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『逃げ恥』は“答え”ではなく“一緒に考えるきっかけ”をくれる 2021年を明るく生きていくエール

  • 2021.1.3
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『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』(c)TBS

必ず、必ず、生きていれば、また会える――。

収束の兆しがまだまだ見えないコロナ禍に、混乱している2021年のお正月。忘年会や新年会、里帰りなど、会いたい人と会えない年末年始を過ごしている人も少なくないはずだ。そんな中、『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』(TBS系)がオンエアされた。

2016年10月に放送開始した『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、海野つなみの同名漫画を原作に、みくり(新垣結衣)と平匡(星野源)の雇用関係としての契約結婚を描いた。お互いにとっては最良の手段となった契約結婚。しかし、周囲に理解を求めるのは難しいと考えた2人は度重なる話し合い、「火曜はハグの日」などの試みを経て、“夫婦”というプロジェクトを進めていく。「夫とは」「妻とは」「結婚とは」……それまで“普通”として大きく括られてきたものを因数分解し、自分たちならではの解を導こうとする2人。その過程で、信頼関係と共に恋が生まれていくラブストーリーが新しかった。あれから4年が経った。私たちの“普通”はどのくらいアップデートされただろうか。

■物語の願いは「令和のうちにもっと優しい社会に」
本当の恋が生まれ、事実婚を続けていたみくりと平匡。2人の結婚生活は実に穏やかだった。最新家電を積極的に用いて家事の負担を減らし、それぞれの生活リズムを大切にした暮らし。夫婦としても板についていた。だが、2人が望む選択的夫婦別姓制度は成立せず、さらにみくりの職場では産休・育休を考えて女性社員が妊娠する順番を待つなど、世の中はなかなか進んでいないようだ。

厳しい現実を前にすると妄想が捗るみくりは、「令和」の元号発表会見をしてみたり、『ねほりんぱほりん』(NHK)に出演してみたりと大忙しだ。テレビ局を超えたコラボはさすが『逃げ恥』。社会問題をグサリとえぐりながらも、クスリとさせてくれる緩急がうれしい。

そんなとき、みくりの妊娠が発覚。おめでたいことなのに「ご迷惑をおかけしてすみません」と職場の人に謝らなければならない空気。夫婦2人で家族になろうという考えを持つ平匡も、育児休暇の取得を申請する。だが、プロジェクトリーダーの灰原(青木崇高)から「男がそんなに休んでどうするんだ」という新たな壁が立ちはだかる。

■女性も男性もそれぞれの「つらい」をハグできたら
今回の新春スペシャルでは、平匡の苦悩が中心として描かれる。理想の父親という潜在的なプレッシャーと、新しい時代の夫婦像を描いていきたいという思いの狭間でいっぱいいっぱいになっていく。だが、それをうまく吐き出す方法を平匡は知らない。「つらい」と愚痴ることも「男らしくない」という思い込みの前に、気が引けてしまうのかもしれない。

連続ドラマでは、みくりの親友でシングルマザーのやっさん(真野恵里菜)、独り身で楽しく生きる伯母の百合ちゃん(石田ゆり子)など、異なる生き方を選んだ女性たちにフィーチャーすることで女性の呪いを見つめてきた『逃げ恥』は、「男らしくあらねば」という男性の呪いもないことにはしない。

積み重なり膨れ上がったストレスは、やがてパンクのときを迎える。初めての妊娠でみくりも「つらい」、でもそのパートナーである平匡だって適応しようと必死で「つらい」。真面目な人ほど、誰かに比べたら「自分なんて」と言いがち。だが、それぞれ「つらい」ものは「つらい」。

本当は男性同士のコミュニケーションが、もっとスムーズになって、お互いにケアできる関係性になればいいのだが、残念ながらまだ『逃げ恥』でそれが描かれるほど、社会の正解は導かれていない。しかし、この“女性も男性も「つらい」を共感していくことができたらもう少し優しい社会になるのでは?”、というヒントは確実に世の中に発信されたはずだ。

