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グザヴィエ・ドラン主演、ラストの衝撃と余韻が沁みる心理劇『エレファント・ソング』

  • 2015.6.2
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『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』など、監督として作品を発表するたびに注目が集まるグザヴィエ・ドランが、本作の主演。

前回ご紹介した『Mommy/マミー』だが、YEBIS GARDEN CINEMAでは初日満員の大ヒットスタートを切ったそうだ。監督のグザヴィエ・ドランは、先日開催されたカンヌ映画祭でも審査員を務めたばかり。そんな中、彼が「これは僕だ」といって出演を熱望した映画が公開される。これまでにも、俳優としても素晴らしい演技を見せてくれたドラン、今回も圧巻だった。まずはストーリーからご紹介しよう。

原作は、脚本を手がけたカナダの劇作家ニコラス・ビヨンが2004年に上演した戯曲。彼のお父さんとドランが友達だったことから本作への誕生へ繋がった。


◆ストーリー

主人公の少年マイケルは、精神病院の中でも一番の問題児だ。14歳のとき、オペラ歌手である母が目の前で自殺した過去をもち、ゾウに対して異常なまでの執着を示す。ある日、彼の担当医であるローレンス先生が失踪した。手がかりを知るのはマイケルだけ。院長のグリーンは、マイケルを呼び出し事情を聞くことを試みる。そこで、マイケルは3つの条件を飲めば、真実を話すと約束する。その条件とは、「僕のカルテを読まないこと」「ご褒美にチョコレートをくれること」「ピーターソン看護師長をこの件から外すこと」。ここから、グリーン院長とマイケルの心理戦が始まる。果たして、ローレンス先生の居場所は見つかるのか。そしてマイケルの真意は......。

監督は、カナダ出身のシャルル・ビナメ。愛情を知らずに育ったマイケルの孤独や哀しみを、巧みな映像描写で心に強く訴えかける。


◆いくつもの伏線のその先に......

冒頭、グリーン院長が事情聴取を受けるシーンから始まるのだが、物語が進むにつれ、グリーン院長とマイケルとの間に起きた出来事が徐々に明らかになっていく。見どころはなんといっても、精神障害を抱えるマイケル役のグザヴィエ・ドランと、そんな彼に翻弄されながらも何とか真実を引き出そうと懸命に向き合うグリーン院長を演じたブルース・グリーンウッド(『スター・トレック』のクリストファー・パイク役でもおなじみ)の緊張感みなぎる会話の数々だ。

マイケルは、「母を殺した」「ローレンス先生から性的虐待を受けていた」など、挑発にも思える言葉を投げかけてくる。見ている我々も必死で彼から真実を汲み取ろうとしてしまう。その一方で、グリーン院長に隠された悲しい過去も明らかとなり、話が幾重にも重なって深みを増していく。

メインのシーンとなるローレンス先生の部屋には、水槽や輝く白い窓、豪華なビロードの長椅子など、想像力を刺激するようなインテリアが配置。魅力的で視覚に訴える空間を作り出すことも、監督のこだわりのひとつ。


◆実力派キャストたちのアンサンブル

マイケルを演じたグザヴィエ・ドランの演技にはカリスマ的な存在感すら感じられ(なんと3日前までは『Mommy/マミー』を撮影していたそう)、グリーンウッドにおいては、冷静を装いながらも動揺が隠せない院長の、刻一刻と翻弄されていく微細な心理を的確に表現。まったく目が離せなかった。さらに、看護師長役には、『カポーティ』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたキャサリン・キーナーや、『マトリックス』のトリニティ役で有名なキャリー=アン・モスが登場。当初、男同士の物語かと思いきや、彼女らの存在がまた大きく物語を左右し、心揺さぶられずにはいられない。サスペンス映画といえば、ラストの結末が解き明かされた時のカタルシスのみで終わってしまう場合も少なくないが、本作はそれぞれの登場人物たちの生き様がじわじわと心に沁みて、映画館を出た後もその余韻がいつまでも残り続けるような、そんな作品だった。


『エレファント・ソング』
監督:シャルル・ビナメ
出演:グザヴィエ・ドラン、ブルース・グリーンウッド、キャサリン・キーナー、キャリー=アン・モス、
http://www.uplink.co.jp/elephantsong/

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