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スマホカメラじゃ満足できない? 若い女性が今も「手鏡」を持ち歩くワケ

  • 2021.3.29
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平成の女子高生アイテムといえば、ルーズソックスやミニスカート、そしてブランドのロゴが大きく印字された「ミラー」でした。彼女たちはなぜあれほどミラーを大事にしたのか、そのカルチャーは令和の現在どう変化したのか。平成ガールズカルチャー研究家のTajimaxさんが変遷をひも解きます。

みんな持っていた必須アイテム

90年代を代表とする当時の流行アイテムのひとつとして「LOVE BOAT」のミラーは今でもよくメディアで取り上げられます。

筆者と同世代で90年代に青春時代を過ごした人ならば、一度はLOVE BOATミラーを見たことはあるのではないでしょうか?

LOVE BOAT以外にも、100円ショップやソニプラ(現プラザ)で販売している大きなミラーの背面にプリクラを貼ったり、雑誌の付録でミラーが流行(はや)ったりと、90~00年代の流行はミラーとともにあったように思います。

今回は現代と90~00年代のミラー文化を入り口に、「自分自身を映し出すもの」が持つ機能と意味合いの変遷についてひも解いていきたいと思います。

女子高生の文明開化時代

女子高生がより元気になっていき、インスタントカメラ文化やプリクラ文化が生まれて活性化した90年代、メイク直しはもちろん放課後時間に向けて身だしなみを整えるアイテムとしてミラーは重宝されました。

当時、歌手の安室奈美恵さんを真似した「細眉」や、黒ファンデに白のアイライナーといったギャルメイクが流行したこともあり、若い女性たちのメイクに対する関心は非常に高まっていました。

ミラーが、どの子の鞄の中にも必ずある定番アイテムとなったのには、こうした背景もあったと言えるでしょう。

渋谷系・原宿系からヒット多数

特にSHIBUYA109(渋谷区道玄坂)の顔とも言われたアパレルブランド「LOVE BOAT」から発祥したロゴ入りのLOVE BOATミラーは、90年代を代表とするアイテムとして私たちの記憶に残りました。

初期の、黒地に白抜きのロゴのただ「LOVE BOAT」と書いてある定番のミラーだけでなく、さまざまなデザインバリエーションのミラーは当時の女子高生にとって流行アイテムのひとつとなります。

それより少し前の90年代前半から90年代中期も、キティちゃんなどのキャラものや、ブランドでは「MARY QUANT(マリークヮント)」などの流行ミラーがありました。しかし、一辺が十数センチという大きなサイズ感やロゴのインパクト、そして女子高生たちの所持率からみて、「LOVE BOAT」は時代を象徴するアイテムとして人々の記憶に残りやすかったのだと思います。

筆者が所蔵するLOVE BOATなどの「ギャルミラー」(画像:Tajimax)

以前、アーバンライフメトロに寄稿したショッパー文化の記事(2021年2月21日配信「ムラスポ、アルバ……懐かしの『ショップ袋』ブーム」)同様、このLOVE BOATミラーの人気を皮切りに、SHIBUYA109系のアパレルブランドから数多くのミラーがノベルティーやグッズとして販売されていきます。

また109系のギャルブランド以外にも、「文化屋雑貨店」や「SUPER LOVERS」「SWIMMER」といった、いわゆる原宿系ブランドのミラーも販売、こちらも人気を博します。

それらは、鏡という機能性・実用性を持った道具としてだけでなく、持つ人の「個性」「好きなもの」をアピールするアイテムとしての意味合いも色濃く表れていました。

雑誌の付録ミラーの台頭

00年代に入っても引き続き、ミラー文化は継続されていていますが、かつてのLOVE BOATミラーほどの所持率やこだわりは減っていったように思われます。

そして2010(平成22)年頃になるにつれて、今度は雑誌の付録としてのミラーが再び注目を集めます。

特に『Scawaii!』(主婦の友社)の付録の「moussy(マウジー)」のチョコレート型ミラーは、ビジュアルのかわいさはもちろんのこと、斬新なアイデア、当時まだ珍しかった雑誌の付録と人気ブランドとのコラボという特別感も相まって大ヒット。

筆者が所蔵する雑誌の付録ミラー(画像:Tajimax)

この「雑誌付録」の文化は現代も続き、OLファッションの鉄板『美人百花』(角川春樹事務所)、ストリートファッション定番の『mini』(宝島社)、大人かわいいファッションの代表の『sweet』(宝島社)……など、世代やファッションの系統関係なく、今日まで続く人気を確立しました。むしろ、今では雑誌には付録があって当たり前というような状況になっています。

とりわけミラーに関しては、小さなコンパクトタイプのものが雑誌の付録についていることが多いという印象。今でも雑誌の付録の中では人気アイテムのひとつに数えられるのではないでしょうか?

