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【「オクトパスの神秘 海の賢者は語る」評論】タコと友だちになれるかな?→結論:なれます。でもその後待ち受けるのは…?

  • 2021.4.11
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【「オクトパスの神秘 海の賢者は語る」評論】タコと友だちになれるかな?→結論:なれます。でもその後待ち受けるのは…?

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「オクトパスの神秘 海の賢者は語る」

本年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞部門で受賞を最有力視されている本作を、「あ、Netflixで観られる」と軽い気持ちで視聴し始めたら、そこは、予想していたものとはまったく違う不思議な世界でした。

冒頭、中年男がいきなり重い身の上話を吐露しはじめます。長らく映像作家としてキャリアを積んできたこの男=クレイグですが、今では「心がすり減り、何日も眠れず、カメラや編集機材には手も触れたくない」ほどに疲れ果てているというのです。タコの生態や海の神秘を描くナショナルジオグラフィックな映画じゃない…? 最初の違和感が芽生えました。

癒やしを求めて海に潜るクレイグは、体中に貝殻をまとわせ擬態する警戒心の強い一匹のタコと出会います。クレイグは考えます。「毎日のように会いに行ったら、友だちになれるかな?」。人生に疲れた男の、この子供のような好奇心は、思えば再生への第一歩だったのかもしれません。

そして、我々は驚くべき光景を目撃することになります。タコは次第に警戒を解き、クレイグと心を通わせるのです。文字ではとてもこの驚きと感動を伝えきれないのですが、そのシーンを目撃したとき、何の誇張もなく「ええっ!?」という大声を上げていました。さらに驚くべきは、これがまだ映画がはじまって20分も経っていない段階で起きることだという事実です。その後には、もっとドラマチックな展開が待ち受けています。

クレイグはタコを“彼女”と呼んで、心の距離を近づけていきます。しかし一方で、自然の摂理のなかで生きる彼女とは明確な線を引き、その生活には決して立ち入らないことを心に誓います。彼女のことは好きだけど、エサをあげたりしないし、外敵から守ったりもしない。このポリシーが、やがて大きなドラマを引き起こすことになります。

この先で起こる出来事は本当に驚きの連続です。本編を観て大いに堪能してください。とてもドキュメンタリーとは思えないほど美しい奇跡の物語で、観る者の心を癒してくれます。これだけでも、この映画は観る価値のある傑作と認定していいでしょう。

ただ、もうひとつ、この映画のユニークな点を指摘したいのですが、ここから先はぜひ本編を鑑賞した後にお読みください。

カメラを持って海に潜るクレイグは、いつも第三者の視点から撮影されています。つまり、彼に随行するもうひとりのカメラマンがいます。おそらく、クレイグが撮りためた映像と、映画の製作が決まってからカメラマンによって撮影された映像を組み合わせて、あたかも同じタイムラインの出来事として編集しているのでしょう。

また、巨匠スピルバーグに顔がよく似たクレイグは、カメラの前でインタビューに答え、自身に起きた不思議な出来事を語ります。さらに、映画ではクレイグ自身によるモノローグもかぶさります。映画全体がクレイグ自身の回想によって構成されているのです。

これを、自然と人間の調和による美しい奇跡の物語と受け取るのか、はたまた人間の行き過ぎたエゴと受け取るのか―。そんな一面について考えてみるのも、この作品を楽しむ醍醐味のひとつかもしれません。

(オスカーノユクエ)

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