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『麒麟がくる』本能寺の変まであと5年 長谷川博己と染谷将太が残す“言葉”と“顔”

  • 2021.1.17
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『麒麟がくる』(写真提供=NHK)

残すところあと4回の放送となった長谷川博己演じる明智光秀の生涯を描いた大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合)。最大の山場である「本能寺の変」を前に、これまでの光秀と染谷将太扮する織田信長との関係性のなかから、二人の芝居の凄みを見ていきたい。

本作のタイトル『麒麟がくる』にある“麒麟”とは、乱世が穏やかになったとき、世を収めた王のもとにやってくる霊獣だという。光秀は明智十兵衛と名乗る物語の序盤から、穏やかな世を心から願っており、それは仕えていた斎藤道三(本木雅弘)はもちろん、その後に出会う人々に対しても同じような期待を持っていた。

こうした考えは、光秀に限ったことではなく、道三をはじめ多くの武将たちも心の底では、戦いのない泰平の世の到来を願っているという描写は、ところどころに出てくる。

そんななか、光秀は道三の娘、帰蝶(川口春奈)が尾張・織田家に嫁ぐことになったことから信長という男と出会う。親近感と狂気性という多面的な信長に不気味さを感じる光秀だったが、道三が言った「大きな国」を作れば争いはなくなると考えていた光秀は、桶狭間の戦いで今川義元(片岡愛之助)を破った信長にその力があるとおぼろげに感じる。つまり、光秀にとって信長は“平和な世を作れる可能性のある救世主”というわけだ。

一方、信長の行動の多くは、承認欲求によって突き動かされている。そこには幼少期から母・土田御前(檀れい)に疎まれ、弟・信勝(木村了)ばかりを寵愛する姿を見て「褒められたい」「認められたい」という思いが人一倍強くなっている。帰蝶との関係性も“褒めてくれる母”のような存在として、やや過剰に敬っている部分があり、その帰蝶が絶大な信頼を置いている光秀は、自然と信長にとっても大きな存在になっている。

ことあるごとに光秀に意見を求める信長。そして光秀の助言がことごとく功を奏するため、ときが経てば経つほど、光秀に対する信頼感は増してくる。癇癪持ちとして知られ、残虐なエピソードも多く語られる信長だが、光秀に対しては、とにかく特別感が溢れている。普通なら酷い仕打ちを受け兼ねないような場面でも、基本的には寛大な対応をする。

例えば、第25回「羽運ぶ蟻(あり)」で、信長は光秀に「十兵衛、わしに使える気はないか?」と誘うが、光秀はやんわりとその意思がないことを伝える。さらに第27回「宗久の約束」でも、再度信長は光秀に対して「義昭さま(滝藤賢一)のおそばに仕えるのか、それともわしの家臣となるのか」と決断を迫る。

その際もはっきり光秀は「将軍のおそばに参ります」と即答。信長は「残念だが、分かった。以後そのように扱う」とやや冷淡な一面を見せつつも、その後、光秀への対応が厳しくなることもなかった。

さらに第34回「焼討ちの代償」では、光秀が信長の命に反して比叡山焼討ちの際に、女子供を見逃したことを謝罪すると、信長は眼光鋭く「それは、聞かぬことにしておこう。他の者ならその首跳ねてくれるところじゃ」と言葉として語ったように、信長にとって光秀は特別な存在であることが分かる。

そして第38回「丹波攻略命令」では、美濃から光秀に助けを求めてきた斎藤利三の処遇について、信長から助けるなというお達しが出ると、光秀はキッパリと拒絶し、将軍・足利義昭や幕臣・三淵藤英(谷原章介)に対する冷遇を責める。光秀に甘い信長もさすがに「帰れ!」と怒号を飛ばすが、すぐさま「呼び戻せ」と家臣に命じ、丹波平定を条件に、光秀が命令を拒否したことは不問にした。

しかし、軸となる信頼は変わっていないものの、特別な存在と思っている光秀に対して、少しずつ信長の表情に変化は見られる。最初に家臣になる話を断った際は、本当に残念そうだったが、2度目のときは自分に従わないことへの不満が、そして比叡山焼討ちの際には、確実に光秀に対して、負の感情が見てとれた。

そんな信長の光秀に対する信頼が、大きく崩れたのが、第40回「松永久秀の平蜘蛛」だ。信長軍から離反した松永久秀(吉田鋼太郎)は、信長との戦に破れた際には、信長が欲している天下一の名物「古平明平蜘蛛」を光秀に託すことを伝える。

久秀の自害後、落城した信貴山城から平蜘蛛が見つからなかったことから、信長は久秀と懇意だった光秀に行方を聞くが、光秀は「存じません」と白を切る。実は羽柴秀吉(佐々木蔵之介)からの密告により、光秀が平蜘蛛のことを知っていると聞いていたが、あえて断定ではなく、光秀に回答をゆだねるあたり、どこかで信じていたいという思いがあったように感じられる。

信長の信頼に反し、光秀は嘘をついたことで、ついに光秀に対する「全肯定」が崩れてしまうが、ここでも光秀の娘・たま(芦田愛菜)の縁談を持ち出すなど、大きな感情の崩れを見せない。この信長の“ため”は、その後の反動による光秀への爆発が、どれほどのものになるのか……というざわめきを視聴者に与えた。

染谷は自身に信長役のオファーが来た際に「なぜ自分なのか」(参考:https://www.cinematoday.jp/news/N0120334)と半信半疑だったと話していたが、光秀に対峙する立ち振る舞いの繊細な変化など、視聴者を不穏な気持ちにさせる人物造形は圧倒的であり、心に残る信長を演じ続けている。

光秀に対する思いが、徐々に変化していく信長に対して、光秀の信長への変化はシンプルだ。前述したように、泰平の世を作ってくれると期待した信長だったが、彼のなかにあるのは、強い承認欲求。最初は帰蝶に褒めてもらいたいという小さな思いが、国を広げていくたびに、信長を褒める人が増えてきて、ついにその対象は正新町天皇(坂東玉三郎)にまで及ぶ。

光秀の考える「大きな国を作る」という解釈の違いに気づき、すでに信長の本質を見切ったからこそ、光秀は戦火の火種となるような信長の行動には、しっかりと異を唱えてきた。その反論の仕方も、信長の不気味さと違い、光秀は非常にストレートだ。そんな光秀の真っすぐな性格と、長谷川の背筋が伸びた俳優としての佇まいが絶妙にマッチしており、時間を重ねるごとに、「本能寺の変」に向けて、光秀の一挙手一投足に感情移入してしまう。

主君に謀反を起こした「本能寺の変」だが、そこに至るまでの光秀の動機と思われるものは、物語のあちこちにちりばめられている。さらに本作で見せる長谷川、染谷という名優が織りなす役柄への人物造形によって、二人の複雑な関係性がより立体的に浮かび上がっているからこそ、どんな展開になってもドラマチックな結末になることは必至だ。

いよいよ大一番、信長は光秀が起こした行動にどんな言葉を残すのか。そして光秀はいかなる表情を見せるのか。長谷川と染谷の“顔”にも注目したい。

(磯部正和)

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