スマホ登場で変わるミラー文化

そんなミラー文化も、2008(平成20)年にiPhoneのスマホが日本に登場して以降、徐々に進化してきているように筆者は感じます。

スマホアプリやカメラ機能の進化によって、「自撮り文化」は年齢性別を問わず定番化しました。

自撮りに使うインカメラ機能の「ミラーモード」はまさに今の自分を映し出しミラーの役割を果たしてくれます。

プリクラやインスタントカメラを用いた写真・画像を介するコミュニケーション文化はSNSへと移行し、携帯電話での撮影も、ガラケーの「記録として撮る」という行為からスマホの「魅せて撮る」ものへと変化しました。

そして同時に、撮った写真は小さなコミュニティー内での共有から、ネットを通じてより多くの人と共有できるようになります。

かつてプリクラやインスタントカメラで撮影する前に自分の見栄えをチェックするため取り出していたミラーの役割も、スマホ1台で十分事足りるようになりました。

以前のような大きな鏡を持ち出し、自分の顔の細部まで事細かく確認しなくても、スマホなら加工フィルターがかかった「顔面の調子の良い」状態で自分を確認することができます。

このスマホが登場し、SNSが主流となってきた時期と重なるように、女性たちが所有するミラーもよりコンパクトなサイズのタイプが定番化してきたように筆者は感じます。

鏡に付加された新たな価値と機能

雑誌付録のミラー以外でも、現在はさまざまなミラーが登場しました。

「女優ミラー」とも呼ばれるLEDライトで囲まれたコンパクトタイプのミラーや、拡大鏡という高倍率で自分の顔をすみずみまでチェックできるミラーなど、コンパクトタイプで自撮り文化に特化したアイテムが増えています。

それらの仕様が以前のミラーとは異なるのも特徴的。ただ自分の顔を映すだけではなく、スマホで「盛った」状態の自分を眺めてみたり、また逆に拡大鏡で自分を厳しくチェックしたりと、さまざまです。

このように鏡は、単に「自分自身を映し出すもの」という意味を超えた新たな機能や価値を獲得してきました。

近年のミラー文化で筆者が特に興味深く思うのが「ビジュアル面」と「機能性」とで求めるものが行ったり来たりしているように見られる点です。

現代でも人気の「ANNA SUI(アナスイ)」や「JILL」といったコスメブランドが販売しているミラー、その少し前に流行った造花で飾った楽屋ミラーやスワロフスキーのデコミラーは、とてもデコラティブでビジュアル重視です。

90年代のLOVE BOATミラーのようなブランド重視の既存ミラーと似た理由でデコラティブなミラーにも魅了されたり、JILLのミラーに関しては「モテる」というジンクスもあったりと、ある種の情緒的な良さでそれらを選んでいる印象を受けます。

その一方で、LEDライトミラーや拡大鏡で「自分を確認する機能」に重点を置く向きも加速するなど、ミラーに求めるものが変化し続けているのが興味深い点と言えるでしょう。

鏡は「その日の気分」も映すもの

デジタルで見る顔と鏡で見る顔は、少し違って見えます。

スマホアプリの設定を自分好みの顔が表示されるよう選択してしまえば、加工という名の“魔法”がかかり、ルックスに自信のない筆者でもデジタルで見る顔はほんの少しだけ好きになれます。

ですがその半面、持ち物として選ぶミラーなら、気分が上がるデコラティブな鏡も大好きです。鏡は自分の顔を確認するためのものですが、同時に「その日の気分」も確認するものだと筆者は考えます。

気分やコンディション、さまざまなものが相まって鏡に映し出されるような気がするのです。

鏡の機能性とビジュアル性……私たちにはどちらの要素も必要なのかもしれません。

Tajimax(平成ガールズカルチャー研究家)

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