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新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』を目前に控えたプリンシパル・小野絢子に公演直前インタビュー 「チャイコフスキー三大バレエは、何度踊っても独特の緊張感を感じます」

  • 2015.6.2
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年明けより『ラ・バヤデール』『NHKバレエの饗宴2015-(眠れる森の美女より3幕)』『こうもり』と踊ってきた小野絢子。07年、新国立劇場バレエ団研修所を修了しソリストとして入団、一年後には主役に抜擢され、あれよあれよという間にプリンシパルに。研修所を修了するころはまだぽっちゃりとしたかわいらしいお嬢さんだったのが、今やバレエ団を代表するプリンシパルとして活躍中。品格のある姫役から、マノンのようなファムファタール、お色気たっぷりでコケティッシュなベラ(こうもり)まで、幅広い役をレパートリーに持つに至っている。たまたま『NHKバレエの饗宴-2015』で新国立劇場バレエ団の『眠れる森の美女』を観た友人が、「私この人(小野絢子)の白鳥が観てみたい~」とつぶやいたのだが、まさに白鳥は小野の当たり役の一つ!! と思っていた私は即座に「数か月後には見られるよ」と応えた。そう、この6月、小野は4度目の『白鳥の湖』に臨むのだ。


■理由はよくわからないけれど、『白鳥の湖』を踊るときはいつもと違うプレッシャーを強く感じる

この取材の直前、『白鳥の湖』リハーサル中に、小野はメルシン国際音楽祭のバレエガラ公演に参加するためにトルコのメルシン市へ出かけていた。

「オランダ国立バレエ団、ボリショイバレエ団、ポルトガルのバレエ団やトルコのイズミールのバレエ団などからダンサーが招聘されて踊ったのですが、かなり盛り上がっていました。私は(新国立劇場バレエ団の)福岡雄大さんとパ・ド・ドゥで踊るために参加しました。『NHKバレエの饗宴』の時もそうでしたが、いろんなダンサー、いろんな団体と同じ舞台に立つのは勉強になりますし、何よりワクワクします」

「『白鳥の湖』を初めて踊ったのは2010年。王子は大先輩の山本隆之さん。ええーっ、まだ早い、というのが正直なところでした。その時は振付をきちんとこなすのが精いっぱいで、この役を深く掘り下げる余裕はありませんでした」

それから2012年5月、2014年2月と、計3回この作品を踊っているが、緊張感は変わらないという。

「古典の王道、と呼ばれるチャイコフスキーの三大バレエは、踊る側にとっては独特の緊張感を強いられる作品です。私にとって三大バレエのプレッシャーはいまだに強く、中でもこの『白鳥の湖』は課題だらけです」

と、本人は言うのだが、客席から見た小野絢子のオデットは、ガラス細工のように繊細で、輝きに満ちた透明感を感じさせ、この上なく高貴で儚げに見えるのだが......。


■二幕の繊細な表現を、いかにクオリティ高く表現するか―

「二幕の、登場のシーンは特に緊張しますが、同様のはりつめた空気を客席からも感じるんです。息を潜めてじっと袖の方を伺う気配がひたひたと押し寄せてくるんです」

白鳥に姿を変えられた姫が腕を羽のように動かしながら細かなパ・ド・ブレをしながら滑るように現れるシーンだ。

「この場面で私が心がけていることは、姿はいかにも鳥のように見せつつ、しかし内側にある人間の心を伝えたい、ということです。それができたなら、王子との間に通う温かな心の交流が見えてきて、後の物語の展開をよりドラマティックに感じていただけると思うんです。しかし、この場面は派手さはない代わりに、繊細なテクニックをハイクオリティで披露しなければなりません。反対に、オディール(黒鳥)はロットバルトの命令である"王子を誘惑して騙す"という使命を実行しているだけですから、こちらの方がやりやすいですね」

......息が詰まりそうな静けさの中で、水音さえ立てずに滑る白鳥のように細かく柔らかくしなやかに、ふるえるような心を表現する。見ているこちらも、呼吸するのさえ忘れてしまいそうになるシーンである。そうした緊張感の中で"温かな心の交流"を表現する......、当たり前であるが、身体にそんな繊細なボキャブラリーを持たない私には、想像すらできない。

「二回、三回と踊るうちに自然とこう考えるようになったんです。確かに振付では鳥のような動きをするのだけれども、中には人間の心が宿っているのですよね、って」

photo:HIDEMI SETO


■物語・役のとらえ方にズレがあると、パートナーとの呼吸も乱れる

小野は、『白鳥の湖』のストーリーの主人公は実はオデットではなくジークフリード王子だ、と考えているという。

「女性にフォーカスされがちなのですが、実は王子の心の成長の物語なのだ、と思うのです」

確かに、王子は母(王妃)に"あなたもそろそろ結婚して大人になりなさい"と命じられ、憂鬱になり、憂さ晴らしに狩りに出かけた森で白鳥の姫に出会うのだ。そこで、姫の身の上話にすっかり心を奪われ、永遠の愛を誓ってしまう(私は、この展開には王子の現実逃避願望が働いていると考えている)。

「そして、黒鳥にやすやすと騙されてしまうのは、黒鳥を白鳥と同一人物だと思い込んでいるからだと解釈しています。女性であれば誰にでもこうした二面性があるのは当たり前だと思うから」

時々、表現の間合いや、パ・ド・ドゥのテクニックのタイミングがパートナーと合わなくなることもあるが、そういう時はこの"役柄への解釈"がズレている時だという。

「リハーサルでけんけんがくがくやって修正するのは、主にこうした部分です」

同じ物語の中を生きていなければ、物語もドラマティックに展開しないのだ。幸い、福岡雄大とはよいパートナーシップが築けている。

photo:HIDEMI SETO


■舞台に立つだけで空気が変わる、そんな人になりたい

先月(4月)の舞台『こうもり』では、アメリカン・バレエ・シアターのエルマン・コルネホを相手役に踊った。

「稽古場では気さくなエルマンさんが、リハーサルに入った途端にセクシーオーラ&大スター感満開になって、周りにいた女の子たちが全員目がハートに!! 役のスイッチが入るとこんなに違うんだ! と感動しました。少し前の話になりますが、英国ロイヤルバレエ団のリアン・ベンジャミンさんもふだんはクールな感じなのにジュリエットとして踊り始めた瞬間にまわりの空気ごと"かわいい少女"になっていたんです。役に入るとその場の空気を変えてしまう人って憧れます。そういう存在を目指したいとは思いますが......」

目指せてますよ、と言っても、いえいえ、と小野。この謙虚さがわざとらしくも嘘くさくもないのが、彼女の放つ"品格"のオーラだとも言えるのではないだろうか。

4度目の『白鳥の湖』。小野絢子のオデット/オディールは過去の3回の経験を経てどのように成長しているのだろう。また、初日(6月10日)を飾る米沢唯の瑞々しさ、千秋楽(6月14日)の長田佳世の凛とした佇まい、それぞれ個性の異なるオデット/オディールを楽しめるのも、今の新国立劇場バレエ団ならではの楽しみだ。

新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』
日程:2015年6月10日(水)19:00、11日(木)14:00、13日(土)14:00、18:30、14日(日)14:00
会場:新国立劇場 オペラパレス
料金:S席¥10,800、A席¥8,640、B席¥6,480、C席¥4,320、D席¥3,420、Z席¥1,620
●問い合わせ
新国立劇場ボックスオフィス
Tel.03-5352-9999
http://www.nntt.jac.go.jp/

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