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無気力から一転 ひきこもり長男が「家計簿」「自炊」で取り戻した生きる力

  • 2021.3.29
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ひきこもりの長男、少しずつ自信を取り戻して…(写真はイメージ)
ひきこもりの長男、少しずつ自信を取り戻して…(写真はイメージ)

筆者はひきこもりの人やその家族に対する支援を行っており、以前、40代のひきこもりの息子(長男)を持つある母親から相談を受けました。母親によると、長男は20代の頃に職場でいじめや嫌がらせを受けたことで自信を失い、家にひきこもるようになりました。相談当時は両親との関係があまりよくありませんでしたが、筆者のアドバイスを元に行動を起こすことで、少しずつ自信を取り戻していきました。

「親子で家計管理」が自信に

筆者は相談終了後もご家族が望めば、定期的に情報交換をすることにしています。ある日、先述の40代ひきこもりの長男を持つ母親から、次のような報告を受けました。

「以前、先生にアドバイスいただいた『親子で家計管理(簡単な家計簿をつけてみる)』ですが、相談後にアドバイスを長男に伝えたところ、その気になってくれて、現在も家計管理は続けています。目標もなく、何もすることがなかった当時は親子の会話もほとんどありませんでしたが、今は共通の話題ができたので、長男とよく話をするようになりました」

「それは、よかったですね。何かに集中できるものがあると気分転換にもなりますし、会話することで心の中のモヤモヤも少しは晴れると思います」

「そうですね。以前に比べ、長男も少しは元気になったように感じられます。実は家計管理を続けることで自信がついたのか、長男から、『次にやることを先生に聞いてきてほしい』と言われました。何か長男にできそうなことはありますか?」

長男は無職なので、本当なら就労に関する話もしてみたいところです。そこで、筆者は念のため、母親に聞きました。

「例えば、『就労支援を受けて仕事を再開する』ということは今も厳しそうですかね?」

母親はしばらく考え込んだ後、ゆっくりとした口調で答えました。

「やはり難しいと思います。長男は仕事のことを考えるだけで当時のつらかった状況が想起され、パニックになってしまいますので…」

長男は人間関係でつまずきやすい傾向にあったようで、今まで、さまざまな職場でつらい経験を重ねてきました。会話のキャッチボールが苦手で相手の求めている返答をすることが難しく、その結果、相手をイライラさせてしまい、いじめや嫌がらせの標的にされてしまうこともありました。そのようなことが続いたためか、長男はいつしか、家にひきこもるようになっていたのです。

「せっかく長男がやる気になったので、さらに何かを始めて自信をつけてほしい」

そう思った筆者は母親に、ある提案をしました。

未経験の料理にチャレンジ

「それでは、自炊はどうでしょうか? 私が今までご相談を受けたご家族の中にも、親亡き後を見据えて自炊をしているお子さんは結構いますよ」

「自炊ですか。長男は包丁も使ったことはありませんし、果たしてできるかどうか…」

「息子さんができるところからで構いません。例えば、『炊飯器を使って米を炊く』『お母さまの食事作りのお手伝いをする』、そのようなところから始めてみてはいかがでしょうか?」

「そうですね。そのくらいなら、長男にもできそうです」

「食材が切れるようになったら、次はカレーにチャレンジしてみるとよいと思います。ポイントは『できるだけ手間をかけずに』です。食材はタマネギ、ニンジン、豚肉で十分。切った食材をそのまま鍋に入れて、中火で20分も煮れば火も通ります」

「煮る前に食材を炒めなくてもよいのですか?」

母親は少し驚いた様子でそう聞きました。

「全然大丈夫です。私もそのような作り方ですが、十分おいしくできますよ。カレーが作れるようになったら、レパートリーも広がります。タマネギ、ニンジン、豚肉の3つをベースにして、シチューのルーを入れればシチューに、和風だしとみそで豚汁にもなります。しょうゆとみりんで味付けし、ジャガイモを入れれば肉じゃがです。キムチと豆腐、和風だしとコチュジャンを入れればスンドゥブ風にもなります。慣れてくれば、いろいろな食材を入れたくなって、料理を楽しむようになるかもしれません」

「そうなるとよいですね。先生も自分で料理をしていると聞けば、長男もチャレンジしてくれると思います。早速、長男にも伝えてみます」

母親はそう言いました。

再び母親から連絡が…

母親とのやりとりから2カ月がたった頃、再び、母親から連絡がありました。筆者の提案を受け入れた長男は、自炊にもチャレンジするようになったそうです。まずは母親の横で料理を手伝うことからスタート。横で見ていた母親は、長男が包丁で手を切ってしまわないかひやひやしたそうですが、それでも何とか、いろいろな食材を切れるようにまでなりました。

ある程度のスキルを身に付けた長男は1人でカレーを作り、両親に振る舞ったそうです。両親から、「とてもおいしい。よくできたね」と褒められ、少し照れながらもうれしそうにしていたとのことです。そのことがきっかけで、長男は「自分の目で食材を選びたい」と言いだし、母親と一緒にスーパーに買い出しに行くようにもなりました。外出する機会も増え、気分転換にもなっているようです。

母親は最後に次のように締めくくりました。

「今までの長男は無気力で表情も乏しかったのですが、家計簿をつけたり、料理をしたりするようになって、少しずつ、生きる力を取り戻しつつあるように感じます。どうやら、先生のアドバイスは素直に聞いてくれるようなので、これからもどうぞよろしくお願いいたします」

母親の報告から、自信を取り戻しつつある長男の様子が伝わってきて、筆者はうれしく思いました。

社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也

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