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【麒麟がくる】第43話。帰蝶「私はそんな父上が大っ嫌いじゃ」光秀「私も大嫌いでございました」さあ本能寺の変!

  • 2021.2.6
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大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK総合日曜夜8時〜)第43回「闇に光る樹」(脚本:池端俊策 演出:一色隆司)。天正7年夏から一気に3年の月日が流れ、天正10年がやって来た。森蘭丸(板垣瑞生)も登場し、〈本能寺の変〉に向けて役者は揃った感。
この3年の間、光秀(長谷川博己)と信長(染谷将太)の仲はどんどん悪くなる。

月まで届く大きな樹を伐る夢

天正7年夏、光秀はようやく丹波を平定するも、敗北した者たちの命を助けてくれるように頼んだにもかかわらず、信長は斬った生首を塩漬けにしたものを光秀に見せる。それを運んで来たのは蘭丸。
「近頃 上様は何か焦っておられる」と秀吉(佐々木蔵之介)が言うように、信長の行いに誰もがついていけない。
東宮への譲位を画策する信長は御所替えの奉行を光秀に命じる。明らかに帝(坂東玉三郎)の覚えのいい光秀への意地悪であろう。

天正8年4月、大坂本願寺が大坂の地を信長に明け渡す。佐久間信盛(金子ノブアキ)が信長に追放される。
その頃、光秀は、月まで届く大きな樹を伐る夢にうなされるようになる。
京都に来ていた帰蝶(川口春奈)を訪ね、道三様(本木雅弘)ならどうするかと問うと、帰蝶は「毒を盛る。信長様に」と答える。
思えば、「麒麟がくる」第2話、道三は帰蝶の夫を毒殺し、その後、信長のもとに嫁ぐよう命じたのだ。

大嫌いな道三への気持ちを共有

あのとき「行くなと言ってほしかった」と帰蝶は光秀に言う。あの頃、帰蝶は密かに幼い頃から親しんでいた従兄弟の光秀(十兵衛)を想っていたが、光秀は振り向かなかった。
「あのとき ことは決まったのじゃ」
「いまの信長様をつくったのは父でありそなたなのじゃ」
「万(よろず)つくったものがその始末をなすほかあるまい」それが「父上の答えじゃ」と帰蝶はにやりと笑う。自分も加担していて、40話ではそれを認めていた帰蝶。光秀は「共に祟りをうけなければなりませんな」と言っていたにもかかわらず、なぜか「父でありそなたなのじゃ」と責任回避する帰蝶。すでに自分は信長から離れたにもかかわらず、いまだに関わって、さらに信長をおかしな方向に向かわせて手をこまねいていることを指摘しているのかもしれない。
毒を持って始末するという道三の考えを、帰蝶はどう思うか光秀は聞く。質問の仕方が慎重である。道三と帰蝶の考えを混在しない。
「私はそんな父上が大っ嫌いじゃ」と帰蝶は笑い、
「私も大嫌いでございました」と光秀も笑う。
長年親しくしてきたふたりだからこそ、大嫌いな道三への気持ちを共有できる。彼らは、その大嫌いな偉大な人物に道を決められていまがある。

道三がお茶で毒殺した“あのとき決まった”ことは信長たちの運命だけでない。「麒麟がくる」という物語のトーンもそこで決まったと思う。SNSで盛り上がって、道三の注目度はあがり、その後も毒殺が何度も描かれた。邪魔な者はいともたやすく処分する、そうやって武将たちはてっぺんを目指して来た。
こうして最後に信長のもとに残ったのは光秀だけ。彼が信長を止めずに誰が止められようか。
「信長様あっての私でございます。そのお人に毒を盛るのは 己に毒を盛るのと同じに存じます」というあくまで生真面目な光秀のせりふから浮かぶことは、あれだ。人間が生んだ核によって誕生したゴジラを、人間がその手で葬ること。光秀は「ゴジラ」の芹沢博士のような使命を遂げないとならない瀬戸際に立たされている。「シン・ゴジラ」の主人公を演じた長谷川博己にはぴったりの物語であろう。

