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「男性担当者を出せ」理不尽な電話対応の日々、顧客にもらった忘れられない言葉

  • 2021.3.19
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ビオフェルミン製薬に務める山下明子さんは入社以来、ずっと東京支店勤務だ。が、上司も部下も神戸本社勤務のため、山下さんは入社以来、マネジメントイコール「リモートマネジメント」な環境で、指導され、指導し、働いてきたという。コロナ渦でリモートマネジメントをせざるを得なくなり、部下の様子が見えないことに悩む管理職は多いが、山下さんの場合は、むしろコミュニケーションが円滑になったそうだ。今、山下さんが心がける部下とのコミュニケーション法とは?

薬学部を卒業後、2001年に入社
ビオフェルミン製薬 学術情報グループ 副主事 山下明子さん
ビオフェルミン製薬 学術情報グループ 副主事 山下明子さん

「人にはヒトの乳酸菌」でおなじみのビオフェルミン製薬に山下明子さんが入社したのは2001年。大学の薬学部で学び、恩師の勧めで受験したのだが、「恥ずかしながら、うちの会社の存在をまったく知らなくて。製品は知っていたし、CMもよく見ていたのですが」と明かす。

実は今年で創業104年になる老舗の製薬会社だ。1917年に神戸で日本国内初の乳酸菌整腸薬を製造。以来、各種の乳酸菌やビフィズス菌を活かした医薬品、栄養補助食品等を販売してきた。その会社で、山下さんは東京支店(現・東日本支店)へ配属になる。営業事務を担う部署で、メインの業務は顧客電話対応だった。

「一般の方からの問い合わせは基本的に弊社の製品に関するものでした。『自分は下痢がひどいのでこういう時に飲んでいいのか』とか、処方量やタイミングなど、薬の飲み方が多いですね。たまに世間話をされる方、ご自身の人生相談のような内容もありましたけれど」

仕事に向き合う気持ちが変わった、顧客からの教え

製品については勉強していたが、相手の顔が見えない電話対応ではとまどうことも度々あった。受話器を取った途端、「女は替われ、男性の担当を出せ」と頭ごなしに言われたり、なぜか急に怒り出す人がいたり、そんなことが続くと「電話に出たくない……」とストレスもつのる。製品に対するクレームがあれば、会社のマイナスイメージにつながるだけに、細心の注意を払って対応する。そんな日々の中で顧客から教えられたことがあった。

「最初は私も回答内容に自信を持ちきれないところがあって、つい不安から『~だと思います』と答えがちでした。すると『そういう言い方はやめた方がいい』とお叱りを受けたのです。それでは聞いている側も安心できない。『わからないことはわからないで良い。後で調べて折り返せばいいんだから』と。曖昧な回答はよけい混乱を招くから、注意した方が良いというご指摘をいただいたのです。そこから自分も仕事と向き合う気持ちが変わったような気がしますね」

年に数回は一般の人やドラッグストアなどの従業員に製品を紹介する機会もあった。そこで説明する際には、いかに相手に正しい情報をわかりやすく伝えられるかを考える。自社の製品をきちんと知ってもらったうえで、その人にとっていちばん合うものを飲んでもらいたいという思いがより強くなったという。

都内で開かれた勉強会で。思いがけずかけられたうれしい言葉

一方、自社の営業体制も強化が進むなか、2016年には新設のプロダクトマネジメント室へ配属された。医学関係の学会で展示をしたり、各地の医師を訪ねたりする機会が増え、日本全国を飛び回る。製薬会社には医療従事者に医薬品の有効性や安全性などに関する情報を伝えるMRがいて、彼らをサポートする資料も作ってきた。

さらに山下さんは現在の学術情報グループへ異動。営業のバックアップをする販促資材の作成のほか、医師や薬剤師向けのセミナーで講師を務めるようになる。

なかでも心に残るのは、都内のあるニュータウンで開かれた勉強会だった。高齢者の住民向けに「腸内フローラ」について話してほしいと頼まれたのだ。そもそも「腸内フローラ」とは何か、ここで少し説明してもらおう。

「私たちの腸内には1000種、100兆個以上の細菌が生息しています。顕微鏡でお腹の中を覗くと、まるで植物が群生している『お花畑(フローラ)』のように見えることから、『腸内フローラ』とも呼ばれるようになりました。これらの様々な細菌がバランスをとりながら腸内環境を良い状態に整えてくれます。人によって腸内環境は違い、様々な病気に関わりがあることもわかってきているのです」

海外での研究もまじえ、興味をもってもらえるように話した山下さん。講演後、会場の人たちに感想を聞き、その一人から「多くの人がここで話してくれたけれど、あなたの説明がいちばんわかりやすかった」と言われる。思いがけない誉め言葉が嬉しく、自信にもつながったという。

