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男社会の極み、総合商社がついに…丸紅「新卒採用の女性総合職5割」真の狙い

  • 2021.1.28
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丸紅が2024年までに新卒採用する総合職の4~5割を女性にすると発表した。雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは、「よくありがちな女性活躍の“名ばかり施策”ではなく、かなり本気度を感じる」と指摘する。男社会の極みだった総合商社が、変わるきっかけとなったクライアント企業の“ある変化”とは――。

丸紅新本社ビル(中央)=2020年4月14日、東京都千代田区大手町[時事通信ヘリコプターより]
丸紅新本社ビル(中央)=2020年4月14日、東京都千代田区大手町[時事通信ヘリコプターより]
丸紅は本気だ

丸紅が新卒採用にクオータを設けたそうだ。総合職の女性比率を4~5割にするという。

私は、総合商社がやるからには「本気」であり、大向こう受けを狙ったアドバルーンなどではないと考える。もし、この話をメガバンクが喧伝していたら、言葉通りに受け取りはしなかっただろう。

新卒大学生にとっては、総合商社とメガバンクは人気業界の双璧といえる。ただ、企業としての印象は全く異なる。どちらも2000年前後に倒産間際と言われるくらいの苦境にあった。そこからメガバンクは国策的な合併をさせられ、その見返りとして資本注入を受け、何とか立ち直った。が今でも旧行派閥のせめぎ合いなどの噂が絶えないという。

「名ばかり施策」が多いメガバンク

それ以前のバブル期までは、護送船団方式に守られ、横並び業態でみながおいしい汁を吸ってきた。当然、監督官庁の胸先三寸で明日の業績が決まるために、旧大蔵省担当、通称MOF担を置いて密着、果ては接待汚職事件まで起こすに至っている。つまりいつの時代も、お上と世間体を重視している性癖が染みつき、ゆえに、官公庁や世間受けの良い、その実中身のない「アドバルーン」を揚げ続けるのだ。

女性活躍関連でも、役職者をいきなり増やすために、ベテラン一般職をいきなり課長に抜擢したり、男性の育児休暇取得率をあげるためにほんの数日でいいから育休を取らせる、といった「名ばかり施策」を多々、行ってきた。

対して総合商社は、過去何度もの構造不況を自力で乗り切りってきた。それだけに、官公庁や世間向けのポーズも不要で、自ら良しとする経営方針をとる。だからこそ、新卒採用の女性クオータにも本気度を感じるのだ。

無理難題を受ける商社の宿命

そもそも、商社というとグローバルな仕事をしているように思われるが、それは少々誤りがある。世界中を駆け巡るのは間違いないのだが、ただし、それは日本にいるメーカーや流通などのクライアントのために、だ。だから、彼らは国内クライアントを常に見ている。そのため、風土もかなり「日本的」となる。

国内クライアントの流通やメーカーは、自分たちでは調達やプロジェクト運営に手を焼くからこそ、商社に仕事を依頼し、高い金を支払う。ということで、商社の社員は無理難題を解決し続け、高い給与をもらうことになる。クライアントである流通やメーカーは「自分よりも商社の連中は高い給与もらっているんだから」と、さらに難しい仕事を依頼する。この連鎖で、儲けは増えるが仕事は息が抜けないようにどんどん追い込まれる。これが商社の宿命といえるだろう。

丸紅の総合職に占める女性比率は約1割
丸紅の女性管理職比率は6%
日夜かまわず仕事と一体になる働き方

エネルギー、鉄鋼、非鉄、穀物、魚介……。取り扱い領域で常に「難題」を持ち掛けられるから、専門知識も豊富だ。そうした知識の一つひとつ、先輩や取引先から鍛え上げられながら、10年程度かけてイッパシに育っていく。だから、30代中盤にもなると、専門知識と業界作法の塊となっていて、他事業部にはなかなか行けない。考えてみればわかるだろう。原子力発電のプロジェクトリーダーと、小麦の作付けのリーダーのバーターなどできるわけないから。こうした中で、「村落共同体」的な「純血」主義に染まっていく。

