1. トップ
  2. 『おちょやん』シズは篠原涼子だからこそ演じられるキャラクター 岡安再興の日は来るのか

『おちょやん』シズは篠原涼子だからこそ演じられるキャラクター 岡安再興の日は来るのか

  • 2021.4.2
  • 394 views
NHK連続テレビ小説『おちょやん』(写真提供=NHK)

今週、岡安最後の日を迎えたNHK連続テレビ小説『おちょやん』。そんな岡安の女将であり、千代の第二の母とも言えるシズを演じるのが篠原涼子。女性の強さと優しさを見事に演じ、ドラマを支える『おちょやん』での篠原涼子の演技を掘り下げてみたい。

篠原は、アイドルから転身した女優たちの中でも、近年もっとも大成した1人と言え、今やドラマに欠かせない役者として様々な作品に出演。中でもかっこよく、デキる女性を演じることが多く、『ハケンの品格』(日本テレビ系)のスーパー派遣社員・大前春子や、『アンフェア』シリーズのクールな刑事・雪平夏見など、自身の仕事に誇りと責任を持っているからこそ、相手が誰であろうと物事をとズバッと言う芯が通ったキャラクターの印象が強い。そうしたいわゆる“堅物”を愛すべきキャラクターにしてしまうところが、篠原の女優としての特異な部分だろう。

今回、杉咲花主演のNHK連続テレビ小説『おちょやん』で篠原が演じる岡田シズは、主人公・千代(杉咲花)が9歳の頃に、親に捨てられるように女中奉公に出された、道頓堀の芝居茶屋「岡安」を仕切る二代目女将。常に凛として仕事に対し厳しくも、家族を暖かく見守り、お茶子(芝居茶屋の女中)たちに慕われるカリスマ性もあり、大黒柱と言える頼れる存在という意味で、篠原のイメージにピッタリの役だ。

千代とのファーストコンタクトは、千代が岡安の前でお茶子とぶつかり「このどあほう! すかたん!」と啖呵を切る姿を見て、のれんの奥から「あほ! すかたんは、あんただす」と睨みつけるという最悪の出会い方。品格のない千代を気に入らず追い返そうとするが、店の主人で夫の宗助(名倉潤)や先代の女将・ハナ(宮田圭子)の説得もあって、渋々1カ月見習い期間を与えるシズ。その後も理由はなんであれ、頼んだ用事を果たすことができなかったことに対し「クビだす!」と言い放つ、できない人は足手まといと言わんばかりな仕事に対するシビアな態度は、『ハケンの品格』の春子を思い出す人が多かっただろう。ただこれは、自分も同じように若い頃から女中として働き、辛さを知っていることや、千代と同い年の娘がいる年齢で芝居茶屋を引き継いだ責任感からくる厳しさと、義理人情で成り立つ世界だからこそ、しっかりした人になってもらうという千代への愛情表現だということは重々理解できる。唯一、暖簾分けしたライバルの「福富」の女将・富川菊(いしのようこ)だけには丁々発止にやりあうところも、『ハケンの品格』で大泉洋だけは茶化していく姿と重なり、篠原ならではのユニークさも発揮されていた。

一度、千代を家族と認めたからには、毅然と守る姿が実に男前。千代の父・テルヲ(トータス松本)の借金取りが岡安に来た際に、あくまでも女将としての毅然な態度で謝罪し、千代から事の次第を聞き、変にリアクションをとるのではなく、全てを飲み込むように「話はわかりました」とだけ言って黙り込む姿。そして千代がみんなの力で借金取りから逃亡し、シズに自分が逃げた後の岡安を心配すると「見くびりなはんな! 大事おまへん」といつもの毅然な態度で一喝するも、千代が幸せになることが恩返しであり私の望みだと言い、「これは旅立ちだす。しんどなったらいつでも帰っておいで、あんたの家は岡安や!」「千代、気張るんやで!」と送り出す表情は、女将としての気高い顔と、旅立つ娘を心配する母親の顔の両方が入り混じる、毅然とした態度の奥に優しさがあふれる、シズというキャラの魅力が詰まった演技だ。その後に、借金取りにお金を渡し、今度道頓堀に姿を見せたらただではすまないと啖呵をきる姿は痛快で爽快。こちらも、篠原の真骨頂な演技を見せた瞬間だった。

このドラマには千代の師匠となる人物が数多く登場するが、大事なのが、流れ者が多い今作の中で、シズ並びに岡安は、“動くことがない場所”。千代にとっては、シズが第二の母親であり、岡安という帰る場所ができたことで、安心して自分のことを頑張れるようになっていった。だからこそ、この岡安があることで様々なエピソードが描かれる本作の土台がしっかり守られる。もはや『半沢直樹』(TBS系)の北大路欣也のような役者としての求心力が篠原にあることに改めて気づかされる。

しかし今週、戦争が始まり、そんな「岡安」を閉めることに。最後までシズは弱みを人前では見せず、長年勤めた女中たちに労いの言葉をかけ、気持ちを切り替えて「ちゃっちゃと行った」と追い出すように送り出し、ボソッと「芝居茶屋に湿っぽいのは似合わへん」と涙をこらえる。シズが涙を見せたのは、かつて修行していた時代に駆け落ち寸前にまでなった歌舞伎役者の早川延四郎(片岡松十郎)に、別れの再会を果たした後日、亡くなったことを聞いて「最後の最後にすっかり騙されてしもたがな」と涙をこぼしたとき以来だったように思う。相当悔しい思いもあるだろうが、逆らえない運命を受け入れる毅然とした態度が、やはりかっこいい。

ただここから、らしくない違和感を覚える。千代が劇団解散の不満をシズに告げると、ズは「辛くても思うことはできる」と、いつか岡安を再興してお茶子たちを呼び寄せたいと顔で語る。ここまではシズらしく志が高いと思わせたが、娘のみつえ(東野絢香)が疎開の説得にやって来ると、シズは1人で残ってここを守ると言い張る。状況を考えると危険でもあり、冷静なシズらしくない判断にも思える。それだけ岡安がシズにとって大事な場所で、戦争というものが、シズでさえもらしくない状態にしてしまうということかもしれない。

シズにとって自分の全てとも言えるこの場所を失ったときに、どんな演技を見せるのかはとても興味深い。公式インタビューで篠原は「“いくつになっても人って成長できるんだな”“子どもに教えてもらうこともあるんだな”と感じていただけるのではないでしょうか」と見どころを語っていたが(参照:篠原涼子さん「シズは本当にすごい女性だと思います」)、果たして誰がシズの固い心をほぐすのか。本作では篠原が得意とする頼れるクールさとユーモアが女将という役柄で見事にハマっているからこそ、今後の演技に注目したい。 (文=本 手)

元記事で読む