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誕生日とラブソング【彼氏の顔が覚えられません 第32話】

  • 2015.6.18
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頭にデカいウサギをかぶったカズヤと、キューピーなんてダサい肩書きが加わった子豚ちゃんマナミの演奏が始まる。二人の姿を見ただけでもう帰りたかったけど、まぁせめて一曲くらい聞いてあげようかと思ってとどまる。

…そうやって、きっと帰るタイミングを逃すんだろうなとも思った。なんだかんだで、こういうときマジメ過ぎるというか、要領わるい自分が不憫でならない。

ステージの照明が、青く涼しげな色に変わる。まさかいきなりバラード? と思ったら、そのまさかだった。しかも、聞いたことある曲。私が生まれた年くらいに流行った古い曲だけど…よく知っている。父親が生前よく歌っていたから。

なんで、よりにもよって。久々にその曲を聴いて、悔しいけれど心を揺さぶられてしまう自分がいる。父と一緒にいられた時間というのはそれほど長くはなかった。でもこれまでの人生、ずっと父親に影響され続けてきたから。

父が集めたカセットテープやマキシシングルは、mp3にしてぜんぶPCフォルダに保管されている。中高生のときに読んだ本も、父親の書斎に残っていた本。気になるやつは何冊か抜いて、一緒に上京してきた。あと実家で、三丁目のタマとか、自分が生まれるより前に流行ってたキャラクターのグッズをずっと大事にとってあるのもそう。

ぜんぶ、もういなくなってしまった父との思い出だから。いきなり一曲目から、178(イナバ)ライダーなんてフザけた名前で、バカみたいな格好しながら私の琴線に触れるような選曲してきて、いったいなんなんだ。

「先ほどの曲は、1995年に流行ったバラードでした。私たち、実は今年で、ぴっちぴちのハタチなんす! ってなわけで、今夜は私たちが生まれた95年当時の曲をお送りする予定です」

曲が終わり、MCを務めるマナミ。なるほど、そういうコンセプトなのか…だとしたら、終わりまで私の心が揺さぶられっぱなしかもしれない。やばい。泣いちゃったらどうしよう。

と、突然カズヤ、と言うかウサギ頭が、マナミの肩をぽんぽんと叩く。ウサギの口元に耳を近づけるマナミ。まるで内緒話をするように…って、実際、カズヤはなんも喋ってないんだろうけど。ただのわかりやすいフリだ。

「…えっ、なに、178(イナバ)ちゃん。おぉっ、なんと! みなさん、重大ニュースです! いまこの会場で、ちょうどこの日にハタチを迎えるお友達がいるそうです!」

えっ。ギクリとした。まさか…いや、そのまさかだろうな。

この日にハタチを迎えるのは、私だ。

「スペシャルサプラーイズ! なんとそのお友達に、178ちゃんが特別に、オリジナルソングを歌ってくれ…」

「…イズミ! 聴いてくれ! 俺がこの日のために用意したラブソングを!」

マナミの紹介もまだ途中なのに、いきなり立ち上がるウサギ。否、いまその着ぐるみを外す。ただのギターを持ったカズヤになる。

やばい。会場を出るなら、きっとこのタイミングだ。

イズミはにげだした。

…しかし、観客にまわりこまれた!

にげられない!

(つづく)

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(平原 学)

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