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飾る・聞く・見る・踊る!? 大人が楽しい、これからの“絵本”カルチャー

  • 2021.4.3
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読書を趣味とする人は多いかもしれないが、そのなかで絵本をよく読むという人は少ないはずだ。なぜなら絵本は子どものものというイメージがあるから。しかし世の中には、絵本を起点に世代を超えたエンターテインメントに広がった作品は意外と多い。最近だと、『えんとつ町のプペル』などがアニメ化され、大人にも愛されている国民的キャラクターへ成長している。いま何故大人たちは絵本に惹かれているのか。読むだけじゃないからね。

大人の絵本ファンが日本の絵本市場を支えている

大人になってから、こどもの頃見た絵本を開いてみると当時とはまた違った感動を覚えることがある。こどもでもわかるくらいのシンプルな言葉や比喩、イラストには、思春期を経てさまざまな経験を積んだ大人にしかわからない大切なことが表現されている。シンプルだからこそストレートなメッセージが私たちの心を突くのだろう。“絵本”のもつメッセージ性は昨今大人向けのコンテンツとしても注目されている。たとえば雑誌『暮らしの手帖』に絵本の付録がついてきたり、大人用の絵本サブスクサービスも流行っていたりする。立川の「PLAY! MUSUEM」では、日本でも人気の高い絵本作家エリック・カールやアーノルド・ローベルにフォーカスした展示を続けているが、足を運んでいる人たちの姿をみると、意外にも大人が多いことに驚く。

確かに、何かの拍子で過去に読んだ絵本を読み返すと、大切なことに気づかされたり、時に涙を流してしまうこともある。それが大人だからこそ味わえる“絵本体験”なのかもしれない。

日本の絵本市場を見てみると、出版業界の売り上げが減少傾向にあるなか、絵本は右肩上がり。これはこどもだけでなく、一定数の大人の読者からの支持があるからだとされている。大人が絵本を日常生活に取り入れるというカルチャーが少しずつ浸透してきていることがわかる。

ニジノ絵本屋のメンバーとして絵本パフォーマンスを担当するバンド「ザ ワースレス」の鷲見豪さん。Harumari Inc.

そんななか、絵本業界でも新しいムーブメントを作ろうとユニークな活動をしているのが、東京目黒区の都立大学にある「ニジノ絵本屋」。絵本屋という看板を掲げながら、本を販売することだけに留まらず、絵本の製作や出版、楽器を使った絵本のパフォーマンスまで、活動が多岐に渡っているのが特徴だ。

ごく小さなお店の中には、およそ100種類におよぶ厳選された絵本が並んでいる。セレクトされた絵本を見ていくと大型書店の絵本コーナーとは異なり、往年の名作的な絵本がないことに気づく。並んでいる絵本はすごくコアで通なものが多い。個性的なセレクトをする代表のいしいあやさんにその意図をうかがった。

「もともと、読み手と作り手の架橋になりたいというコンセプトからニジノ絵本屋と名付けたんです。なのでここに揃えている本も、ご縁のある作家や編集者さんの繋がりを大切にして取り揃えています。店頭に置いてある2割はニジノ絵本屋自身が製作に参画したものなんです。一部、イタリアで買付けをしてきた洋書も販売しています」
ジャンルはさまざまだが、すべての絵本が作り手と繋がっていたり、自社で手掛けたものだったりと、しっかりと選ばれているものであることがわかる。

自社レーベルの書籍や関わりのある作家さんの作品の他に、海外のインポートの絵本も販売されている。Harumari Inc.