入社19年目に管理職へ。取り組んできた「リモートマネジメント」

やがて副主事に昇進したのは2019年。入社19年目で管理職になった。だが、もともと神戸の製薬会社なので本社機能がそちらに集まり、学術情報グループでも東京の支店にいたのは自分一人。部下となる6名は神戸の本社にいるのだという。そうした体制で管理職になるケースは前例がなく、山下さんはまさに手探りの状態で取り組んできたそうだ。

「自分一人だけ東京で離れていると、やはり見えない部分がすごくあります。グループでミーティングすることができず、コミュニケ-ションも取りづらい。当時はまだ電話かメールしかなかったので、何かある度にひたすら電話していましたね」

コロナ禍でようやくリモートが導入され、オンラインツールを用いることで部下の顔を見ながら話したり、皆で意見を言い合えたり、むしろコミュニケーションがとりやすくなったと苦笑する山下さん。とはいえ多くの企業ではテレワークになったことで、部下の様子を掴みにくいと悩む上司が少なくない。山下さんはどう工夫しているのだろう。

「何か困っていても、やはり本人からアクションを起こしてもらわないと気づけないので、何でも相談しやすいような関わり方を心がけています。若い人たちはあまり電話が好きじゃないという声も聞くので、今はチャットと電話の両方を使っていて、本人が楽な形で個別に話すようにしています」

仕事の悩みでは、自分が苦労してきた経験から具体的にアドバイスをする。例えば講演会などは時間配分や話し方のポイントがあるので、事前に発表の練習を提案。一時間の講演会では、どのくらいの枚数があれば時間内に終わることができるか、どうしたら聴く人にとって理解しやすくなるかといった点を踏まえ、話すスピードや話し方などを細かく打合せして、当日の不安を解消するようにした。

また部下自身のモチベーションが下がっていたら、ともに上げていこうと働きかけるような雰囲気作りをしている。

「上から目線で言われると、私もやる気がなくなるタイプなので、部下にはフラットな言葉かけを心がけます。どんなに些細なことでも聞いて、相手の気持ちを受けとめる。私も過去にこんなことがあったからと自分の身に置き換えて理解するようにし、そのうえでどうしたら改善できたのかを伝える。あとは『一緒にがんばっていこう!』という感じですね」

2019年3月20日、二子玉川の蔦屋書店で実施したセミナーの様子
2019年3月20日、二子玉川の蔦屋書店で実施したセミナーの様子
顔が見えなくとも、尊敬でき、なんでも相談できた上司の存在

今もマネジメントをうまくできないことが悩みという山下さん。自分もこうなりたいと尊敬する上司がいるという。それは入社後に配属された営業事務のときの上司だった。

「すごく厳しいのですが、私のことをちゃんと見ていてくださる方。神戸にいて離れていても、私がやっていることをわかってくれ、悩んでいることは何でも相談できる。言葉で伝えられない部分も理解してくださり、とても信頼できる上司でした」

山下さんは、他人よりも正論を言うタイプだという。例えば、営業的には目の前の実績を上げることが必要で、いかにこの商品が良いのかとアピールする方法を考えることは大切だと思う。だが、私たちが健康になるには様々な要素があり、そのひとつに腸内環境を整えることがあっても、人によって腸内フローラは異なり、その人に合う処方も異なる。まずはその方法を探り、一つの選択肢としてビオフェルミン製薬の製品を選んでもらえたらと考える。しかし、それでは時間もかかり、すぐには実績が上がらないかもしれないが、上司は山下さんの考えを否定せず、認めてくれたという。

「会社内の人間関係でちょっともめていたこともありました。私は悪くないと思っていたのですが、どうにもならないほどこじれてしまったのです。そのときも上司は公平な立場で、相手のこともこういう人間だからと評価される。その上で私に否がないことを理解してくださり、『君はそのままでいいんだよ』と言ってくださったのです」

一度は転職しようとまで思い悩んだが、その上司の存在に支えられて踏みとどまった。さらに社内だけでなく、少しずつ外にも目が向くなかで自社の良いところにも気づいていく。そして今年4月には、尊敬する上司の久乗俊道氏が新社長に就任する。今、ますます健康への関心が高まるなかで、山下さんも仕事への希望を感じているようだ。

「腸内環境はあらゆる病気に関わりがあるということがわかってきているので、そのバランスを保って健康を維持し、予防することが大事だと考えています。いかに健康な状態で過ごせる時間を長くするか、そのために私たちの会社もより貢献できればいいですね」

休日はゆったりと過ごし、公私のメリハリを!

そんな山下さんにとって、今はワークライフバランスも大事なテーマらしい。実は2年ほど前に結婚し、自分のプライベートもより充実させたいと語る。年齢を重ねるほどに疲れやすくなっていることも感じており、休日は公園やドライブなどに出かけて、緑あふれるところで過ごすように心がけているそうだ。

そして日々の生活ではやはり食事が肝心。バランスの良い食生活を心がけ、なるべくストレスをためないように過ごし、腸内環境を整えて……。山下さんの楽しい話を聞いているうち、私もビオフェルミン製薬の製品を飲んでみようかなと思うのだ。

歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター
1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。

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