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実は薬より怖い「どっさり、すっきり」の便秘茶を飲むなら、原材料にコレがないか確認すべし

  • 2020.12.31
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便秘の人が頼ることが多い、市販の便秘薬や、インターネットなどでよく広告を目にする便秘茶。便秘外来で多くの患者を診てきた医師の前田孝文さんはこれらについて、「安易に頼り過ぎない方がいい」と警鐘を鳴らします——。

※本稿は前田孝文『男の便秘、女の便秘』(医薬経済社)の一部を再編集したものです。

お茶を飲む若い女性
※写真はイメージです
便秘薬との付き合い方

便秘薬は使い始めるとやめられなくなるから、できるだけ使わないという人がいます。くせになってしまうから使いたくない、そもそも薬を使いたくないという人も多いです。

それとは逆に、便が出ないとお腹がものすごくつらくなる、あるいは1日でも出ないととにかく不安だからという理由で、際限なく薬を使ってしまう人もいます。

ここでは便秘薬について正しく理解し、どのように向き合うべきかについて考えます。また、便秘に効果があると言われるお茶についても説明します。

知っておきたい2つの作用

便秘薬の作用は大きく二つに分けられます。一つは便を軟らかくすること、もう一つは大腸の動きを刺激することです。

軟らかい便が大腸に流れると、大腸の蠕動運動が活発になります。水分をたくさん摂れば便が軟らかくなりそうですが、実はそれだけでは難しいです。体内で水分が十分に足りていると、余分な水分は尿として排泄されてしまいます。腸の水分を増やして便を軟らかくしようとしても、体の仕組みはそうはなっていないのです。

逆に水分が足りない場合は、便に含まれる水分が腸から吸収され水分不足を補おうとするため便が硬くなっていきます。そのため大腸の動きが悪くなり、便が出にくくなります。

便秘にならないようにするためには水分をたくさん摂るほうが良いのは間違いありません。水分不足で便秘になっている人は水分をたくさん摂ると良くなります。しかし、その他の原因で便秘になっている時は、水分を摂るだけでは便秘は良くなりません。

便秘を良くするために、腸へ水分を連れてきて便を軟らかくすることが必要です。便秘薬の多くは、様々な作用で腸に水分を運んできて便を軟らかくします。

「すっきり」を感じやすい「刺激性下剤」

一方、大腸の動きを刺激して便を出しやすくする薬のことを「刺激性下剤」と呼びます。大腸の動きが悪いと便が軟らかくなっても便が進んでいかないので、薬の力で蠕動運動を刺激して腸を動かすのです。

薬で強制的に刺激するので、蠕動運動が強いとお腹に痛みを感じることもあります。薬による蠕動刺激は、便が溜まっているかは関係ありません。便が溜まっていない場合は、お腹が痛いだけで便が出ないこともあります。

刺激性下剤を使うと便が大腸の中に留まる時間が短くなるため、便の水分が十分に吸収されずに排泄されることがあります。すると、下痢になってしまいます。

便秘の治療は、「すっきりと便が出る」ことがものすごく重要です。刺激性下剤は便を軟らかくするタイプの便秘薬と比べ、「すっきり」を感じやすく快適に便を出せることが多いです。このため、市販の便秘薬の多くには刺激性下剤の成分が入っています。気持ち良く便が出るのは素晴らしいですが、一つ大きな問題があります。それが次に説明する、「耐性」です。

注意したい「耐性」の問題

耐性とは、薬を飲んでいるうちに徐々に効果が薄れてくるため、飲み始めた当初と同じ効果を得るために量を増やさなければならなくなることをいいます。最初は1錠で効いたのに、だんだん効かなくなり2錠、3錠……と増えていきます。刺激性下剤は連用すると耐性がつきます。

ところで刺激性下剤はどのように効くのでしょうか。それは、刺激性下剤に含まれるアントラキノン誘導体と呼ばれる成分が関係します。ダイオウやセンナ、アロエなどに含まれるアントラキノン誘導体が、大腸の腸内細菌によって分解されて、アントラキノンという物質に変わります。

