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「中国人の話し声が大きい」5つの理由、正誤を専門家に聞く

  • 2021.1.25
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中国人の声は大きい?
中国人の声は大きい?

ネット上には「中国人はなぜ、話し声が大きいの?」という疑問がよく書き込まれています。新型コロナが拡大する以前は日本の観光地に多くの中国人観光客が訪れていましたが、その場にいた人ならば、「中国人観光客の話し声が大きい」と思ったり、中には「うるさい」とネガティブに思ったりした人もいるのではないでしょうか。さまざまな人がブログなどでその理由を推測して書いていますが、何が本当の理由なのか分かりません。

そこで、日本人が想像する代表的な5つの“理由”の正誤について、長く中国に住んだ経験のあるノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

中国人の話し声は総じて大きい

Q.性格などもあり、全ての中国人の声が大きいとはいえませんが、全般的に中国人が話す声が大きいというのは事実ですか。

青樹さん「事実です。同じ中国人でも、出身地やその他の条件によって違いはありますが、総じて大きいのではないかと思います」

Q.ここから、5つの理由です。「中国語の発音はすべてに抑揚がしっかりと付いており、その強弱で意味が変わるので、大きな声で話さないと伝わらないから」という理由を挙げる日本人がいます。正しいでしょうか、誤りでしょうか。

青樹さん「正しいです。中国語の発音には、4種類の音である『四声』というものがあります。つまり、一つの言葉でも、『平らなもの』『下から上に上がるもの』『下で伸ばして上に上がるもの』『上から下に下がるもの』という4種類のイントネーション(抑揚)があるのです。

そして、面倒なのはイントネーションによって意味が全く異なってくることです。例えば、中国の標準語で『ma』と発音する言葉がありますが、イントネーションで『お母さん』『馬』『叱る、ののしる』『~ですか?(疑問文を示す助詞)』など全く意味が違ってきます。外国人や地方から来た方言の強い中国人が標準語を話そうとする際には、はっきりと大きな声で発音しないと意味が間違って伝わってしまいます。そのため、どうしても大きな声になるのです。

また、中国の中でも、特に広東人の声は大きいとされています。標準語は4つのイントネーションがありますが、広東語は6つのイントネーションがある上、促音(日本語の「っ」のようなつまる音)も多いので、よりはっきりと大きな声で発音する必要があるからです。しかも、来日する中国人の中で広東人の割合はとても高いです。大きな声で話す広東人が日本に多く訪れることで、『中国人の話す声は大きい』と感じる日本人が増えたのかもしれません」

Q.「『にぎやかなことは縁起がよい』という考え方が中国人にはあり、大きな声で話す意識が染み付いているから」という理由は正しいでしょうか、誤りでしょうか。

青樹さん「正しいです。中国では、大きな声で話すことは『体が丈夫』『地に足を着けて生きている』というポジティブな印象を与えます。逆に、声が小さいと『気が小さい』『消極的』というネガティブな印象を与えてしまいます。中国人は声に限らず、大きな音を出すことやにぎやかな音を出すことは縁起がよいという意識を持っています。例えば、赤ちゃんの産声も大きければ大きいほど縁起がよいと喜ばれますし、商店での声掛けも声が大きければ大きいほど商売繁盛のイメージを与えます。春節に爆竹を鳴らすのも魔よけ、福を呼ぶなどの意味があります」

Q.「人口が多いので、大きな声で自己主張しないと誰にも相手にしてもらえないから」という理由は正しいでしょうか、誤りでしょうか。

青樹さん「正しいです。最近は変わりましたが、中国では長い間、お店などで列を作って並ぶ習慣がありませんでした。例えば、市場で野菜や果物を買おうとしても、みんな並んでいないのでワッと押し寄せ、その中で大きな声で欲しいものをはっきり言う必要がありました。売っている側に声が届かないといつまでも買い物ができないのです。そうした習慣から、『自己主張するときには大きな声で』という意識が中国人の中に染み付き、話す声も大きくなったのだと思います」

Q.「大きな声で話すことで見えを張り、自らのメンツを保とうとしているから」という理由は正しいでしょうか、誤りでしょうか。

青樹さん「私は聞いたことがなく、正しいか誤りか判断できません。中国人も声の大きさとメンツとに関連性があるとはあまり言及していないようです」

Q.「中国が急速に経済発展したことで、建設などの工事で騒音が激しくなり、自然と大きな声で話す癖がついたから」という理由は正しいでしょうか、誤りでしょうか。

青樹さん「正しいと思います。交通の騒音もすごいですが、中国では至る所でいつも工事をしており、騒音とは共存状態です。もちろん、経済発展による建設ラッシュが主な理由ですが、いつもどこかで行われている家の内装工事も騒音のもとです。中国では家を買ったら、内装工事は自前で行わなければなりませから。

工事についても、中国人は『周囲に騒音が広がり迷惑をかけてしまう』という感覚がありません。以前、中国で住んでいたアパートの上階で突然リノベーションの工事が始まりました。昼夜を問わずの工事で、電気ドリルやハンマー音が頭上で響き、あまりの騒音で体調を崩しました。しかし、施工主であるアパートの管理会社に言っても取り合ってもらえず、他の住民たちもおとなしく我慢していました。私の場合、1カ月後には日本への本帰国を控えていたのですが、我慢の限界を超え、たった1カ月のために引っ越しをしました。

多くの中国人は数十年前まで、共同住宅で生活することが多く、話し声も含めた隣近所からの生活音に寛容です。大きな音がする機会が多い国なので、それに負けないために大きな声で話すのは納得できます」

Q.公共の場で大きな声で話している中国人を日本人が見たとき、ネガティブに感じる人もいます。どのように対応すればよいでしょうか。

青樹さん「日本で話し声があまりにもうるさい場合は、人さし指を口の前で立てて、『しー』という動作をすれば、中国人も気付いて、声を抑えめにするでしょう。彼らにしてみれば、普段通りに話しているだけであり、彼らは『うるさいと日本人が感じている』と気付いていないだけなのです。中国人は自分たちが外国からどう見られているのかをとても気にする民族です。『しー』とされて怒る人は少ないと思いますし、そうすることは失礼ではないと思います」

オトナンサー編集部

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