追い詰められると輝きを増す長谷川博己

天正10年3月、甲斐の武田氏が滅ぶ。
手柄を立てた家康(風間俊介)に土地をおさめるうえで心がけていることを聞かれ、光秀は、戦は他国の領地を奪うところからはじまるが、己の国が豊かであれば戦をすることもなくなるので、そのために己の土地の状況を正しく認識する検地からはじめることを進言する。
家康は、信長に接待されるにあたり、毒を盛られることをおそれ、光秀を饗応役に指名する。家康と光秀の仲が気に入らない信長は、食事の場で光秀のやり方を責める。そのあまりにも横柄な態度に光秀に精神のたがが外れかかりーー。

駒(門脇麦)に樹を伐る話をしたときの危うい瞳、饗応の席で蘭丸に乱暴に扱われ(これまで一番信頼されていた光秀から蘭丸がとって代わっているようでそこも興味深い)、その手を払い、信長に手を上げそうになったときの形相と手刀の手付き(長谷川の提案だとか)は、追い詰められると輝きを増していく俳優・長谷川博己の面目躍如である。その表現力はまたひとつ上にあがったと言っていい。どこまで自分を追い込んで、この撮影に臨んでいるのか。何かすごく権威ある賞を贈られるべきだ。エミー賞とか。演劇だったらローレンス・オリヴィエ賞ものだろう。

最終回を前に思うのは、これまでたくさんの武将たちが出てきたけれど、結果的に志を同じくもってきた光秀と信長のふたりが、考え方が変わって分かれていく話に収束したということ。それが、てっぺんとるという戦国バトルという力わざでもゲーム的な心理バトルでもなく、生き様の晒し合いであること。どういう意思をもって生きるか、人と人との価値観の戦いである。
心理戦という騙し合いはエンタメとして面白いけれど、本心を隠して相手を出し抜くよりも、すべてをさらけ出すことこそが人間のかかわりあいの本質であって、刀をもたない真剣勝負である。そこを確実に描いている筆力と演技力。昨今にない質量の重いドラマになった。
いよいよ最終回! サブタイトルは「本能寺の変」。

〜登場人物〜
明智光秀(長谷川博己)…麒麟がくる世の中を目指し、戦をなくそうと奮闘している。

【将軍家】
足利義輝(向井理)…室町幕府13代将軍。三好一派に暗殺される。
足利義昭(滝藤賢一)…義輝の弟。室町幕府15代将軍。信長に追放される。

細川藤孝(眞島秀和)…室町幕府幕臣。義昭を見限った。
三淵藤英(谷原章介)…室町幕府幕臣。藤孝の兄。最期まで義昭に殉じた。

【朝廷】
正親町天皇(坂東玉三郎)…第106代天皇。光秀を気に入っている。
三条西実澄(石橋蓮司)…公卿、古典学者。光秀と帝を引き合わせる。
近衛前久(本郷奏多)…前関白。

【大名たち】
織田信長(染谷将太)…尾張の大名からのし上がり右大将となる。
帰蝶(川口春奈)…信長の正室。信長を見捨て美濃に戻る。斎藤道三の娘。
羽柴秀吉(佐々木蔵之介)…信長の家臣。
佐久間信盛(金子ノブアキ)…信長の家臣。
柴田勝家(安藤政信)…信長の家臣。
徳川家康(風間俊介)…三河の大名。信長の娘が嫡男の嫁。
菊丸(岡村隆史)…家康の忍び。
松永久秀(吉田鋼太郎)…平蜘蛛を残して死亡。

【明智家】
煕子(木村文乃)…光秀の妻。病死。
たま(芦田愛菜)…細川ガラシャ。光秀の次女。藤孝の嫡男・忠興に嫁ぐ。
岸…光秀の長女。
明智左馬助(間宮祥太朗)…光秀のいとこ。
藤田伝吾(徳重聡)…光秀の忠実な部下。
斎藤利三(須賀貴匡)…明智家家臣。

【庶民たち】
伊呂波太夫(尾野真千子)…近衛家で育てられたが、いまは家を出て旅芸人をしている。
駒(門脇麦)…光秀の父に火事から救われ、その後、伊呂波に世話になり、今は東庵の助手。よく効く丸薬を作っている。
東庵(堺正章)…医師。敵味方関係なく、帝から戦国大名から庶民まで誰でも治療する。

■木俣冬のプロフィール
ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。

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