アントラキノンは大腸の粘膜に吸収され、大腸の筋肉の間にある神経に働きかけて蠕動運動を刺激します。この蠕動運動によって便が速やかに肛門へ向かって運ばれ、また大腸の中に留まる時間が短くなるため、軟らかい便が出ることになります。

長期使用で起こる「メラノーシス」
上は正常な状態の大腸。下は長期間刺激性下剤を服用していたため、メラノーシスで真っ黒になった便秘患者の大腸
上は正常な状態の大腸。下は長期間刺激性下剤を服用していたため、メラノーシスで真っ黒になった便秘患者の大腸(写真=本人提供)

刺激性下剤を長期間使っていると、アントラキノンによる神経叢への働きかけが弱くなることから、薬を使っても腸が動きにくくなります。腸管の運動が弱くなり、腸がたるんで伸びたようになります。また、メラノーシスといって大腸の粘膜が黒く変色します。メラノーシスは腸の粘膜が壊死したものが、マクロファージという免疫を担当する細胞に取り込まれた結果生じます。メラノーシスは刺激性下剤を長期間、大量に服用した指標となります。

一時的にメラノーシスになったとしても、刺激性下剤を中止すると回復して、正常の粘膜に戻ります。しかし、長期間、大量に刺激性下剤を服用していると、メラノーシスは不可逆的になると言われています。

便秘外来には市販の刺激性下剤(コーラックやビューラックなど)を毎日60錠も飲まないと便が出ないような人が受診します。少しでも刺激性下剤を減らすように薬を調整して頑張るのですが、なかなか減らすことができません。完全に耐性がついてしまうと、元通りに戻すのは非常に難しいのです。

ですから、耐性がつくような刺激性下剤は極力減らして、どうしても出ない時の頓服として、便刺激性下剤以外の薬を治療の基本とすることが大事です。

「どっさり」「すっきり」「自然な便通」をうたう便秘茶

便秘対策としてお茶を試したことがありますか? 「便秘」「茶」のキーワードでインターネットを検索してみると便秘に効果のあるお茶がいくつも紹介されています。

こういったお茶の広告には「どっさり」「すっきり」「自然な」「するする」「ぺったんこ」などの言葉が並び、スリムな女性のお腹の写真が添えられていたりします。

一見して、お茶を飲むことによって「自然な」便意で、便が「どっさり」「すっきり」出て、お腹が「ぺったんこ」になるとイメージできるようにサイトが作られていますが、販売メーカーは便通の改善を謳っているわけではありません。あくまで消費者である私たちが、「便秘が良くなるお茶なんだ」と感じるように広告サイトを作っているだけなのです。

お茶などのいわゆる健康食品では、便通改善の効能があると謳ってはいけないことが法律で定められています。病気の治療や予防に役立つものは「医薬品」であり、その認可や販売は法律によって厳しく制限されています。以前は薬事法と呼ばれた「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律(略称:医薬品医療機器等法)」によって、健康食品は医薬品と誤認されるような効能効果を表示、広告することができません。

健康食品は医薬品ではありません。このため、便秘茶(「便秘」「茶」で検索して出てくるお茶のことです)を販売するメーカーは、法律に触れない範囲で「当社の製品は便秘に効果があるよ!」とイメージできるような広告を出しているだけで「便秘を治す」とは一言も言っていません。メーカーに直接尋ねても、「便秘が治ります」とは決して言いません。

便秘茶のメリットは簡単に買えて手軽に利用できることでしょう。ドラッグストアでも買えますし、インターネット通販サイトでポチッとクリックするだけであっという間に手に入ります。

「便秘茶」は本当に体に優しいのか?

