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『おちょやん』が描く力強く生きる女性たち 朝ドラの“お約束”、山村千鳥一座の再登場を願って

  • 2021.1.17
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『おちょやん』写真提供=NHK

描かれたのは、男性に頼らず力強く生きる女たちの姿ーー。

NHK連続テレビ小説『おちょやん』。大阪・道頓堀の芝居茶屋「岡安」を出て京都に着いた千代(杉咲花)は、「カフェー・キネマ」で女給として働きながら女優を目指す。そんな千代のはじめの一歩となったのが、山村千鳥(若村麻由美)率いる一座での雑用係。第5週「女優になります」と第6週「楽しい冒険続けよう!」では、夢を持ち前を向いて生きる女性たちの姿が鮮やかに浮き上がった。

●二番手としてトップを支えきった清子

ぐっとビールを飲み干し「あいつ、ほんましょうもないで!」とまなじりを上げる清子(映美くらら)。千代が働くカフェーを訪れ、師匠・山村千鳥に対する思いを吐露する。

「すぐ怒鳴るし口悪いし我儘やしモノ投げるし性根ねじ曲がってるしババアやし」
「化粧濃いしババアやし」

薮内清子という人物を一言で表すと“非常に有能な二番手”。座長である千鳥と他の座員たちとの橋渡しをしながら、一座全体をしっかり見渡すマネージャー的役割も担っている。「正チャンの冒険」舞台化に関しても、ただ流行っているからアレで行きましょうという思いつきではなく、世の流れを見て自ら台本を執筆し、衣装プラン図までカラーで描く念の入れよう。マーケティング+企画立ち上げ+資料作成からのプレゼン。完璧である。

“カリスマ”的なリーダーがトップに君臨する上で必要不可欠な存在、それは“リーダーを支える有能な二番手”。一座がこれまで興行を打ってこられたのは、千鳥のカリスマ性と清子の実行力、そのふたつが合わさっていたからだ。優れた役者が優れた統率者であるとは限らない。芸のことしか考えられない千鳥を支え、誰よりも彼女を輝かせた存在が清子なのである。

じつは清子を演じた映美くららも“トップスターを輝かせた”人物。宝塚歌劇団在籍時には入団3年目でトップ娘役に就任。紫吹淳、彩輝直(現:彩輝なお)といった2人の月組男役トップスターの相手役として舞台に立ち、男役スターの魅力を娘役として引き出してきた。

カフェーで千代相手にさんざん千鳥の悪口を言った後で清子は表情を変え、こう語る。

「私、山村千鳥が大好きやねん」

人間的には不完全なところも多いが、芸事への真摯な態度、そして何より行き場のなかった自分たちを役者として育ててくれた千鳥を清子は心の底から尊敬し慕っていた。だからこそ「正チャンの冒険」千穐楽後に一座の解散を決意した千鳥の想いを受け容れ、自らも新たな一歩を踏み出すことを決めたのだろう。清子の未来に幸あれ。

●子供がいても夢をあきらめない洋子

千代が住み込みで働く「カフェー・キネマ」の1番人気・若崎洋子(阿部純子)。彼女も女優になることを夢見るひとりだ。

一見華やかで大人に見える洋子。が、彼女にはある過去が。それは離婚歴があり、ひとり息子を広島にいる元夫が育てているという事実。

息子・進太郎(又野暁仁)の着ている服は上等で(蝶ネクタイまで付けている)、元夫には経済力があることが見て取れるし、京都に暮らす元妻のもとに息子を預けていることから、離婚後もふたりの関係は悪くないと思われる。

とはいえ、この時代に、家や家族より仕事や夢を取った女性に対する世間の風当たりは優しくなかっただろう。それでも洋子は自分が自分として生きる道を捨てきれなかった。そこにどれほど強い思いがあったことか。

「正チャンの冒険」の舞台を観ながら、ふと進太郎に笑顔を向ける洋子。ただ母親として息子と対峙する彼女の表情は柔らかい。進太郎を送り出した後は、またひとつの椅子を争う戦いが始まるのだ。

●誰よりも厳しく、誰よりも脆い山村千鳥

「自分が最も嫌っていた見下す側の人間にいつの間にか自分もなっていた」

下手ではあるが千代の本気の芝居に沸く観客の姿を見て、演技者としての自らのおごりに気づいた山村千鳥。彼女は一座を解散し、全国を回る修行の旅に出ると千代に告げる。

思えば不思議な関係だった。師弟関係でありながら、物おじせずに千鳥にぶつかっていく千代と、そんな彼女に影響され、次第に固まった心がほどけていく千鳥。人としての精神年齢は千代の方が上だったのかもしれない。

千鳥が「大嫌い」と高城百合子(井川遥)の名を口にする時、私にはその裏にある「あんな風に生きたかった」「羨ましい」という叫びが聞こえる。百合子を空に輝く太陽、自らを夜の暗闇に例える千鳥。人は人、自分は自分と開き直れない彼女の弱さが突き刺さる。

そんな「大嫌い」な百合子が活躍する鶴亀撮影所に千代の紹介状を書き、四つ葉のクローバーの押し花で作ったしおりをぶっきらぼうに渡す千鳥。彼女なりの精一杯のはなむけ。最後の最後まで最高のツンデレぶりだ。

千代のモデルとなった浪花千栄子の自伝『水のように』によると、浪花を映画会社の「東亜キネマ」に推薦したのは彼女が立っていた舞台の劇場主。当時、下降気味だった「村田栄子一座」(村田栄子=山村千鳥のモチーフと思われる女優)から抜け、映画の世界に行くよう劇場主から後押しされたとのこと。が、そんな史実よりドラマの方がずっといい。

実際の村田栄子は浪花が一座を抜けたすぐ後に舞台で倒れ、30代の若さでこの世を去っている。だが、山村千鳥は新たな自分と出会うために、全国を周る“冒険”の旅に出た。朝ドラでは物語の終盤に、それまで登場したキャラクターが再び現れるのがお約束。「あなたの困った顔を見に来たわ」そう不敵な笑みを浮かべる千鳥にまた会いたい。

大好きだったよ、千鳥さん。(上村由紀子)

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