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朝ドラのモデル「松竹新喜劇の源流は演劇」寛美の孫・扇治郎

  • 2020.12.28
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連続テレビ小説『まんぷく』(NHK/2018年下期)に出演し、好きな女性に缶詰を贈りまくる調理師・野呂というユニークなキャラで、一躍知名度を上げた俳優・藤山扇治郎。

祖父の喜劇役者・藤山寛美らが立ち上げた「松竹新喜劇」であっけらかんとした明るさを武器に、笑いと人情にあふれた世界を支えている俳優・藤山扇治郎

祖父の喜劇役者・藤山寛美らが立ち上げた「松竹新喜劇」に2013年に入団し、あっけらかんとした明るさを武器に、笑いと人情にあふれた世界を支えている。

現在放送中の朝ドラ『おちょやん』の主人公のモデルとなった女優・浪花千栄子も在籍した「松竹新喜劇」。2021年の元旦に開幕する『初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演』を前に、新喜劇への彼の熱い胸のうちを訊いた。

取材・文・写真/吉永美和子

「新喜劇って、共感のお芝居なんですよ」(扇治郎)

──今回は、Aプロが座長の渋谷天外さん主演の『二階の奥さん』、Bプロが扇治郎さん主演の『鴨八ネギ次郎』ですが、どちらもあまり重さのない、明るく笑える名作ですね。

新喜劇のレパートリーって、大きく分けると「爆笑」「泣き笑い」「考えさせる」の3つのパターンがあるんです。泣きながら笑うような作品も多いけど、1本しかやらないのなら、お正月にあまり悲しくなる話もね(笑)。コロナが不安なときだからこそ、カラッと笑っていただきたいし、どちらも不安を忘れていただける力のある作品だと思います。

──『鴨八……』は、私生活では仲の悪い男女の漫才師と、子どもたちに隠れてこっそり付き合っていたお互いの親同士の、恋の顛末を描く喜劇です。扇治郎さんは、お祖父さまも演じた漫才師・ネギ次郎役に初めて挑むことになりますが。

仕事はちゃんとやるけど普段は意見が合わへん、って関係は日常でもよくあると思うんですよ。でもこのコンビは、実は心のなかではお互いまんざらでもなくて、相手を気にしてるからこそ言い合いになってるんじゃないかと。その関係を上手く見せると同時に、漫才師らしくポンポンと、テンポよくお芝居ができたらいいなあと思っています。

──ネギ次郎の母親を演じる、ゲストの久本雅美さんは「思い切り(相手役と)イチャイチャしたい」と意気込んでましたが、息子役としてはこの親子関係をどう思われますか?

でも新喜劇って、共感のお芝居なんですよ。ほかの演劇って、現実じゃないところ・・・見得を切るとか空を飛ぶとか、お芝居だからこその世界が面白い、っていうのがあるじゃないですか? でも新喜劇はどちらかというと、日常と芝居が共存している。だから「あ、うちの家もそうやな」とか思えるところが、意外とあるはずなんです。

会見で見つめ合う松竹新喜劇の代表・渋谷天外(右)と藤山扇治郎(12月10日・大阪市内)

──信頼してるから逆にキツいことを言う関係とか、「え、うちの親ってそんな人と付き合ってたの?」とか、割と近いケースは浮かびますね。

そうですよね。登場人物と自分を重ねて感情移入してもらったり、共感していただくことで、お客さまに喜んでもらおう・・・というのが「喜劇」だと思うんです。僕は子どもの頃、新喜劇ってあまり観てなかったんですけど、大人になって・・・まして結婚をすると、身につまされることが結構描かれてるなあと(笑)。その部分でも、やってて難しいけど、やりがいのある世界だと思います。

「松竹新喜劇の源流は演劇」(扇治郎)

──扇治郎さんは新喜劇に入る前に、歌舞伎から地元の小劇場劇団まで、さまざまなスタイルの演劇をこなしてらっしゃいましたが、新喜劇特有の難しさがあるんでしょうか?

まず、笑いって難しいんですよ。人が「悲しい」と思うことって、何年経ってもあまり変わらないと思うんです。誰かが亡くなるとか、つらい目に遭うとか。でも笑いは、時代によって変わっていくものじゃないですか?

──確かにお笑いを観ていても、笑いのスタイルの新陳代謝って、すごく激しいですし。

だから新喜劇の作品も、泣く部分はあまり昔から変わらないけど、笑う部分は変わっていくんです。そこが難しい。でも松竹新喜劇は「泣き笑い」の人情喜劇ですから、笑って共感していただけないと、喜劇にならないんですよ。昭和の時代には笑ってもらえても、今の時代に笑ってもらえるか? 僕の祖父も、多分(1990年に)亡くなる前には、ずっとそれを考えていたと思います。

「笑いは、時代によって変わっていくもの。だから難しい」と藤山扇治郎

──一見新喜劇とは異質な久本さんをゲストに呼んだり、『二階の奥さん』に京都の新鋭演出家・村角太洋(THE ROB CARLTON)さんを抜擢するなど、積極的に外部の血を入れているのは、そのためでしょうか?

