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おうちジム、スマホ旅行…「コロナ後も生き残るサービスと消えるもの」の決定的違い

  • 2021.3.25
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おうちジムやおうちキャンプ、スマホで世界旅行……コロナ禍によって、これまで考えられなかったようなサービスや商品が誕生しています。これらのうち、コロナ後も生き残るサービスの条件とは――。

おうちでパスチモッタナーサナのポーズをとる女性
※写真はイメージです
「おうち○○」にはマーケティングのヒントがある

こんにちは、桶谷功です。

2020年4月の緊急事態宣言以降、すっかりおなじみになったのが、広告やPOP、記事の見出しなどで使われる「おうち時間」「おうちカフェ」「おうちごはん」など、「おうち○○」という言葉でしょう。

実はこの「おうち○○」という言葉には、商品やサービスのコンセプトをつくるときに使えるセオリーが潜んでいます。

よく見ると「おうち○○」というフレーズには、2パターンがあることにお気づきでしょうか。ひとつめは「おうち時間」「おうちご飯」など、「家にいる時間」「家でとる食事」を今風に言い換えたもの。言い換えることで、ちょっと強調した感じになり、より印象的です。

矛盾のある組み合わせから新しいものが生れる

ふたつめが「矛盾」です。意外な組み合わせと言ってもいいでしょう。「平常時なら家ではやらないことだけれど、コロナの今だから試してみよう」というようなもの。

例えば「おうち外食」。

「外で食べるから外食なのに、おうちで外食って、どういうこと?」

と思いますが、テイクアウトやデリバリーサービスを利用してレストランの味を家で楽しんだり、チェーン店の人気メニューを家で再現したりすることを指すようです。つまり「矛盾」を埋めようとすることで、新しい商品やサービスが生まれるのです。

「おうちキャンプ」というものもあります。「キャンプはアウトドアでするものでしょう。おかしいじゃん」と思いますが、アウトドア業界は「庭やベランダでテントを張ってみよう」「アウトドアウエアを室内着にしてみよう」などと提案している。

実はイノベーションを生み出そうとしたり、強いブランドをつくろうとするときに、最初から矛盾のある組み合わせを考えるのは、われわれマーケターのセオリーのひとつです。

「この矛盾を満たすには、どんな方法があるのか」を頭をひねって考えることで、まったく新しい商品やサービスが生み出される。

いまはそれが自然に次々と生み出されているというすごい状況なのです。

「制約」はイノベーションの源

ジムには通えない。でも体を動かしたい。そこで室内で使える運動器具とフィットネスを指導したりする動画を使った「おうちジム」。あるいは「おうちオフィス」。リモートワークに対応するため、家の一角に机や椅子を置き、仕事がしやすいように整える。「おうち学校」「おうち留学」はオンラインでの学習指導、「おうち病院」はオンライン診療など。

基本的にアイデアというのは、まったくの無から生まれるものではなく、関係のないもの同士を組み合わせたときに生まれます。すでにあるもの同士を組み合わせるだけでも、それが意外な組み合わせであれば、新しいものが生まれる。

しかしこれが、平常時にはなかなかできません。

「おうち外食って何? わざわざ家で作らなくても、レストランに食べに行けばいいじゃない」
「おうちオフィスなんて、仕事に集中できないでしょう」

と片付けられてしまう。

ところが今は、家にいなければならないという制約がある。この制約のおかげで、普段だったら「矛盾しているニーズってどこにあるんだろう」と探さなくてはいけなかったのが、そこらじゅうで見つかる。ということは、自然とイノベーションが生まれやすい環境にあるといえます。

多肉植物とカプチーノに、ステイホームの看板
※写真はイメージです
新しいものを定着させるには、“本家”を凌駕すること

矛盾した組み合わせを現実のものにするときのポイントは、元のものよりもいいものにするのがポイントです。

「これしかないから仕方なく」というものは、コロナが収束したら元に戻ってしまうでしょう。いっぽう、「これ、元のものより、よくなったじゃん」というものはコロナが終わっても続いていくと思います。

アメリカで大ヒットしている在宅フィットネスの「Peloton(ペロトン)」というものがあります。20万~30万円くらいで運動のマシンを買うと、ソフトウエアもついてくる。それをインターネットにつなぐと、普通はなかなか一対一対応してくれない人気のインストラクターの指導が受けられて、仲間も次々画面に出てくるので、世間話をしながら運動ができるというものです。

「いままでジムで黙々と運動してたのって何だったんだろうね」

というぐらい楽しい。コロナが終息してジムがオープンしても、「こっちのほうが楽しいから、これを続けます」ということになるのではないでしょうか。

いまは「密」を避けるために、「バーチャル学園祭」「バーチャル渋谷」「スマホで世界旅行」なども生み出されています。これも、リアル以上にどれだけ楽しくできるかが問われている。代替品では駄目で、それ以上のものを提供することが大事になってくるでしょう。

相反する欲求を同時に満たすことでヒット商品が生まれる

人間はわがままなので、矛盾したニーズを持つものです。

矛盾にはいろいろなパターンがあります。たとえば「やりたいけれど、続かない」というライザップ型。心の葛藤型といえるかもしれません。

あるいは、相反する要素のどちらかを立てればどちらかが立たないというトレードオフ型もあります。

しかしその矛盾を解消し、相反する欲求を同時に満たすことができたならば、必ずヒット商品が生まれます。

一番搾りの糖質ゼロは、おいしいビールに含まれる糖質をカットしたことで、味と健康のトレードオフを両立させました。頭痛薬のバファリンの「早く効いて胃にやさしい」もトレードオフでしょう。

考えてみたら、軽自動車というのもそうです。

「運転が苦手な私には、小さくて運転しやすい、かわいいクルマがいい。でも、実際使うときは広くて荷物をたっぷり詰めたいし、広くないと乗り心地が悪い」

というわがままを、背の高いワゴン型にすることでかなえています。

iPhoneも電話と銘打っていますが、本質は小型コンピューターです。重くて持ち歩けないコンピューターをポケットに入れて持ち歩けるようにして、世界的なヒットとなりました。

フリクションペンはヨーロッパで生まれた

また、ボールペンなのに消せる「フリクションペン」。これは、インクの色が変わる技術を応用したものです。インクの色を変えられるという技術を知ったパイロット・コーポレーション・オブ・ヨーロッパの社長が、

「このインクの色を変える技術を使って、インクを透明にできないか」と発想した。

なぜならヨーロッパの人たちにとって鉛筆は絵を描くものなので、学習では小学生でも万年筆かボールペンを使います。だから間違えた字を修正するのが大変。それでインクを透明にすることでヨーロッパで大ヒットし、逆輸入されたといういきさつがあります。

さらには体に触れなくても体温が測れる赤外線体温計など、矛盾を解決することでイノベーションを起こした商品は枚挙にいとまがありません。

ぜひとも「おうち○○」の考え方を応用して、新しいニーズを探ってみてください。

桶谷 功(おけたに・いさお)
株式会社インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っている。

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