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「更年期のおかげで夢がかなった」地方在住、兼業、2児の母が、たった半年で起業できたワケ

  • 2021.1.22
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地方在住、子育て中、女性をテーマにしたサービス……。以前であれば、起業にはハンデとなりそうな条件を複数抱えながら、高本玲代さんは更年期夫婦向けのコミュニケーションサービス「wakarimi(ワカリミ)」をたった数カ月で立ち上げた。実現できたのはなぜだろうか。高本さんの背中を後押ししたものとは――。

5年前なら早すぎ、5年後なら遅すぎた

現在45歳の高本さんが、更年期世代の夫婦向けコミュニケーション支援サービス「wakarimi」を立ち上げたのは2020年7月だ。wakarimiは、LINEを活用して夫婦の間に入り、その日の女性の体調や、更年期に関する情報を共有するなどし、コミュニケーションを促す。

wakarimiの高本玲代さん(写真=本人提供)
wakarimiの高本玲代さん(写真=本人提供)

更年期による体調不良や、夫婦間のコミュニケーションで悩んだ自身の経験をもとにビジネス化のアイデアを得て、わずか半年で本格稼働にこぎつけた。高本さんは、「5年前の環境なら実現できなかったと思います。それに、5年後なら、おそらく更年期に着目した競合フェムテック(女性の健康をテーマとしたサービス)は増えていたはずなので遅すぎたでしょう。ちょうどいいタイミングだったと思います」と話す。

「スタートアップの世界はまだまだ男性中心で、起業家に占める女性の割合は5%程度だそうです。(ベンチャー企業に出資する)ベンチャーキャピタルの担当者も、銀行の担当者も圧倒的に男性ばかり。そんな中で、『更年期』という女性特有の課題に取り組むビジネスは、以前であれば理解されにくかったでしょうね」

高本さんは、起業をゲームのドラクエ(ドラゴンクエスト)になぞらえてこう説明する。

「夢を実現するために必要な情報や武器を探し求める、冒険の旅に参加したいのに、女性はそもそもゲームに参加するための“入口”がどこにあるのかわからず、周りをぐるぐる回って探しているような状態でした。それが、ビジネスにおけるダイバーシティの重要性の高まりや“MeToo”運動などにより、ここ数年で風向きが変わった。『ここに入口がありますから、参加したい人はどうぞ』と言ってくれる人が増えてきました」

wakarimiから女性に送られるメッセージの例
wakarimiから女性に送られるメッセージの例
起業したい、でも「入口はどこに?」

もともと大手企業で働いていた高本さん。起業へのあこがれが生まれたのは30代後半だった。

「30代後半の時、夫が仕事でアメリカに赴任することになり、私は当時働いていた会社を休職して長女と同行しました。1年半の滞在中に、MBAを取得したんですが、そこで出会った人たちは男女ともに起業家が多く、自分で事業を立ち上げるのも面白そうだと思ったのです」

アメリカ滞在中の高本さん(写真=本人提供)
アメリカ滞在中の高本さん(写真=本人提供)

帰国後は、復職する予定だった元の会社を退職。起業の道を模索することにした。しかし、先ほどのドラクエのたとえ通り、「ゲームに参加したいのに、入口がどこにあるのかわからない」状態。

「その時の私にあったのは、『起業したい』という思いだけ。そんな時、自身も起業家で、多くの起業家を支援している奥田浩美さんの講演会に参加。シリコンバレーで開催される『女性起業家の育成プログラム』に誘っていただきました」

ただ、当時の高本さんは次女を出産したばかり。まだ小さい娘2人を残して1人でプログラムに参加するのは難しいと考えた。それに、とても夫がOKしてくれるとは思えなかった。

「奥田さんに相談すると、『起業すれば、毎日パートナーと相談したり調整したりする日々が続くことになる。今回のプログラムのことが相談できないくらいなら、あなたはずっと起業はできないよ』と言われたんです」

壁は自分の中にあった

その言葉に刺激を受けた高本さんは、プログラムに参加する目的、将来自分が何を実現したいのかをまとめて資料を作り、夫にプレゼンを行った。

「そうしたら理解してOKしてくれたんです。私がいない間は彼の実家から義母を呼び寄せてサポートしてくれました」

「壁になっていたのは、子育てや夫の理解ではなく、自分自身の中にある『もしも伝えて、わかってくれなかったらどうしよう』という不安だった。今思うと、これが私にとって、パートナーとのコミュニケーションの壁を乗り越えた最初の経験だったのかもしれません」

思いを伝えることこそが大切。それでもし希望が通らなくても、そこで「自分自身が否定された」と思う必要はない。めげずに何度も伝える努力をしていれば、いつか理解してくれると信じることが大事だと悟った。

シリコンバレーのプログラム参加者の中には、社会を変えたいという強い思いを持ち、子育てをしながら頑張る女性も多かった。起業を目指す仲間と出会いは大きな刺激となった。

シリコンバレーから戻った高本さんは、その年の2018年にはヘルスケア関連のベンチャー企業の立ち上げに参加。2019年には医療系AIロボットシステムを開発するスタートアップに参加し、リモートワークでマーケティングや広報を担当するようになった。

