次回、「栄一と桜田門外の変」ということで井伊直弼が殺されることは既定路線。小心者の茶歌ポンからじょじょに赤鬼へと変貌していく様に引き込まれるキャラだけにもったいないが……。
しかし、すっかり忘れそうになるけど主人公は渋沢栄一! 慶喜周りのドラマを堪能したい人はNHKオンデマンドで配信中、本木雅弘主演の大河ドラマ『徳川慶喜』がオススメだ。

■北村ヂンのプロフィール
1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。

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