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万引きGメンが語る「最も印象に残った万引き犯2020」! 「私……ここの従業員なんです」おばちゃんは嗚咽を漏らして

  • 2020.12.27
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万引きGメンが語る「最も印象に残った万引き犯2020」! 「私……ここの従業員なんです」おばちゃんは嗚咽を漏らしての画像1
Getty Imagesより

こんにちは、保安員の澄江です。

今年も、もう終わりですね。1年を振り返れば、新型コロナウイルスとレジ袋有料化に伴う混乱に振り回されて、なにかと疲れる1年でした。万引きの世界においては、レジ袋有料化に伴う現場の混乱に乗じた犯行が急増。コロナ不況の影響もあって、初犯者や内部不正の摘発が目立つようになり、いままで犯罪とは無縁であったであろう方と接する機会が増えました。換金目的の組織的な犯行も多く、事後強盗事案にまで至るケースが増加しているようにも思います。また、家族ぐるみで犯行を繰り返して、万引きで生計を立てているような人たちまで散見され、まるで完全犯罪を狙うかのような悪質な手口に呆れたこともありました。なにかと大声を出して店員を威圧する輩のようなクレーマーも頻出しており、どこに行っても油断できない殺伐とした社会の雰囲気に嫌気の差す思いがします。この国の治安や生活水準は、間違いなく悪化しており、この先の社会情勢が不安でなりません。今回は、今年一番印象に残った事案について、お話ししたいと思います。

当日の現場は、食品スーパーT。東京郊外の緑豊かな街にあるスーパーマーケットです。この日の勤務は、午前10時から。初めての現場であるため、いつもより早く起床して、時間に余裕を持って現場に向かいます。ありがたいことに行きの電車内は空いており、座席でうたた寝をしている間に到着しました。最寄駅から現場までは、田舎の雰囲気が漂う街道を歩きますが、コロナ禍のためか街中に人の姿はなく、現場の客入りが心配になります。店内犯罪の多くは、人混みに紛れて実行されるため、客入りが悪いと捕捉効率が下がるのです。

どことなく昔のKABAちゃんに似た店長さんに挨拶を済ませて店内に入ると、案の定、店内は閑散としていました。さほど広くないお店なので、不審者が一人でもいれば、すぐに気付ける状況ですが、品出しをする従業員さんばかりが目につき、こちらが監視されているような居心地の悪さを感じます。その後も、客足は伸びることなく、特に気になる人を目にすることもないまま、時間ばかりが過ぎていきました。こうした1日は、時の経過が遅く感じられて、とてもつらい気持ちにさせられます。業務終了まで、あと2時間。トイレ休憩を挟みながらも、暗澹たる気持ちで店内の巡回を続けていると『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)に出ておられた「おばちゃん3号」に似た小太りの中年女性が目に止まりました。まるで般若のような怖い顔で、カート上に載せたカゴの中にあるチーズ入りウインナーを掴みながら歩く姿が、とても気になったのです。

(入れた!)

この店一番の死角通路で、手際よくチーズ入りウインナーを自分のバッグに隠したおばちゃん3号は、続けてカゴにあるいくつかのモノも隠すと、精肉売り場に向かって行きました。カゴの中に残るモノを確認すると、白菜やもやし、ほうれんそうといったところで、さらに犯行を続けるとなると、次に手に取る商品を隠すに違いありません。いままでの経験からそう判断して追尾すると、黒毛和牛のシールが貼られた焼肉用スライス肉を2パックとフランクフルトをカゴに入れたおばちゃん3号は、まもなく死角通路に舞い戻って、それらをバッグに隠しました。明確な現認が取れたため、捕捉するべく追尾を続けると、なにやらレジ店員と談笑しながらカゴに残る野菜の精算を済ませて、しきりと後方を振り返りながら店の外に出て行きます。

「あの、実は、私……」万引き犯は私の私の胸倉を掴んだ!

「こんばんは、お店の者です。バッグの中に隠したモノの代金、お支払いいただけますか?」
「…………」
「認めていただけないなら、いますぐ警察を呼ぶことになっちゃうんですけど、それでも大丈夫ですか?」
「ごめんなさい」

しばし沈黙した後、犯行を認めてくれたおばちゃん3号に、事務所への同行を求めます。踵を返す形で、店内にある事務所に向かって歩き始めてまもなく、胸に手を当てたおばちゃん3号が苦しげな様子で足を止めました。おそらくは、捕捉されたことで胸が一杯になり、うまく呼吸ができないのでしょう。逃走する雰囲気はありませんが、念のため腰元に手を置きながら、優しく声をかけます。

