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「歌会始」は不思議な和歌の世界、語尾を伸ばす理由?起源や人選は?宮内庁に聞く

  • 2021.3.10
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「歌会始の儀」(2019年1月、時事、代表撮影)
「歌会始の儀」(2019年1月、時事、代表撮影)

宮内庁は3月8日、今年の「歌会始の儀」を3月26日に開くと発表しました。例年は1月に行われる伝統行事ですが、新型コロナウイルスの流行で延期されていました。歌会始は天皇・皇后両陛下をはじめ、一般の応募から選ばれた「預選者」らさまざまな人の短歌が披露され、テレビでも中継されますが、その読み上げ方は「五・七・五・七・七」の各句ごとに語尾を長く伸ばすなど和歌の世界独特の特徴があります。歌会始のさまざまな疑問について、宮内庁報道室の担当者に聞きました。

清少納言の時代から?

Q.歌会始はどのような趣旨で、いつごろ始まったのでしょうか。

担当者「まず、『歌会』についてですが、人々が共通のお題で歌を詠み、その歌を披講(詩歌を読み上げること)する会を『歌会』と呼び、奈良時代には既に行われていました。これは『万葉集』によって知ることができます。

『歌会始の儀』は天皇陛下が御主催になる新年恒例の宮中の儀式で、皇室と国民の心を結ぶ代表的な儀式です。歌会始の起源は必ずしも明らかではありませんが、鎌倉時代中期、亀山天皇の文永4年(1267年)1月15日に宮中で、天皇がお催しになる『歌御会始』が行われたことが記録に残っており、年の初めの歌会始の起源ともいえます。

歌会始は江戸時代を通じてほぼ毎年催され、明治維新後も改革を加えながら、現在まで続けられています」

Q.歌が紹介される人と順番を教えてください。

担当者「披講の順で挙げますと(一般の応募から選ばれた)預選者10人、選者代表1人、召人(めしうど)、皇族代表1人、皇嗣妃殿下、皇嗣殿下、皇后陛下、天皇陛下の順となります」

Q.「召人」はどのような人が選ばれるのでしょうか。そもそも、召人とはどのような意味なのですか。

担当者「召人は専門の歌人から選ばれることもありますが、歌以外のいろいろな分野で活躍し、社会に貢献しつつ、歌の道に優れている人からも選ばれます。召人の意味としては、歌会始に歌を詠進するよう、天皇陛下から特に召された人を指します。今年は作家の加賀乙彦さんです」

Q.歌の選者はどのような人が選ばれるのでしょうか。また、その選者を選ぶのはどなたなのですか。

担当者「人選は特定の結社・流派に片寄らないよう配慮され、天皇陛下が最終的にお決めになります」

Q.読み上げる人はどのような人ですか。

担当者「歌の披講を専門とする『披講会』会員の皆さまで、年によって諸役を代えて行っています。披講会の皆さんは旧華族の当主や後継者の集まりで、日本の伝統文化を継承する活動などをされている『霞(かすみ)会館』の会員でもあります」

Q.歌を最初に読み上げる「講師(こうじ)」の人はなぜ、語尾を伸ばすのでしょうか。「息の続く限り伸ばす」「何秒くらい」といった慣例はあるのですか。

担当者「講師は節をつけずに、棒読みのように読み上げます。語尾を伸ばす理由については存じ上げません。語尾を伸ばす長さについては個人個人で違います。特に決まりはありません」

Q.節をつけて和歌を歌う「発声(はっせい)・講頌(こうしょう)」の皆さんについて、音程や速さは決まっているのでしょうか。また、事前に打ち合わせや練習をされているのですか。

担当者「発声1人(第1句から節をつけて歌う)、講頌4人(第2句以下を発声に合わせて節をつけて歌う)の合わせて5人は一定の節をつけて歌います。発声、および講頌の節は『甲調・乙調』の2種類があります。いずれも雅楽風の旋律で、甲調は比較的単調、乙調は波打たせる感じで華やかな調べです。披講会の皆さんは定期的に集まり、披講の練習をしています」

国文学者、坊城俊民氏の解説

語尾を伸ばす理由について、宮内庁からは詳しい説明がありませんでしたが、「歌会始について、詳しいことはこれを参照してください」と紹介されたのが「宮中新年歌会始」(実業之日本社)という書籍中の「歌会始と披講 その由来と意義」。国文学者の坊城俊民氏による解説です。

坊城氏は清少納言の「枕草子」の一節から、「うらやまし 足もひかれず わたつ海の いかなる人に もの賜(たま)ふらん」という和歌を紹介。その中で「これを『ながやかによみいづ』とある。言葉を長やかにひきのばして言うた、ということ。講師の方法に近いものだったと思われる」と書いています。つまり、平安朝、清少納言の時代から、和歌を読み上げる際に語尾を伸ばす習慣があったということです。

同氏は「そもそも詩歌は、その言葉を声によって、きき手の耳に訴えるものであった」として、講師の語尾の伸ばし方について、「ひきのばした声を次第に強めてゆき、最後に残っている息を一気に吐いて言い切る(中略)。言い切った後の静寂を際立たせることによって、きき手に歌の言葉を反芻(はんすう)させるためであろう」と解説。長い語尾とその後の「間」によって、聞き手が歌を味わう時間と余韻をつくっているようです。

なお、この読み上げ方は各地の和歌の会や、神社の奉納行事でも行われています。

オトナンサー編集部

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