シリコンバレーのプログラム参加者と。後列左端が高本さん
シリコンバレーのプログラム参加者と。後列左端が高本さん
更年期障害、子育て、地方……ハンデを超えて起業

スタートアップに参加することで「起業したい」という気持ちは高まる一方だったが、この頃から更年期障害による心身の不調に悩まされるようになった。2人の娘は小学生と保育園児で、まだまだ手がかかる。「しかも、営業先も資金調達先もみんな東京が多いので、地方在住というのはめちゃめちゃハンデがありました」

そんな中、シリコンバレーで出会った女性起業家のネットワークを通じて、新規事業コンサルティングなどを手掛ける「uni’que(ユニック)」が展開する、女性に特化したインキュベーション事業「Your(ユア)」に出合った。

Yourに応募し、採択されると、uni’queスタッフのサポートを受けながら事業立ち上げを進められる。実績も資金もないベンチャー企業が、システム開発やファイナンスの優秀な人材を集めるのは大変だが、Yourではこれらもチームでバックアップしてもらえる。そして自分の事業が成長すればuni’queの子会社となり、持ち株を取得して代表に就任できる。複業も推奨されているので、医療系AIロボットシステムスタートアップの仕事も続けられる。高本さんは、「これなら起業できる」と応募。2019年11月に採択され、高本さんの新規事業プロジェクトが走り出した。

「更年期」をテーマにした事業にフォーカス

さらに大きかったのは、「何をテーマに、どのようなサービスを事業化するか」をブラッシュアップできたことだった。

uni’que代表の若宮和男さんには、「ワクワクやため息の中にビジネスの種がある」と教えられた。自分がワクワクするようなテーマや、自分が普段、不満を感じてため息をついているような課題を解決できるようなテーマを考え、絞り込んでいった。

「アイデアはたくさんありました。若宮さんを相手に、ああでもない、こうでもないと壁打ちするうちに、実体験に基づいた“更年期夫婦向けコミュニケーションサービス”が事業のコアバリューになりそうだということがわかってきました。それから実現に向けてシステムを作り始めました」

サービスには、自らの体験がふんだんに取り入れられ、β版は2020年4月に完成、7月には本格的にスタートした。また、「パートナーがいないけれど更年期について知りたい、誰かに寄り添ってほしい」「パートナーと使う前にコミュニケーションについて学びたい」といった要望が寄せられたため、2021年2月には1人で使えるサービスも始める予定だ。「更年期であきらめかけていた起業が、更年期のおかげで実現するなんて」と高本さんは笑う。

uni’queのメンバーとのオンラインミーティング。左上が高本さん、右下がuni’que代表の若宮さん(写真=本人提供)
uni’queのメンバーとのオンラインミーティング。左上が高本さん、右下がuni’que代表の若宮さん(写真=本人提供)

「これまで、起業家の多くは男性でしたし、起業で多くのサービスを生み出しているのも男性でした。今、男性が『世の中に足りないサービスは何だ?』『どんな課題が残っている?』と探しているけれど、それは片目で世の中を見ているのと同じ。女性が困っていることはまだたくさんあるし、女性が違和感を持ち、不満を抱えながら何十年も改良されないままになっているサービスや商品が、まだたくさんあるはずなんです」

更年期などのフェムテックの分野は、その典型と言えるだろう。

女性も、起業に尻込みしないで

高本さんは現在も、医療系AIロボットシステムの会社と兼業しながら、wakarimiを運営している。複業による相乗効果は大きいという。

「兼業先の会社もwakarimiもスタートアップなので、どちらかの経験がもう片方の“予習”になります。それにもちろん人脈も2倍。兼業先の関係者がwakarimiに興味を持ってくださるということも多いですよ」

「よく、『複業すると社外に知識が出ていく』『本業が疎かになる』と言われますが、やってみるとそんなことはまったくないことがわかります。ある瞬間ではマイナスに見えることがあるかもしれませんが、トータルで見たらメリットが大きくなるんです。これからは複業という働き方が、当たり前になるかもしれませんね」

高本さんだけでなく、wakarimiに関わるuni'queのメンバーも全員複業。それでも、本格的に事業化の準備を始めてから数カ月で本格稼働している。

「一般の企業だと、新規事業の立ち上げにはフルタイムの社員がたくさん関わっているはずですが、もっと時間がかかっていると思います。でもwakarimiの場合は、全員が複業であるにもかかわらず、このスピード感で事業を立ち上げることができ、サービスとしてもきちんと回っている。胸を張ってそう言えることが大きい」

プライベートも何もかも投げうって、すべての時間とエネルギーを注ぎ込まないと起業なんてできない――。そんな先入観を覆したいと高本さんは力を込める。

「地方在住でも、子育てをしながらでも、複業でも、スピーディに事業を起こして回していける。それがわかれば、起業に対する精神的なハードルは下がると思うんです。尻込みしないでチャレンジする女性が増えてほしいです」

構成=池田 純子

高本 玲代(たかもと・あきよ)
wakarimi代表
1975年生まれ、滋賀県出身。1999年お茶の水大学卒業後、セブン&アイ入社。2006年帝人に転職。2016年にアメリカでMBA取得。ヘルスケア系企業を経て、医療向けAIロボットソフトウェアベンチャーに参画。2020年4月wakarimi立ち上げ。滋賀県大津市在住。2児の母。

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