「具合悪くなっちゃいましたか? ゆっくり深呼吸して、落ち着きましょう」
「……いえ、そうじゃないんですけど」
「それならよかった。もう少し歩けます?」
「あの、実は、私……」

堪えきれない様子で、嗚咽を漏らし始めたおばちゃん3号が、私の胸倉を掴んですがりつくようにしながら言いました。

「あの、私……、ここの従業員なんです。うわーん」
「ええ!? それは、困ったわね。店長さん、きっと悲しむわよ」
「うわーん。私、なんてことしちゃったんだろう。ごめんなさい、ごめんなさい」
「私じゃなくて、店長さんに謝らないと。目立っちゃうから、あまり大きな声出さないで」

ウソ泣きだったのでしょうか。途端に冷静さを取り戻したおばちゃん3号は、覚悟を決めたかのように同行に応じてくれました。事務所の扉を開くと、店長さんがパートさんの面接をしておられたので待機していると、居心地悪そうに佇むおばちゃん3号の姿を見た店長が異変に気付いて声をかけます。

「どうしたの? 忘れ物?」
「いえ、そうじゃなくて……」

後方にいる私の姿を見つけた途端、なにかを察したように顔を曇らせた店長が、俯いて黙り込むおばちゃん3号の頭越しに言いました。

「まさか、違うよね?」
「すみません。従業員さんとは知らずに、見ちゃったものですから……」
「はあ? ウソでしょ? Sさん、開店から一緒にやってきたのに、そんなことしないでよ」

あとで連絡すると、すぐに面接を切り上げた店長は、事務所入口まで面接者を見送り、おばちゃん3号をパソコンデスクの前に座らせます。早速に、バッグに隠した商品を出すよう促すと、現認した商品のほかに、練り物セットと高級チョコレートも出てきました。計6点、合計で4,000円ほどの被害となりましたが、5,000円ほど持っているというので、商品の買い取りはできそうです。

「初めてじゃないよね?」店長の質問に驚きの答え

「とりあえず会計してくるから、そっちの仕事、先に済ませちゃって」

事務処理を終わらせるべく、身分を確認させていただくと、これしかないとのことで社員証を提示されました。雇用主からすれば、これほど嫌な社員証の使われ方もないだろうと思いつつ話を聞けば、この店のオープンから21年以上にわたって勤務されているそうで、今日で退職することになりそうだと涙ながらに頭を抱えています。立ち上げメンバーは店長と彼女の2人しか残っていないと話しているので、この店では店長に次ぐ立場にある方といえ、今後の展開が気になりました。すると、会計を済ませても、なお、動揺と興奮を隠せないでいる店長が、声を震わせて言います。

「こんなに盗って、初めてじゃないよね? 怒らないから、正直に話してくれる?」
「はい。正直言うと、来るたびにやっていました」
「はあ? 21年、ずっとってこと?」
「はい、すみません。私、きっと病気なんです。うわーん」

泣き伏せるおばちゃん3号を尻目に、ポケットからスマートフォンを取り出した店長は、今後の処理について本部の意向を確認し始めました。彼女にとっては、この上なくシビアな会話の内容に違いありません。人によっては自傷行為などに及ぶこともあるため、なるべく耳に入れないよう、いくつか質問をして気を逸らせます。

「同じことで警察に行ったことはありますか?」
「はい。近所のYとMで、1回ずつ……」
「どうして盗っちゃうのかしらね」
「買うのがもったいないっていうか……。きっと病気なんでしょうね、私」

結局、本部の判断により即時解雇となったおばちゃん3号は、長年勤めてきたことから温情が与えられ、警察を呼ばれることなく処理されました。民事上の賠償請求もしないというので、結果だけをみればヤリ得のような結末です。今回の事実を記した退職届を書き終え、帰宅を許されたおばちゃん3号は、護送車に載せられる被疑者のようにハンドタオルで顔を隠しながら立ち去っていきました。自転車にまたがり、逃げるように走り去る彼女の背中を見届けた店長が、ぼそりとつぶやきます。

「参ったなあ。ただでさえ人手不足なのに、明日から大変だよ」
「そうですよね。本来であれば、内部不正の摘発は本部の許可を得てからするものなんですが、気付かなかったものですから……。余計な面倒をかけて申し訳ありません」
「いえ、長い付き合いだったし、あんな人だとは思っていなかったからショックだけど、仕方ないです。あ、面接の人に連絡して、明日から来てもらうことにしよう」

業務を終えて駅に向かうと、駅前のロータリー脇に設置されたベンチに、一人地面を見つめるおばちゃん3号の姿がありました。気付かれぬよう、早足で改札を通過した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

澄江(すみえ)
万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。

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