若いうちは、「知らない」「できない」ことだらけでもまれる。生き残るためには、愛嬌やかわいらしさも重要な要素となる。だから商社社員はえてして人の心をつかむのがうまい。気持ちのいいところがあり、クライアントの雑用にも喜んで付き合ったりもする。そしてもちろん、夜の付き合いも上手だ。海外赴任などした場合には、現地でクライアントを飯・酒のうまい店に連れていくのも、当然仕事の内となる。

まさに、日夜かまわず仕事と一体となる働き方であり、かつての「日本型」そのものといった状態になる……。それがひと昔前までの商社だった。

「男社会」に風穴が入ったのはクライアントの“ある変化”から

こんな日本的社内環境では、現場配属者はほとんどが男となる。女性の営業職を出した日には、クライアントから「無茶頼めんから勘弁してよ」と言われたりもするのだ。新卒採用も長らく男性が圧倒的多数だった。「過去の公表数字にも女性採用はけっこう入っているよ」と言うなかれ。その多くは一般職なのだ。総合職では女性比率は1割程度だったろう。ただ、彼女らは男勝りの強者で、女性の職域開拓とは言えそうにないような存在だ。

つまり、現場はまさに「男社会」そのもの、という状態が長らく続いていたのだ。

ところが、その風潮に水を差すような出来事が起きつつあった。それが、クライアントとなるメーカー側に「女性社員」が増えてきたことだ。

メーカーは今でも圧倒的多数が男性採用に見えるが、それは誤解だ。メーカーの場合、採用数の7割以上がエンジニアのため、理工系大学から採用をする。この理工系に女性が少ないために、必然、採用者の大多数が男性となってしまう。ただし、2~3割採る事務系に関しては、その分、女性の採用比率を上げる。ということで、事務系に限っては従来半数近くが女性だったのだ。ただ、彼女らの多くは人事や経理、広報などの管理部門に配属され、営業や生産管理、購買などの「現場」にはあまり女性社員はいなかった。

ところが昨今、メーカーの「現場」にも女性が進出を始めた。これにはいくつかの理由がある。まず、商品開発や販売に「女性の目が必要」ということが一つ目の要因。二つ目には、銀行や商社ほど大学生人気が高くないメーカーは、新卒で上位大学生を採用しようとすると、男だけでは員数がそろえられない、といったことがある。

「無理難題を何とかする力」を女性にも

元々、管理部門には女性総合職が多かったために、女性扱いはそこそこ慣れており、現場の大手・官公庁担当部署などにも少数の女性がいたので、彼女らが育成役にもなれた。

そして、エンジニアに関しては中途採用を常時行っていたので、転職エージェントなどにも太いパイプがある。だから「女性活躍」が始まると、新卒だけでなく、中途でも一気に女性を採用するなどという芸当ができた。ある大手自動車メーカーなどは、係長クラスの30代中盤女性を一気に100名も採用したりしている。

こうして、クライアントの風景がガラリと変わる中、総合商社も「女性活躍」に本気を見せたのだろう。

員数だけそろえるなら、それこそ広報や人事などにエージェントを通じて中途採用すればいい。ただ、そんなことでは社風は変わらない。一子相伝スタイルで長年かけて現場で教えなければ「無理難題を何とかする力」は身につかない。だからこそ、新卒にクオータを設けたと見て取る。この「無理難題を何とかする力」の女性コースをしっかりつくろうという意図が、新卒クオータからありありと見えるのだ。

うまくいかないときはパッとやめる

クライアントから外堀が埋まるまで火が付きづらい構造の総合商社は、変化の殿しんがりとなることが多い。ところがそこから一丸となって突っ走り、いつの間にか先頭に躍り出る。そんな力を持っている。

また、うまく行かなかった場合の退き際も潔い。そういえば、7~8年前、30代を中途採用するというムーブメントがあった。商社冬の時代に新卒採用を絞った世代が30代になったためだ。ただ、30代で採用して、いきなり商社の仕事ができる人は限られている。ということで、取引先、なかんずくクライアントから少なからず採用することになった。それは当然、在籍企業からのクレームなどにも発展する。そこで、関係が悪化する前にパッと中途採用を終えてしまった。そんな早業を垣間見たものだ。

今回の女性クオータも、見ものだと思っている。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト
1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。

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