そうですね。劇団の外にいる方って、やっぱり劇団員と感じ方が違うはずですから。久本さんと一緒にやると「あ、こういう感じもアリだな」という発見が多くて、それってすごく大事だと思いますね。どんどんこれからもいろんな方に出ていただきたいし、「新喜劇に出たい」って言ってくださる方が増えたら、最高だと思います。

──新喜劇の膨大なレパートリーは、ほとんど昭和時代に作られたものですが、そういう思い切ったコラボを通して、どんどんブラッシュアップされることになりそうですね。

でも新喜劇の脚本で大事なのは、「人と人とが支えあって、助け合って、世のなかを明るくしよう」という、普遍的なテーマが入ってることなんです。人が集団社会を生きていくなかで抱えるいろんな問題や悩みを、新喜劇では見せていく。

あっけらかんとした明るさを武器に、笑いと人情にあふれた松竹新喜劇を支える藤山扇治郎

それに大真面目に取り組む姿が、はたから見たら笑えたりするけども、その解決法みたいなものも、ちゃんと描いてるんです。その根本は、どんな時代になってもずっと変わらないと思います。

──「こんなに面白い、角(かど)の立たない対処法がありますよ」みたいな。それは昭和より人間関係が複雑になっている令和の方が、むしろ求められることかもしれないです。

だからお芝居を観て「あ、うちの家もややこしいけどがんばろう」とか「しんどいけど、明日から会社がんばろう」とか思ってもらえたらすごく嬉しいし、それが役者の大切な仕事やと思うんです。

「目に見えないモノを動かしたり、勇気づけたりするために、僕は芝居をやってる」と藤山扇治郎

夢というか、目に見えないものを売っている・・・人の気持ちって、目に見えないじゃないですか? その目に見えないモノを動かしたり、勇気づけたりするために、僕は芝居をやってるんだと思います。

──同じ新喜劇でも、吉本新喜劇がギャグと俳優自身のキャラで「笑わせる」としたら、松竹新喜劇は俳優が「笑われる」役をしっかり演じて笑いを取る、というイメージがあります。

役者ってやっぱり「役の者に成る」から『役者』なんですよね。大工とか社長とか、僕じゃない役の者に成るというときに「笑わせよう」という方に、神経を使っちゃいけないと思うんです。僕が先輩方や祖父を観て「すごいなあ」と思うのは、自分自身なのか役なのかわからなくなるという域までお芝居をされていて、それによって「笑われて」いるんですよ。

──確かに寛美さんは「死ぬ気でアホを演じてる」という印象がありました。

だから「笑わせよう」という自覚があるうちは、それはまだ「役」ではなく「僕」。よく「役の者を学びなさい」って言われるんですけど、それは一生懸命に役をやっていたら、「笑わせよう」と思わなくても、知らんうちにお客さまは笑ってくださるよ、ということなんです。奥深いけど、根本はそこじゃないかと。役をきちんと学んで、演じることに没頭すれば、それが笑われる、喜ばれることにつながる。やっぱり松竹新喜劇は役者さんが起こした劇団なんで、源流は演劇なんだなあと思います。

「10カ月ぶりに舞台に立てる喜び」(扇治郎)

──客席の入りを半分に抑えるなど、まだまだ新型コロナウイルスの影を強く感じるなかでの公演です。今回特に大事にしたい、お見せしたいと思うモノはありますか?

僕自身はやっぱり、10カ月ぶりに舞台に立てる喜びを、すごく感じています。でも何よりも、何にでも感謝しないといけない、仕事ができるのが当たり前と思っちゃいけないと。先日、(劇団の)若手公演を観たときに本当に実感したんですけど、舞台は役者だけじゃなくて、スタッフや劇場の清掃の方まで、いろんな力に支えられてできてるんだなって。みなさんのおかげで、こんな状況でも舞台に立てるということに感謝しながら、お客さまには少しでも憂鬱を忘れていただけるようにがんばろうと、前以上に思うようになりました。

──今は配信でも舞台が観られるようになりましたが、特に松竹新喜劇のようなコメディは、やっぱり劇場で観たら「あ、全然違う」って思いますよね。

ねえ、やっぱり生ですよね? 配信はこれからの時代、すごく大事だと思いますよ。でも画面のなかじゃなくて、同じ空間に役者とお客さまがいることが、とっても大切なんです。特に新喜劇の場合、稽古場で誰も笑わないから(笑)、本番でお客さんの反応を直に感じないと、わからないことが多いので。

「お客さんの反応を直に感じないと、わからないことが多い」と藤山扇治郎

──コメディの舞台は「あ、ここで笑うんだ!」「ここ思ったよりウケへんなあ」と感じ取って修正することで、完成度がどんどん上がるって言いますしね。

喜劇ってやっぱり「俄(にわか)」だと思うんですよ。そのときと場合によって「何を言ったら面白いかな?」と判断して、台本に書かれてないことをやって、ポッと笑いを生んだりする。だからよく「毎日同じ芝居をするな」と言われるんです。それはやっぱり生の舞台だからできることだし、逆にお客さまにも何かを感じとってもらえるようにしたいですね。それで、「大変な時期だけど、来てよかったな」と思いながら帰っていただけたら、一番嬉しいです。


『初笑い!松竹新喜劇 新春お年玉公演』は、2021年1月1日から7日まで「南座」(京都市東山区)にて上演。チケットは1等席6000円、2等席3000円、3等席2000円で発売中。

『初笑い!松竹新喜劇 新春お年玉公演』

日程:2021年1月1日(祝・金)〜7日(木)
会場:南座(京都市東山区四条大橋東詰)
料金:一等席6000円、二等席3000円、三等席2000円
電話:0570-000-489

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