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<おちょやん>杉咲花が“名女優”を演じるにふさわしい理由 熱意も空回りも自在な演技力に感服

  • 2021.1.9
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「おちょやん」第21回より 千代(杉咲花)は京都のカフェーキネマに身を寄せる (C)NHK
「おちょやん」第21回より 千代(杉咲花)は京都のカフェーキネマに身を寄せる (C)NHK

【写真を見る】“ハゲヅラ”姿もキュートな杉咲花!かわいすぎる…

“朝ドラ”こと連続テレビ小説「おちょやん」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は一週間の振り返り)第5週「女優になります」は、いよいよ本題に突入。主人公・千代(杉咲花)が京都で心機一転、女優になることを決意し、山村千鳥一座に入団する。だが、千代は想いだけは強いが、肝心の演技はさっぱりで…。千代の熱意と空回りを自在に演じて、朝ドラ主役の貫禄を見せる杉咲花について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)

物語は本筋へ!千代、いよいよ女優の道に進む

「おちょやん」は、浪花千栄子さんという知る人ぞ知る名優をモデルにした物語。貧しい家に生まれた千代がやがて女優になって活躍していく姿を描く。第5週は、千代を借金のかたに身売りしようとした父テルヲ(トータス松本)から逃れ、大阪道頓堀から京都にやって来た千代が、カフェーキネマという客商売(キャバレーの元祖)の店で働きながら、女優を目指す決意をする。

大阪道頓堀の芝居茶屋で芝居の面白さに目覚め、演じることに興味もあったものの、明確に女優になりたいとは思っていなかった千代だが、カフェ−で知り合った同世代の洋子(阿部純子)や真理(吉川愛)が映画に出ることを目指して頑張っている姿に刺激されて「女優になります」と宣言する。それには、女優になれば、生き別れの弟ヨシヲにも気づいてもらえるかもしれないという思惑もあった。

「おちょやん」第22回より 千代は女優を目指す (C)NHK
「おちょやん」第22回より 千代は女優を目指す (C)NHK

朝ドラヒロインになる儀式

やる気だけは人一倍、どうしたら女優になれるかわからない千代は、撮影所のえらい人に直接会おうとするが、当然ながら関係者以外中に入れてもらえない。守衛(渋谷天外)との攻防を繰り返す。このとき、千代はハゲヅラをかぶって変装して守衛の目をくらまそうとする。

明るく爽やかなイメージの朝ドラヒロインが、ハゲヅラをかぶるとはなかなか快挙である。朝ドラヒロインは、最初に川や池に落ちるなどの体当たりかつユーモラスなところも見せて、表現の突破口を開く、ある種の儀式みたいなものがあるのが常。杉咲花の場合、それがハゲヅラだったのではないだろうか。

杉咲花はいまさらあえて水に落ちたりしなくても、十分、ダイナミックな演技に定評がある。出世作である映画「トイレのピエタ」(2015年/松永大司監督)では辛い身の上を背負いながら決して負けずに生きているヒロイン・真衣を演じ、小柄なカラダからものすごい熱量を出して叫ぶシーンなどが圧巻だった。

そうかと思えば、映画「十二人の死にたい子どもたち」(2019年/堤幸彦監督)では哲学的な思想をもった少女アンリを演じ、やや難しげな思想を語る長台詞を明晰に語り、少女のもつ底知れない怜悧な感性や頭脳を感じさせた。激しい熱さも抑制された冷たさも、どちらも社会に対する怒りがこもっている。それを演じることができる力は同世代の俳優のなかでもトップクラスである。

そんな彼女だからこそ、社会の底辺で苦労しながら、俳優としても人間としても鍛錬を積み、巨匠・溝口健二、小津安二郎などに起用されるほどになった浪花千栄子をモデルとした役を演じることができるはず。

「とと姉ちゃん」(2016年)でヒロイン(高畑充希)の妹役で注目された杉咲花が、朝ドラヒロインとして戻ってきたとき、これほどふさわしい役もないのではないだろうか。

「おちょやん」第25回より 演技が光る杉咲花 (C)NHK
「おちょやん」第25回より 演技が光る杉咲花 (C)NHK

あえて下手くそな演技も

ただ、いまはまだ千代は発展途上。だからあえて“下手くそな演技”の演技もしないとならない。それも杉咲は的確に愛嬌をこめてやっている。

東京出身にもかかわらず、関西弁が完璧と話題になっている杉咲。しかも、千代の関西弁はややガラの悪い物言いもあるがそこを澄んだ高音で、軽妙に、深刻に成りすぎずに聞かせるテクニックもさすがである。

身体表現もさりげなく豊かで、座布団を何枚も重ねて、人混みをすばしこく駆け抜ける動きなどにも目をみはるものがある。さすが、大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019年、NHK総合)で陸上選手になりたい役・シマを演じ、いい走りを見せただけはある。身のこなしが軽快で、ときおり、くるりと身を翻す様は、画面のいいアクセントになる。

「おちょやん」第24回より 山村千鳥一座の清子(映美くらら)は劇団の未来を心配して……。 (C)NHK
「おちょやん」第24回より 山村千鳥一座の清子(映美くらら)は劇団の未来を心配して……。 (C)NHK

無念の初舞台中止を乗り越えて

抜群の演技力の杉咲だが、浪花千栄子さんのような舞台経験はない。本来なら、「おちょやん」がクランクインする前、2020年4月に、古典的名作、チェーホフの「桜の園」で初舞台を踏む予定だったが、コロナ禍によって中止になってしまった。大竹しのぶ、宮沢りえ、黒木華という舞台経験の豊富な女優たちとの共演と、演劇界の鬼才であるケラリーノ・サンドロヴィッチの演出を受けることで、女優・千代を演じる学びにもなったはずで残念でならない。だが、稽古は行っていたので、先輩たちに多くを学んだはず。それが「おちょやん」にきっと生きていると思う、今後、千代が女優として活躍していくときの説得力として。

「おちょやん」第24回より 千代が入団する劇団の座長・山村千鳥(若村麻由美)は厳しかった (C)NHK
「おちょやん」第24回より 千代が入団する劇団の座長・山村千鳥(若村麻由美)は厳しかった (C)NHK

千代が入団した劇団の座長・山村千鳥役は若村麻由美で、彼女も仲代達矢の主宰する劇団・無名塾出身で舞台経験が豊富な女優である。杉咲とはドラマ「ハケン占い師アタル」(2019年、テレビ朝日系)では母子役で共演している。この母子にはかなりディープな関係性とドラマがあったので、「おちょやん」でも千代と千鳥のやりとりに注目したい。

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