「絵本屋という立場で話すと、飾っていてお洒落だったりインテリアとして成立するかというのが、ひとつの基準となっています。例えば、来客の際に片付けられる物として分類されないかどうかとか。そこは、出版社として本の製作に携わる際も重視しているポイントで、タイトルの文字入れや装丁などの見た目はかなりこだわっています」

ここに並べられている本は、本の判型やフォント、デザイン、質感などがこだわられており、美しいアートを見ているかのような気分になる。たとえ本の内容を見なくても、表紙から伝わってくる表現力に圧倒される。店内を鮮やかに彩っている絵本たちは、インテリアとして飾って部屋におきたい装丁の本が多く、アートポスターを飾る感覚で部屋に飾っている人がいることも納得できた。こういう絵本が増えていることも、大人が手にとりやすい理由といえそうだ。

ライブパフォーマンスで「人の輪」をつくる

絵本を読んだりインテリアとして飾るだけではなく、絵本パフォーマンスを通して人と繋がる場を提供しているのもニジノ絵本屋の特徴である。
誰かの声で語られる物語を “聴く”ことによって、自分が“読む”より記憶に残りやすい。その物語への印象や記憶が強く変わることもある。さらに音楽が加わり、バンドメンバーやお客さんと一緒に盛り上がることで物語の世界をより深く体感できるだろう。さらに参加者同士がみな仲良くなり新しいコミュニティーができていく。そんな老若男女問わず、笑顔の人の輪をつくっていけるのは、ライブパフォーマンスに適した物語づくりから参画している彼らしかできないことだ。
そんなニジノ絵本屋のパフォーマンスを一緒に作っているのが、鷲見さん率いるバンド「ザ ワースレス」だ。「うたうひげとおどるマリオネットのジャグバンド」というバンドのキャッチフレーズが象徴するように、マリオネットを動かしながら楽しい音楽を届けてくれる。サマーソニックやグリーンルームなどの大型フェスに出演経験があるほか、日本はもちろん海外でも演奏活動を行っている。2020年の夏フェスや海外での活動は中止を余儀なくされた。

読み聞かせで人の輪ができる

実際にパフォーマンスを行っている鷲見さんは、代表のいしいさんと出会ってから、どうすればよりいい形のパフォーマンスができるか、試行錯誤を重ねてきたのだという。
「いろいろ研究しましたね。全国に昔からいるような紙芝居をやっている方からは勉強になることが多かった。紙芝居をただ読むだけでなく、音楽に合わせて読み聞かせしている人がいたんですよ。昔から音楽と絵本は親和性があったんですね」

グリーンルームに出演したときの一コマ。Harumari Inc.

パフォーマンス集団として人気を博しているニジノ絵本屋は、その「現場での経験や研究」の知見を持っている。自社レーベルの本作りではその特性を活かした本づくりが行われているのだそう。

「手がける絵本は、読み聞かせできるかどうかを意識しながら物語を展開して、リズム感のある言葉選びを心がけています。ニジノ絵本屋で出版する本は、鷲見さんをはじめとするバンドの仲間が読み聞かせのステージを行うという一連の流れが決まっているので、本をつくる段階からかなりリアルに読み聞かせをイメージするんですよ。絵本の言葉選びは、音楽に乗せた時にどうなるかなどのリズム感を最も重視しているかもしれません」

店内には数週間ごとに入れ替わる作家さんの原画展を常に展示している。原画展はオープンより欠かさず続けてきたといしいさんは話す。Harumari Inc.

ニジノ絵本屋の絵本パフォーマンスを象徴するのがこちらの絵本「OPEN Jug band “TheWorthless”」だ。もちろん、ニジノ絵本屋が企画&出版を行ったもので、「ザ ワースレス」の楽曲が8曲も収録された、いわばCDアルバムのような絵本である。バンドメンバーがキャラクターとして登場するほか、絵本には各所にQRコードが潜んでいてスマートフォンでスキャンすることで音楽が聴けるという、今っぽい遊び心のある仕掛けが施されている。

OPEN Jug band “TheWorthless” 作TheWorthless 絵 かげやましゅん(ニジノ絵本屋)2,343円(税込価格)Harumari Inc.

確かに、こどもでも理解できるくらい短いシンプルな言葉とかわいい絵で表現する絵本は、年齢や国を超えたコミュニケーションツールになり得る。使い方や触れ合い方を変えるだけで、思いがけない発見を得ることができるのだ。大人になってから絵本に触れていないという人こそ、こどもっぽいという先入観は捨ててこのパフォーマンスが繰り広げる世界感に没入するのをおすすめする。

撮影:浦将志

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