人工的に作られた薬に比べるとお茶は自然な食品なので、体に良さそうというイメージもあります。薬は続けて飲んでいると副作用が出たり、依存症になったりするかもしれないという不安があるかもしれません。それに比べるとお茶はなんだか安心して飲めそうです。このために抵抗感が少なく、薬は嫌だからお茶を飲んでいるという人が多いのです。

また、普段飲んでいるお茶を便秘茶に変えるだけなので、生活にも大きな影響がありません。味も美味しく作られているので、つらいけど頑張って飲もうというものでもありません。

量の調節も簡単です。便秘茶を濃く煮出すか、薄くするか、その日の調子や気分で自由に調整できます。飲む量は自分で加減できますから、少しだけ飲むことも可能ですし、それこそ普段飲むお茶の代わりにガブガブ飲むこともできます。

これらの理由で、便秘茶は利用する抵抗感がとても低く、「よし、とりあえず試してみよう」「効果がなければ違うことを考えよう」という使い方ができ、とても便利です。すっきり便を出したい、あるいは便を出してお腹をスリムにしたい人と思っている人には敷居が低くて手に取りやすいでしょう。

刺激性下剤が入った便秘茶も

しかし、私は便秘茶の利用は、薬以上に気を付けた方がよいと考えています。なぜなら、多くの便秘茶には刺激性下剤の成分が含まれているからです。そうとは知らずに便秘茶を飲んでいる人が非常に多いのです。

便秘茶のサイトで表示されている、お茶に含まれる原材料を見てください。ごぼう、プーアル、ほうじ茶、麻の実、杜仲の葉、ハブ茶、オレンジピール、クコの実……とても多くのお茶の材料が入っていますね。20種類以上の材料が入っているものもあります。

この原材料の表示でまず注目してもらいたいことは、表示の順番です。原材料表示の順番は「食品表示法」という法律で、最も一般的な名称を用いて、使用した重量の割合の高い順に表示するように定められているのです。

食品表示法のことを踏まえた上で、便秘茶の原材料がどのような順番で並んでいるか確認してみましょう。大体は「ゴールデンキャンドル」や「キャンドルブッシュ」、「カッシアアラタ」が先頭にあります。つまり、これらの成分が一番たくさん含まれています(ゴールデンキャンドル、キャンドルブッシュ、カッシアアラタはすべて同じ成分なので、以下これらをまとめてゴールデンキャンドルとだけ書きます)。

『男の便秘、女の便秘』より
『男の便秘、女の便秘』より
「ゴールデンキャンドル」が入っていないか

便秘茶を飲む時に一番注意しないといけないことは、ゴールデンキャンドル(キャンドルブッシュ、カッシアアラタ)は刺激性下剤の成分だということです。つまり飲み続けると耐性が生じます。

前田孝文『男の便秘、女の便秘』(医薬経済社)
前田孝文『男の便秘、女の便秘』(医薬経済社)

便秘茶のサイトにはゴールデンキャンドルが刺激性下剤の成分であることは一言も触れていません。その代わりに、東南アジアでは昔から美容と健康のために愛用されてきたというような歴史や、「すっきり」「もりもり」など良いイメージの言葉ばかり書かれています。

ゴールデンキャンドルは刺激性下剤の成分「センノシド」を含みます。お茶で飲む場合、どの程度のセンノシドが体の中に入ったか分かりません。このため、気付かない間に大量のセンノシドを摂取している可能性があります。

便秘茶も飲み方に注意を

「便秘薬は怖いから嫌だ、だからお茶の方が良さそう」「気軽に飲めるから」という理由で便秘茶を飲み続けた結果、耐性がついてしまうことがあるのです。耐性がつく前に便秘の治療を始めるのと、ついた後から治療を始めるのでは、治療の難しさに相当の差が生まれます。

便が出にくいときだけ頓用で便秘茶を使用する分には大きな問題は起こりません。刺激性下剤は屯用で利用する限りは効果抜群で、便秘で悩む人の強い味方になります。

しかし、便秘茶は気軽に飲める分、ついついたくさん飲んでしまいがちです。だからこそ、便秘茶はある意味で便秘薬よりも使い方に注意が必要だと考えているのです。

前田 孝文(まえだ・たかふみ)
医師、辻仲病院柏の葉 便秘外来 臓器脱センター医長
2001年3月京都府立医科大学卒業、同大外科入局。07年4月自治医科大学大学院入学、10年4月から9月南カリフォルニア大学大腸外科リサーチフェロー、11年3月自治医大大学院卒業。11年4月自治医大附属さいたま医療センター外科勤務。12年から辻仲病院柏の葉、17年から同病院便秘専門外来を担当。

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