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異動、転勤…大きな変化で「絶不調」になる人と「平常心」を保てる人は何が違うか

  • 2021.3.22
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春は新しい職場に移ったり、住む場所が変わったり、何かと環境の変化の大きい季節。変化の大きさゆえに体がついていかず、心身の不調が出る人も多い一方、平常心で淡々とやりこなせる人もいます。この二つをわけるものは、いったい何でしょうか。精神科医であり産業医としても活躍する井上智介さんに聞きました――。

女性
※写真はイメージです
春は心身の不調を訴える人が増える

異動や転勤で職場環境が大きく変わる3月、4月。新卒者は新生活がスタートします。環境が変わると、仕事内容も人間関係もがらっと変わります。またプライベートでも、心機一転、いろいろな資格に挑戦しよう、新しい趣味を始めようという気持ちになる人も多いでしょう。仕事にしろ、プライベートにしろ、それだけ変化が大きいと、心身の調子をくずして、僕のところに相談に見える方も多くなります。

「慣れない環境で頑張っているけれど、人間関係がうまくいかない」
「新しい仕事を始めたけれど、思うように進まない」
「スケジュールを詰めすぎて、いつも何かに追われている気がする」

そういった精神的なしんどさに加えて、全身がだるい、昼間はずっと眠い、イライラする、肩がこる……、体の不調を訴える人もいますね。

相談に来るのは圧倒的に女性が多い

相談に見える方は、圧倒的に女性が多いですね。30~40代を中心に、20代の新入社員の方もいます。女性のほうが多いのは、やはり男性よりも「人に相談する」ことに対する抵抗感が少ないからでしょう。男性は、なかなか自分の弱さをさらけ出すのが苦手です。人に相談すること自体、非常にハードルが高い。だからこそ、僕のところに届いたときには、深刻になっているケースが多いです。

「春の不調」を感じる人に産業医が伝えること3つ

初期症状としては、体がだるい、頭痛がする、胃が痛いなど、何かしら体の変化があります。なんだか調子が悪くて、内科に診てもらったけれど、何もなくて精神科をすすめられたという流れですね。

患者
※写真はイメージです

症状が重篤であれば、専門医に診てもらい、薬物治療を受けることをすすめますが、生活指導まではしてくれません。ですから僕たち産業医は、主に病院ではできない生活指導をすることになります。

そのときにお話しするのは、次のようなことです。

(1)良いこともストレスになる

そもそも人は変化自体をストレスと感じるので、栄転や結婚など、一般的に良いと言われることも実はストレスになります。周りから「おめでとう」「いいところに入ったね」と言われると、ますますしんどいと言える雰囲気ではなくなり、自分の中でどんどんストレスが溜まっていきます。でも、どんなことでも変化があると誰でもストレスになります。それを知っているだけで、気持ちが楽になるのではないでしょうか。

(2)季節の変わり目は体調をくずしやすい

春は寒暖差の大きい時期。人の体は、そういった気温の変化に対応させるために、交感神経が活発に働きますから、なかなか寝つけない、眠りが浅い、目の覚める回数が増えるなど、睡眠に影響が出てきます。だからこそ日中に体がだるかったり、イライラしたりするわけですが、そういった症状も、この時期には仕方ないこと、一時のことだととらえることが大切です。

(3)スローペースでスタートする

新しい年度の始まりにあたり、やる気に満ち溢れた人を見ると焦りを感じることもあるでしょう。けれど誰しもストレスを抱え込みやすい時期だからこそ、周囲に影響されてガツガツするのではなく、意識的にスローペースで前に進むことが大事です。心がけてほしいのは、いつも以上に積極的にリラックスする時間をとること。おふろはシャワーですまさず湯ぶねに入る、寝る1時間前はスマホからはなれて好きな音楽や香りを楽しむ、家では落ち着いた時間を過ごすことを意識してほしいですね。

頑張りすぎている自分に気づいたときは、この3つのことを思い出してください。そのまま突っ走ると、5月病に発展しかねません。まず生活リズムをととのえて、健康第一にやっていくことが大切になります。

どこからお化けが出るかわかればこわくない

ただし、こういう大きい変化の時期にあっても、周りのペースに巻き込まれず、平常心でいられる人がいます。こういう人たちに共通する特徴は、新しい環境へのイメージトレーニングができること。よくたとえられるのが「お化け屋敷」です。

ご存知の通り、お化け屋敷は、どこからお化けが出てくるかわからないからこわい。でも逆に、ここから出ますよ、というのを知っていれば、こわさがあっても、だいぶましになります。

ですから、新しい環境に入るときも、事前にどういうことが起こるかイメージして、心の準備をしておけば、そこでかかるストレスが減らせます。重要なのは、ここからお化けが出ますよ、という情報ですが、平常心でいられる人は、そういう情報を集める努力ができる人なのです。

平常心は気質ではなく、努力で得られる

新しい会社や新しい部署に入る前に、自分にくる仕事を予測して、周りから聞いたり、勉強したりする。見ることも大事ですから、新しい上司の姿を遠くから見たり、写真でチェックしたりしておく。厳しいと評判の上司でも、実際に見ると「意外に威圧感はないな」と自分なりの感覚をつかめるものです。内示が出た段階で、新しい部署に挨拶に行くのも、ゆくゆくはプラスに働くでしょう。

とにかく変化後のイメージがつくりあげられる情報が多ければ多くほど、変化に強くなります。事前にそういった準備をしておけば、いざというときに平常心を保つことができます。平常心というのは、気質ではなく、努力によって得られると知っておきましょう。

それでも、意に沿わない異動などで、なかなか平常心でいられないこともあります。

そんなときは、目の前の仕事だけでなく、生活全体から価値を見出すようにしましょう。たとえば部署が変わって、前ほどやりがいのある仕事ではなくなったけれど、時間に余裕ができて、読書を楽しめるようになった、あるいは子どもと過ごす時間が増えてよかったなど、生活に焦点をあてる。この環境の変化が、自分の生活にどうポジティブに働いているだろうと視点を変えると、また違った価値が見出せて、平常心を取り戻すことができるのです。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務

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