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いま再び脚光を浴びる、不条理を描くビュフェの回顧展。

  • 2021.1.7
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現代の災禍に重ねる、人間の不条理への眼差し。

『ベルナール・ビュフェ回顧展私が生きた時代』

『カルメン』1962年、油彩、カンヴァス、ベルナール・ビュフェ美術館所蔵。妻の神秘的な容姿に霊感を得たオペラの衣装。

黒々とした鋭い描線と抑えた色彩により、極限まで対象を削ぎ落とし、本質をえぐり出す作風で知られるフランスの画家ベルナール・ビュフェ(1928~99年)。40年代、戦渦の記憶も生々しい時代に世に出た彼は、当時若者の間でブームだったサルトルの実存主義やカミュの不条理の思想と呼応し、不安や虚無といった時代の空気を自らの実感とともに激しい筆致で表現する。その作風は「悲惨主義」と呼ばれて一世を風靡した。

70年代には戦後の具象画壇を牽引した画業が評価され、仏政府より勲章を授与。また73年、静岡県・三島に世界唯一のベルナール・ビュフェ美術館が開館し、重厚なコレクションを所蔵する。画業の大半にわたり脚光を浴び、南仏移住の時期には作風に明るさの兆しも現れたが、人間の負の感情への眼差しは変わらなかった。激情に突き動かされた力強い描線はむしろ表現主義的傾向を強めていく。そこには彼の生きた時代とその空気に翻弄された内面が反映されている。

『キリストの十字架降下』1948年、油彩、カンヴァス、ベルナール・ビュフェ美術館蔵。20歳の頃に描いた作品。 晩年は、難病で死を予測し自ら命を絶った。

近年、美術界の寵児でありながら生涯苦悶し続けたこの画家に再び光が当てられている。2016年にパリ市立近代美術館で開かれた回顧展では画歴を濃密に掘り下げ、現代社会の様相をも炙りだす作品世界が新たな観客層にも反響を呼んだ。本展ではまさにその「時代」をキーワードに、ビュフェが生涯囚われ続けた不条理な人間性の本質を、現代の災禍に重ねてみる機会となるだろう。

『ベルナール・ビュフェ回顧展私が生きた時代』会期:開催中~2021/1/24Bunkamuraザ・ミュージアム(東京・渋谷)営)10時~18時料)一般¥1,600※2021/1/16、17、23、24は事前予約制●問い合わせ先:tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)www.bunkamura.co.jp※お出かけの際にはホームページにて最新情報をご確認ください。

*『フィガロジャポン』2021年2月号より抜粋

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