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4月の緊急事態宣言時よりも、「気が緩んでしまう」3つの心理的な理由

  • 2021.1.21
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2度目の緊急事態宣言では、1度目の時ほど人出を抑えられてないことがわかってきた。14日に西村経済再生担当相が公表したデータからも、一都3県の主要駅での通勤時間帯の人出の減少は1回目と比べて限定的だった。テレワークへの切り替えなど、2度目のほうがスムーズと考えがちだが、なぜ効果が薄いのか――。

横断歩道を歩く群衆
※写真はイメージです
長期間、神経を張り詰めていることはできない

一都三県を対象に出された緊急事態宣言に、あらたに二府五県も加えられました。おそらく今後、対象地域が増えていくことでしょう。

その理由は、4月の緊急事態宣言の時には、国民の側にも「しっかり自粛しなければ」という気持ちがあり外出の自粛が進みましたが、今回の宣言下では「気の緩み」が見られるからです。政府が緊急事態宣言を出しても、不要不急の外出をやめてくれないのでは新型コロナを抑え込めるはずがありません。

では、どうして「気が緩んでしまう」のでしょうか。ここでは3つほど、心理的な理由を紹介していきたいと思います。

まず一つ目は、「慣れの効果」。私たちは、そんなに長期間、神経を張り詰めていることができません。コロナウイルスが危険だということはわかっていても、そういう「リスク認知」は、どんどん弱くなっていくのが普通です。

「リスク認知」は時間とともに弱くなる

たとえば、こんな研究があります。

ポルトガルの心理学者マリア・リマは、新しいごみ焼却炉が建設され、稼働し始めてから5年間にわたって、周辺住民のリスク認知を追跡調査してみました。

すると、最初のうちこそ、住民たちも「何か、汚染のようなものがあるのでは?」とリスクを認知して、ビクビクしていたのですけれども、そのうちリスクを感じなくなってくることがわかりました。5年も経つと、「まあ、大丈夫だろ」と思うようになってしまったのです。

2回目の緊急事態宣言が、そんなに効果があるようには思えないのも、国民の「リスク認知」が低下しているからではないでしょうか。

適応力の高さが裏目に出た

人間は、そんなに長いこと、リスクを感じ続けていられるわけではありません。そのうちに慣れてしまうのです。それが人間の適応力の高さだとは思うのですが、それが裏目に出てしまっているのです。

「コロナなんて、そんなにおびえる必要はないよ」と思ってしまっている人が多くなってきているのですから、2度目の緊急事態宣言が4月ほどの効果を見せることができないのも当然といえるでしょう。

(参考)Lima, M. L. 2004 On the influence of risk perception on mental health: Living near an incinerator. Journal of Environmental Psychology ,24, 71-84.

「自分だけは大丈夫」の罠

2つ目の理由は、「自分だけは大丈夫」という、根拠のない思い込みです。私たちは、なぜかはわかりませんが、「他の人はコロナに感染するかもしれないけれど、自分は大丈夫」と、根拠もなく信じ込んでいるところがあります。読者のみなさんもそうなのではないでしょうか。

米国ラトガース大学のネイル・ウェインスタインは、ニュージャージー州ニューブランズウィックの住民296名に、36の健康リスクについて評価してもらったことがあります。

その結果、自分だけは麻薬中毒にならず、アルコール中毒にもならず、喘息にもならず、ガンにも糖尿病にもならず、関節炎に悩まされることもない、と答えることがわかりました。

私たちは、「自分だけは大丈夫」と楽観的に考えやすいのです。私たちの心は、本人が苦しまないように機能するというメカニズムがあります。

ポジティブな姿勢を示す若い日本人女性
※写真はイメージです

リスクを認知していると、私たちは悩み、苦しみます。そうならないように、私たちの心は、楽観的に考えるように仕向けるのです。そのため、「自分だけはコロナにならない」と、根拠もなく思い込んでしまうのです。そう思っていたほうが、本人はハッピーに生活できるわけですから、そういう心のメカニズムが必ずしも悪い、というわけではありません。

しかし、そういうメカニズムが裏目に出てしまうと、やはり「気の緩み」になります。2度目の緊急事態宣言でも、なかなか人出が減っていかないのは、もともと人間には楽観的に物事を考える傾向があって、「自分はコロナにならない」「なったとしても、そんなに重症化しない」と思い込んでいるためであると心理学的には分析できます。

(参考)Weinstein, N. D. 1987 Unrealistic optimism about susceptibility to health problems: Conclusions from a community-wide sample. Journal of Behavioral Medicine ,10, 481-500.

繰り返すと「鈍感化」が起きる

3つ目の理由は、過剰なニュース報道とキャンペーンです。国民が、コロナに慣れてしまったのには、マスコミの責任もあります。とにかく、昨年からずっと連日のように、コロナ、コロナ、とコロナ関連の報道がなされ、「自粛せよ」というキャンペーンが繰り返されてきました。「自粛」という言葉を何度、耳にしたかわからないほどです。

米国パデュー大学のヒュン・イ・チョウによると、健康増進キャンペーンは、時として「意図せざる効果」をもたらす、と分析しています。

健康増進のキャンペーンは、たしかに効果はあるのです。しかし、それは最初だけ。

キャンペーンは、くり返せばくり返すほど、「鈍感化」が起きる、とチョウは指摘しています。つまり、キャンペーンが次第に「効かなくなってくる」のです。痛み止めの麻酔を打っていると、そのうちに薬の量を増やさないと効かなくなってくるのと似ています。これが「鈍感化」と呼ばれる現象です。

2020年4月の緊急事態宣言以降、何度も自粛の呼びかけがくり返された結果、鈍感化が起きてしまい、呼びかけの効果もなくなってきてしまいました。

心のメカニズムが理解できれば行動は変えられる

以上、2度目の緊急事態宣言を出しても、そんなに効果が見られないという点について、心理学的に考えられる理由を3つご紹介してきました。

といっても、「だから、自粛しなくともよい」と言っているわけではありません。ついつい気が緩んでしまう、その心のメカニズムをよく理解したうえで、自分の行動を振り返り、今とるべき行動を考えてほしいのです。大切な自分の生命を守るためにも、大切な家族の生命を守るためにも、もうしばらくは「自粛」することにしましょう。

(参考)Cho, H., & Salmon, C. T. 2007 Unintended effect of health communication campaigns. Journal of Communication ,57, 293-317.

内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は手品、昆虫採集、ガーデニング。『すごい! モテ方』『すごい! ホメ方』『もっとすごい! ホメ方』(以上、廣済堂出版)、『ビビらない技法』『「人たらし」のブラック心理術』(以上、大和書房)、『裏社会の危険な心理交渉術』『世界最先端の研究が教える すごい心理学』(以上、総合法令出版)など著書は200冊を超え、、近著に『めんどくさい人の取扱説明書』(きずな出版)がある。

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