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何気ない日常こそが幸せ。“室内”をテーマにした展覧会で感じる大切なこと

  • 2021.3.12
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家にいる時間が増えた昨今は、「おうち時間を充実させよう」「楽しもう」という声が多く聞かれる。しかし、ただ家にいるだけで、無条件に包まれる安心感だけで、「豊かなおうち時間」を過ごしているといえるのではないか。そんな、何気ない日常をあえて描き出した“室内画”をテーマとした展覧会が開かれる。町田市立国際版画美術館に所蔵西洋版画コレクションおよそ140点を通じて、18世紀から20世紀までの「室内画」の歴史をたどる企画展「アーティストたちの室内画 – 見慣れない日常 – 」が、3月13日(土)よりスタートする。

何気ない、静かな日常を描いた「室内画」

「室内画」とは、プライベートな部屋をテーマとする絵画のジャンル。文字通り、その時代を生きた人々の何気ない室内の日常が描かれている。いつも目にしている光景も、アーティストたちにとっては創作の発想の源となるものであったのだ。

本展では、近年注目を集めている19世紀末フランスのナビ派をはじめ、シュルレアリスム、ポップ・アートなどの幅広い年代の西洋版画を通じて、室内画の歴史をたどっていく。パブロ・ピカソやデイヴィッド・ホックニーの名品が一堂に会すことも見どころの一つだ。

室内画から見る歴史とは

展示には、世紀末の社会のめまぐるしい変化から逃れるかのような隠れ家を描いたフェリックス・ヴァロットンやモーリス・ドニ、芸術的探求を試みる実験室のように部屋を捉えたアンリ・マティスやパブロ・ピカソなどの作品が並ぶ。

フェリックス・ヴァロットン《信頼》、1895年、 木版、町田市立国際版画美術館蔵Harumari Inc.
アンリ・マティス《眠るオダリスク》、1929年、 リトグラフ、町田市立国際版画美術館蔵Harumari Inc.

歴史が進み、大量生産・大量消費が浸透していった戦後のロンドンやニューヨークでは、室内画は新たな展開を迎えることに。会場では、ポップアーティストのパトリック・コールフィールによる“量産される”室内空間を紹介するとともに、デヴィッド・ホックニーらの作品も楽しめる。

ジュール・シェレ《サクソレイヌ、安全灯油のポスター》、1895年、 リトグラフ、町田市立国際版画美術館蔵Harumari Inc.

多様な社会階層の人々が集まるパリのアパルトマン、社会のめまぐるしい変化から逃れる隠れ家、芸術的探求に没頭する実験室、非日常を予感させる密室……。アーティストの視線をたどるように、さまざまな部屋を覗き見てみよう。描き手にとって身近なモチーフだからこそ、その息遣いまで感じるような、生々しくもリアルな生活感が伝わってくるようだ。

「おうち時間」といわれても、ただ過ぎていくような何気ない時間に感じられるかもしれない。時間を持て余してもいい、ただぼーっとしてもいい、SNSにあげられるようなトピックがなくてもいい。室内画を鑑賞するうちに、ただ静かで穏やかな当たり前の時間、そして、そんな時間が好きな自分をもっと前向きに肯定できるようになるだろう。

アイキャッチ画像

モーリス・ドニ『愛』より、1899年、 リトグラフ、町田市立国際版画美術館蔵

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