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「逃げ恥新春SP」は普通のアップデートに成功したか。子どもが生まれても自覚が持てない男はたくさんいる!

  • 2021.1.5
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「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!」(TBS系)が1月2日に放送。作中で平匡(星野源)から飛び出した、“普通のアップデート”というセリフ。新しい価値観を受け入れ、“普通”をより良いものにしようという言葉だ。果たして、「逃げ恥」は普通のアップデートに成功したのだろうか?

2016年に放送された「逃げるは恥だが役に立つ」。雇用関係として契約結婚をしたみくり(新垣結衣)と平匡は、お互いに寄り添い、仕事という形で夫婦関係を築き上げていく。派遣切り、高齢童貞、LGBTQ問題、様々な社会問題をコミカルかつ新鮮にぶった切っていく爽快さが社会現象を生んだ。

連ドラ時と今回の正月SPの大きな違いは、“周りに黙って”という楽しい設定がすでに消費されてしまっていること。演出の金子文紀氏から「前ほどキュンキュンを売りにしてはいけない」などの発言もあったが、ラブコメ要素よりも社会派な一面が前面に押し出されていた。「選択的夫婦別姓」「産休・育休の順番待ち」「独り身の大病」「同性愛者の老後」など、2時間半の放送で「何にも考えさせられない」シーンはひとつもなかった。

子どもが生まれても自覚が持てない男はたくさんいる!

舞台は、2019年6月。みくりと平匡は、雇用関係から本物の夫婦になっていた。料理は、平日帰りの早いみくりが担当し、休日は平匡が。洗濯は、お互いの出勤時間のズレをうまく利用してやっつけるなど、合理的な家事を分担する。「エアコンのフィルターを掃除しておきました」と担当外でやったことをお互いにアピールする姿は、4年ぶりにすごくこの2人らしい。

そんな中、みくりの妊娠が発覚する。結婚生活は順風満帆だったが、妊娠検査薬の陽性反応を見せたときの平匡の反応に、みくりは不満げ。実際、妊娠を男がちゃんと自覚するのに時間がかかるケースはある。

パートナーのお腹がふくれてやっと気づくヤツ、赤ちゃんの顔を見るまで何も感じないヤツ、生まれてもまだ独身気分のヤツ、妊娠発覚時に大喜びしたけど本当はなんにも自覚できてないヤツ。平匡は正直すぎて冷たい印象こそあったが、かなりマシな部類だと思う。ちなみに僕は、妻のお腹の中から赤ちゃんが蹴ってくるまで事の重大さをよく理解できていなかった。申し訳ないことに理解しているフリをするので精一杯だった。

「父になる」ということを少しずつ自覚した平匡は、みくりに「全力でサポートします」と宣言。しかし、みくりは「サポートって何?手伝いなの?一緒に親になるんじゃなくて?」と考え方の違いを指摘する。すれ違ったまま2人の妊娠生活という戦いが始まる……というところでチャラン・ポ・ランタンのオープニングテーマ「進め、たまに逃げても」が流れる。

どう辛いのかがわからない問題

男からすると、今作は妊娠の知識を得る良い機会になったのではないだろうか。逆に女性からしたら「いいぞ!もっと言ってくれ!」なんて気持ちもあったかもしれない。現実問題で「お腹がふくれていない妊婦に電車で席を譲らなくてもいい」と考えている男はたくさんいる。頻尿、尿漏れ、足のつり、過去に自分の妻が子どもを生んでいるはずなのに、それらを全て忘れているおじさんも全然いる。

上記に挙げた例は問題外かもしれないが、女性に理解して欲しいのは「思いやろうとしても辛さがわからないからどうしていいかわからない」ということだ。平匡がグレープフルーツゼリーを求めて奔走するも、帰宅した時にみくりが爆睡しているシーンがあった。平匡の「なんとかしてつわり中でも食べてもらいたい!」という思いと、みくりの「できれば何か食べたいけど、体調悪いから寝てしまおう」という考えがすれ違った瞬間だ。男は、妊婦が何を求めているのかよくわからないのだ。だから細かく聞こうとする、でもそれが妊娠中の女性にはウザかったりしちゃう。本当に難しい。

仕事と家事に追われた平匡は、荒れ果てた部屋でのんきにスマホをいじるみくりを見て、「少しくらい片付けてくれたっていいじゃないですか!」と叫んでしまう。パンクしたのだ。しかし、みくりとしては「暗い顔をしていたら平匡さんに悪いと思って」という気遣いだった。“妊娠していない側”への思いやりが、少しだけズレて伝わってしまったのだ。お互いのことは、口に出さないとわからない。口に出したってわからないことはたくさんある。悪い人が登場しない物語は、歯痒い。

育休問題、灰原はそんなに悪いか?

育休についての話し合いで、平匡から冒頭でも触れた“普通のアップデート”という言葉が飛び出した。男の育休は取る人が少ないだけで当然の権利、当たり前のことを当たり前にして生活を改善していこうというのだ。

しかし、そんな平匡にプロジェクトリーダーの灰原(青木崇高)は、「休んだって男はやることがない」「1カ月も休まれたら困っちゃう」と難色を示す。これに沼田(古田新太)は、いつ誰が抜けても大丈夫なように日頃の環境作りが大事と説く。日野(藤井隆)らも乗っかり、灰原はフルボッコに。最後に沼田がやる気をくすぐるように灰原を操り、男の育休問題は落着した。

灰原はこの前のシーンで女性に“劣化”という言葉を使い、とんでもなく外道な人間として描かれていた。それもあってすごく沼田の独演は爽快なシーンに見えたが、育休についてだけ見ると少し気の毒な気もする。

いくら育休が認められた制度でも、苦労を被るのは残されたメンバーだ。日頃の環境作りを怠ったかもしれないが、リーダー1人の責任というのもなんとも厳しい。そもそも会社が育休を認めるなら、残された者たちをバックアップする体制を作るべきでもある。「男の育休は普通だ!」と語られたが、どうやったってそれができない業種や企業はたくさん存在する。

実際作中で平匡は思うように仕事が進まず、育休のために大晦日まで出勤するハメになっている。やっぱり、普通のアップデートは難しい。正論を唱えた上で現実もしっかりと描写。このドラマはすごくフェアだ。

今もまだアップデート中

様々な社会問題を議題に挙げ、その考え方、取り組み方を提示した「逃げ恥SP」。しかし、2時間半で普通のアップデートは完了しなかったように思う。というよりも、現代の日本ではアップデートに耐えうる容量が足りないため、アップデート中であることを強調したことに意味があるのだ。

「アップデートしてください」のポップアップをイライラしながら消した人もいるだろう。わかっちゃいるけど、それを受け入れるキャパシティがない時だってあるのだ。実際に僕も、平匡の「育児をサポート」発言にみくりが「一緒にでしょ!」とキレた時は、さすがにそこまで言ってやんなよと思ってしまった。そもそも、それが正解なのかもハッキリとは提示されていない。

現状に満足せずに、よりよい生活を求める。当たり前のことだが、意識しないとなかなか出来ないことだ。今回「逃げ恥」が提示した社会問題は、一体何年後にすべてクリアになるのだろうか? 梅原(成田凌)が「早く100年後になればいいのに」と言っていたが、もしかしたらそれくらいかかるかもしれない。しかし、その時はその時で、また別の問題をアップデート中なんだと思う。

■さわだのプロフィール
企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。

■たけだあやのプロフィール
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。

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