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「監視カメラ」を無断設置、社員の仕事ぶりをチェック 法的問題はない?

  • 2021.1.31
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監視カメラで社員を監視、法的問題は?
監視カメラで社員を監視、法的問題は?

経営者の中には、社員が勤務時間にきちんと働いているのか非常に気にする人がいます。一部には、社員の仕事ぶりが分かるように、職場に監視カメラを設置したり、リモートワークで仕事をサボらないように、業務用パソコンに監視ツールを内蔵したりする経営者もいるようです。社員の大多数がこうした機器を設置することに同意していればまだしも、何も説明もなく、社員の仕事ぶりを監視する機器が設置されることに抵抗がある社員もいるのではないでしょうか。

社員の仕事ぶりを監視するためのカメラやツールを勝手に設置することに、法的問題はないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

プライバシー侵害に当たらず

Q.社員の同意を得ず、職場に監視カメラを設置した場合、人権侵害など法的に問題はないのでしょうか。

佐藤さん「社員の同意を得ず、職場に監視カメラを設置したとしても、それだけで直ちにプライバシー権侵害に当たるとはいえず、違法にはならないでしょう。会社には、社員を指揮監督する必要性が認められる一方、職場はもともと、多くの人の目がある場なので、プライバシー保護の必要性が高いとはいえないからです。

もちろん、職場の更衣室やトイレなど、プライバシー保護の必要性が高い場所に監視カメラを設置することは違法になります。また、カメラの台数や撮影時間などが極端で、指揮監督の必要性を超えて画像が使用されるなど、何らかの事情が加われば違法になる可能性もあるでしょう。

社員の同意を得ずに監視カメラを導入しても、通常、違法にならないとはいえ、職場に監視カメラを設置する際は事前に社員に対し、説明しておくことが大切です。監視カメラを設置する目的や設置場所を周知し、誰がどの範囲で撮影された画像を利用できるのか、あらかじめ明らかにしておくことが後のトラブルを防ぐことにつながります。

なお、監視カメラで撮影された映像によって個人を特定することができる場合、その映像は『個人情報』に該当し、個人情報保護法のルールが適用されます。個人情報取扱事業者(個人情報データベース等を事業に使っている者)が個人情報を取得した場合は原則、その利用目的を本人に通知し、または公表する義務があります(同法18条1項)。

2017年5月に全面施行された改正法によって、小規模であっても、一定の方法で個人情報を扱う事業者は個人情報取扱事業者となり、個人が特定できる映像であれば、社員の個人情報を取得したことを会社は通知するか公表する義務があります」

Q.リモートワークをする社員の同意を得ず、業務用パソコンに監視ツールを内蔵して仕事ぶりを監視した場合、人権侵害など法的に問題はないのでしょうか。

佐藤さん「リモートワークの場合、職場以外の場所で勤務しているため、プライバシー保護の必要性の高い自宅などの様子が映り込んでしまうことがあります。そこで、先述した職場での監視カメラの設置以上に、社員の同意を事前に得ておく必要性が高いといえます。同意なく監視ツールを内蔵して仕事ぶりを監視した場合、プライバシー侵害として違法性が認められる可能性もあるでしょう。また、過剰な監視体制を取ることが『パワーハラスメント』に当たるとして違法になる可能性もあるので注意が必要です。

なお、個人情報保護委員会(独立性の高い行政委員会)が作成した『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』、および『個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について』に関するQ&Aでは、従業員の監督の一環として、個人データの取り扱いに関する従業者を対象とするモニタリング(ビデオやオンラインによるもの)を実施する場合に留意すべきことを示しています。

それは(1)モニタリングの目的をあらかじめ特定した上で、社内規定等に定め、従業者に明示すること(2)モニタリングの実施に関する責任者、および、その権限を定めること(3)あらかじめ、モニタリングの実施に関するルールを策定し、その内容を運用者に徹底すること(4)モニタリングがあらかじめ定めたルールに従って適正に行われているか、確認を行うこと――です。

もちろん、リモートワークを実施するとき、会社は労働時間を適切に管理する必要があるため、業務用パソコンの使用時間をチェックしたり、仕事の開始と終了時に連絡を求めたりすることができます。こうした労働時間の管理は社員を長時間労働や深夜労働などから守るためにも必要です。行き過ぎた監視ではなく、適切な労働時間の管理と業務成果の報告により、社員の業務遂行状況を把握することが大切だと思います」

Q.業務をしている様子を監視カメラやパソコンの監視ツールで見張られることを社員が拒否することはできるのでしょうか。拒否できない場合、どのような法的根拠があって拒否できないのでしょうか。

佐藤さん「ケース・バイ・ケースでしょう。監視方法や監視体制について、社内で適切なルールが定められ、社員に周知されているようなケースでは、監視自体が違法とはいえない可能性が高く、社員に拒否する法的権利があるとは考えにくいでしょう。一方、撮影された動画を目的外で拡散させたり、業務管理の必要性を超えて、プライバシー保護の高い場所まで常時監視したりというような、監視自体に問題があるケースでは、違法行為をやめるよう求める権利が社員にはあると考えられます」

Q.監視されるのが嫌で、例えば、社員が監視カメラの電源を切るなど、会社側が監視することを妨害する行為をした場合、その社員は何らかの責任を問われるのでしょうか。

佐藤さん「就業規則などに基づいて適切な監視がなされている場合、それを妨害すれば、会社の指揮監督に従わなかったとして会社から注意を受ける可能性があります。注意を受けても従わず、何度も繰り返し、監視カメラの電源を切るなどした場合、就業規則に基づき、懲戒処分を受けることもあるでしょう」

Q.話し合いをしても監視カメラや監視ツールの撤去を経営者が拒否した場合、社員が精神的苦痛を逃れるためには、その状況に慣れる、あるいはその会社を退職するしか方法はないのでしょうか。法的に社員を救済することはできないのでしょうか。

佐藤さん「これもケース・バイ・ケースでしょう。先述したように、監視自体に違法性が認められるようなケースでは、社員が会社に対し、法的に違法行為をやめるよう求めることが可能です。一方、違法とはいえない方法で監視がなされているケースでは、従業員が法的に監視をやめるよう求めることは困難です。社員としては、監視されることにより、精神的に業務に集中しにくくなるなどの悪影響があることを伝え、労働組合などを通して粘り強く話し合うことが考えられるでしょう」

オトナンサー編集部

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