■愛情でも友情でも「好かれること」は嬉しいこと
みくりと平匡の出産と並行して、百合の子宮体がんが発覚する様が描かれた。看護師長になったという高校時代の旧友・花村(西田尚美)と再会し、なにげなく離した体調不良の相談が、早期発見のきっかけとなった。

1人で生きる選択肢が尊重されるようになった現代。だが、病を患うとなるとまた話が大きく変わる。妹はぎっくり腰、姪っ子のみくりはつわりで……と困ったとき、花村が付添をしてくれた。家族ではないけれど、頼れる誰かがいるということは大切だ。それまで1人で頑張ろうとしてきた人こそ、そういう誰かを作るのは難しいかもしれない。自己責任が叫ばれる社会だけれど、やっぱり人は支え合わなければならないときがあるのだ。

また、花村と百合のやりとりには、セクシャルマイノリティの話題も含まれる。花村は同性の恋人と暮らしており、高校時代には百合に想いを寄せていたことを明かす。だが、その好意に対して自然と「愛情か友情かどっちかなと思ったけど、どっちの意味でも嬉しいなって思ったよ」と応えてみせる百合。

どんな意味であっても、人が人を愛するというのは美しいこと。だが、同性パートナーは家族と認められないケースもまだまだあると沼田(古田新太)&梅原(成田凌)カップルは語る。それでも、今できる限りの方法で愛を育んでいるカップルがいる。花村とその恋人とのエピソードについては、原作漫画でぜひ続きを読んでいただきたい。

■2021年を生きる私たちへ「大丈夫、世界はまだこんなにも美しい」
みくりの出産後、平匡は育休を取り、2人の育児が始まった。生まれた娘の名前は、亜江(あこう)。名付けのシーンで「性別が途中で変わるかもしれないから(男女どちらでも使いやすい名前を)」というセリフが出てくるのも、実に今っぽい。

だが、社会は大きく変化する。2020年、私たちが生きたあの1年がやってきたのだ。不穏な空気は日に日に増殖し、絶望が世界を包んだ。未曾有の事態に平匡は育児休暇どころではなくなり、子を守ろうというみくりの神経も張り詰める。目に見えないウイルスは、まるで新しい呪いのように社会を蝕んでいく。

千葉・館山へ疎開することにした、みくりと亜江。平匡との別れ際、ハグをためらう2人が切ない。「ハグの日」が2人を近づけ、妊娠中の激動の日々を乗り越えたときもハグで称え合った。触れるということは、言葉を交わすこと以上に気持ちを共有することができること。でも、それができないというコロナ禍の現実が、2人の姿から見ている私たちも実感せざるを得ない。

惜しい人を亡くした。家族にも会えなくなった。仕事ができなくなった。生活が苦しくなった……今もなおその不安に押しつぶされそうになっている人がいる。その悔しさ、やるせなさ、悲しみを噛み締めた上で、あえて2020年に意味を持たせるとするならば、私たちは失うことでいかに日常が大切なものだったかを強烈に痛感した。

これほどに混乱を極めた今だからこそ、平匡がつぶやく「大丈夫、大丈夫だまだ。世界はまだ、こんなにも美しい」という言葉に励まされる。ネガティブな情報が溢れているが、そのなかにも一筋の光となるようなものを見つけることができる。

それは、誰かと繋がる時間だ。宇宙空間にたった独りで放り出されたような気分になる夜でも、誰かと繋がる技術が現代にはある。家族だったり、家族じゃなかったり、名前がつかない関係性だったとしても。

『逃げ恥』は答えではなく一緒に考えるきっかけをくれる作品だ。正解かどうかは、振り返って初めて見えてくるものだ。生きていれば、必ず会える。その日を信じて、今は工夫をしていくしかない。誰かと繋がって、それぞれが「つらい」を比べることなく吐き出して、少しでも優しい社会を1人ひとりが願って。2021年を明るく生きていこう。私たちと一緒に『逃げ恥』ワールドも懸命に生きているということを胸に。そして、つらくなったときには『逃げ恥』の話題をきっかけに誰かと繋がっていこうではないか。その逃げ道こそが、きっと役に立つ。

(佐藤結衣)

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