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『おちょやん』山村千鳥一座篇を振り返る 若村麻由美×映美くららが体現した俳優の生き様

  • 2021.1.16
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『おちょやん』写真提供=NHK

『おちょやん』(NHK総合)で山村千鳥を演じる若村麻由美が『土曜スタジオパーク』(NHK総合)にゲスト出演した際、「来週の『おちょやん』、特に木曜日(1月14日)の放送は絶対に見逃さないでください」と言っていたが、第29話は主人公の千代(杉咲花)が女優への第一歩を踏み出す場面が見事に描かれた濃密な回となった。

千代が憧れるスター女優の高城百合子(井川遥)が太陽ならば、「山村千鳥一座」の座長・山村千鳥は暗闇だと千鳥自身が例えるほど、2人は真逆の魅力を持つ存在だ。千鳥は過去に不幸な結婚をして、ひどい夫に裏切られて捨てられ、自分を見下す世の中を見返すために役者になったという。

わがままで千代を振り回し、座員に対しても物を投げ、暴言を吐く。射るような視線、凛々しい表情が印象的な若村麻由美は、千鳥に限らず感情の起伏が激しい役、怒鳴る役などが多く、朝ドラ『純と愛』(2012年)で演じた愛(風間俊介)の母親・待田多恵子も高圧的な弁護士だった。いずれの役柄も“嫌な奴”になりかねないキャラクターだが、若村が演じるとそうはならない。ひとつのひとつの言葉、表情の裏側に陰が滲み出ており、演じるキャラクターのそれまでの生き様が伝わってくるのだ。

また、『純と愛』には、「山村千鳥一座」の座員で千鳥を支える薮内清子役を演じる映美くららも、“セクシー”なホテルの客室係・ 天草蘭として出演していた。若村演じる千鳥と同様に、清子も千代の役者としての成長に欠かせない人物であった。

清子が千代に「あの人(千鳥)についていくって決めたんや」と酔った勢いで語る場面があった。10年近く一緒に舞台を続け、心から尊敬しているからこそ出た、嘘偽りない言葉。そして、横暴な千鳥に対しても口答えなどしない清子にも、千代が感じたように千鳥のつらい過去に共感するそれなりの事情があるのだろう。女性が舞台に立ち、役者として活動することへの偏見はまだ強く、まして自立して生きていくのが今以上に困難な時代。千鳥が見下す側の相手に抗い、才能や個性を認めさせようと懸命に稽古に打ち込んできたことを誰よりも知っているのが清子だった。同じ志を持っていながらもキャラクターは正反対の千鳥と清子。“アメとムチ”のような存在感で千代の女優人生の第一歩目を支えた存在だった。

足を怪我した清子の代役として「正チャンの冒険」で主役の正チャンを演じることになった千代。荒削りな芝居ながらも、失敗を機転で成功に導き、舞台を成功に導くだけでなく、一座の連帯も強めた。認められることで心に負った深い傷を癒す……千代も、千鳥もおそらく清子も、舞台の中に自分の居場所と進むべき道を見つけたのだろう。

千鳥は千代に「自分の未熟さを行って思い知るといいわ。次に会うときはあなたの困り果てた顔をみるの楽しみにしてるから」と高城百合子が看板女優を務める鶴亀撮影所への紹介状を贈る。自分で決めたら誰の指図も受けない孤高の人、千鳥は一人で全国を回って自分を鍛え直すと一座の解散を決めてしまったが、それは出発であって違うかたちでの千代との再会を期待しているということ。

千代は別れがたい人たちと出会い、成長し、こうして新しい“冒険”を続けていく。「正チャンの冒険」で千代が思わず「今までつらいことばっかりやったかもわからへんけど、大丈夫。きっとこれからはええことも仰山ある。みんな一緒に楽しい冒険つづけよう」とアドリブで言った台詞は、千鳥や清子の心にも刺さったはず。奇妙な出会いと別れを繰り返しながら大きく羽ばたく千代は、やはり王道のヒロインといえるだろう。

若村麻由美、映美くららを中心とした山村千鳥一座との“冒険”は決して長い時間ではなかったが、千代がなぜ俳優として生きていくのか、なぜ芝居に人は魅せられるのか、その意義を描いた重要なパートだったように思う。(池沢奈々見)

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