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ガウチョパンツとUFO【彼氏の顔が覚えられません 第30話】

  • 2015.6.4
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6月。「こんな雨の中、みんな来てくれてサンキュー!!」なんて、黄色いモヒカン頭の集団の一人がマイクを振り上げて言う。

力強さを感じるパフォーマンスだけど、「サンキュー」の「キュ」のところで先走ってマイクを口から放したのはよくなかった。スピーカーから出た声は「サンキュッ…!!」と尻すぼみになってしまった。デニムのホットパンツを履いたお尻まで、きゅっ、と引き締まったように見えた。

カズヤから誘われたライヴハウスにいる。こぢんまりとして、30人くらい入ったらいっぱいになってしまいそうなところ。お客同士の体が密着するくらい近いし、ステージとの間も演奏者のツバがかかるくらい。アットホームと言えば聞こえはいいかも。

入り口にたくさんのアーティストのライヴ告知ポスターが貼られていたけど、聞いたことのないアーティストばかりだった。ケジラミンとか、69セントとか、ボークビッチーズとか。どれもユニット名にイロモノ臭しかしないけれど、意外に顔は整って――つまり、私にはまったくのぺらぼうに見えた。

ちなみにカズヤの出番の一つ前のウッドストックみたいな頭をした連中は、スーパーマリオネットワールドとかいう名前だった。どのへんがスーパーなのか、マリオネットなのかということはぜんぜんわからなかった。まぁ、バンド名なんてみんなノリで付けてるんだろう。

で、そのスーパーマーケット…じゃない、パペットマペット…って、あれ、どれが正しいんっだっけ。ともあれ、そんな感じのホットパンツ連中がはけた後で、隣のコモリが言った。

「あ、次、タニムラ先輩の番ですわよっ」

タニムラ先輩――カズヤのことだ。いや、そんなことよりも彼女の衣装の方がいまだに気になる。フランス人形みたいな水色のドレス。さすがはお嬢様、「ライヴなんて初めてですわっ。おめかししていかなきゃ」と選んでくれたようだ。

ただ、おめかしというよりロリータコスプレにしか見えない。サブカルなアーティストが集まるライヴハウスだからよけいに。私は赤系のチェックシャツに、黒のガウチョパンツ。べつに、オシャレという意識はない。スカートよりラクかな、と履いてみただけだ。

だいたい、このライヴにくる必要もなかったハズだった。カズヤとの仲はもう終わったと思っていたのに――。

一週間前の、スタバでのこと。とつぜん目の前に現れて、「俺、出るから。こいよ」とチケットくれて。

「わぁっ、行きます行きますわ! タニムラ先輩、わたくしのこと覚えてますか。ユーフォ吹いてたコモリですわ!」返事したのはコモリだった。知り合いなんだ。ってか、ユー…何? UFO? 詳しい説明もナシにいろんな情報が入ってきて、混乱しかけた。

つまり、カズヤも付属高校の出身だったらしい。まさか、鎌倉から電車通いのハズなのにと思ったら、「そりゃあ、高校のころから電車通いに決まってるじゃないですか」とコモリ。いや、そういうことじゃなくて…。

私の周り、どんだけ多いんだ付属出身。

(つづく)

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(平原 学)

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