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親の介護は“終わらないフジロック”? 感情よりもマネジメント感覚で【ジェーン・スー×太田差惠子】

  • 2020.12.26
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親が倒れ、介護が必要になる日のことを考えると、金銭的にも精神的にも漠然とした不安に襲われる方は多いのでは。今まさに父親の介護への一歩を踏み出したというコラムニストのジェーン・スーさんと、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんに、「介護の不安との向き合い方」をテーマに対談していただきました。

年齢を重ねて、以前のように動き回れなくなってきた親の姿を見ていて、介護をする日もそう遠くないのだろうな……と漠然とした不安にさいなまれている方は多いのではないでしょうか。その世代の親を持つDRESS会員の方にとって、親の介護は金銭的にも精神的にも大きな心配事のはず。

では、いつか訪れるであろうこの課題をどう乗り越えていけばいいのか。今まさに父親の介護に足を踏み入れたというコラムニストのジェーン・スーさんと、介護の現場を多く取材してきた介護・暮らしジャーナリストである太田差惠子さんに、お話を伺いました。

■介護は「終わらないフジロック」

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ジェーン・スーさん

——ジェーン・スーさんは現在、「老人以上、介護未満」のお父様のケアの真っ最中なのだとか。詳しくお聞かせいただけますか?

ジェーン・スーさん(以下、スー):うちの父は現在82歳で、独居老人なんです。これまでは世話をしてくれる人がいたんですが、今年になっていろいろな事情からひとりである程度やっていかなくてはならないという事態に直面しました。さあどうしようということで、今組み立てを行っている真っ最中です。

太田差惠子さん(以下、太田):どんなことをされているんですか?

スー:父は昭和の性役割が決められていた時代を生きてきたので、栄養を考えて3食食事を作ることはできません。簡単な片付けはできても、不用品を捨てるなどの大規模な掃除もできなかったんです。なのでまずは清掃業者を入れて、生活導線の引き直しを行いました。そのあとは5社くらい家事代行サービスのトライアルをやって、相性がよかったところに週1回は来てもらっています。

今いちばん試行錯誤しているのが食事ですね。冷蔵庫のなかに入っているものをポストイットに書き出して冷蔵庫の扉に貼ったり、なかなか水分を取ってくれないので、フリーズドライのお味噌汁やスープを自宅に送ったりしています。

最初のころは、父に栄養素にまつわる勉強会もしたんですよ。「炭水化物と脂質とたんぱく質というものがあって、それぞれの役割がこうで」ってしつこく説明したんです。「くらくらするのは低血糖になってるせい。糖質が足りないからだ」とか。そうしたらだいぶ覚えてくれましたね。今は家政婦の方にほうれん草のおひたしやブロッコリーのゆでたものを作り置きしてもらったりして、そんなにバランスの悪い食事はしてないと思います。

太田:ものすごく親想いでいらっしゃるんですね。

スー:どうなんですかね。むしろ自分は問題解決が好きでやっているんだってことに気づきました(笑)。やっぱり父親がどんどん老いて、できることが減っていく姿を見るのは辛いじゃないですか。そんな彼が薄切り肉や目玉焼きを自分で焼いて食べるようになったのを見ると、それだけでちょっと楽しくなってくるというか。最初のほうは「ほんとにこれどうしたらいいんだろう」と思ってたんですけど、今はだいぶスキームを作って楽しめるようになってきています。

今の父は要支援1(※1)くらいなんですよ。だから要介護になるまでの期間をどれだけ引っ張れるかっていうのが、うちの一番のテーマです。

太田:介護を「問題解決」としてビジネス的に捉えられているのはさすがだなと思いました。40代は子育てに追われたり、経済的な不安もあったりするので、目の前の生活に精一杯になってしまいやすいんです。私は、介護は“マネジメント”だと捉えています。今ジェーン・スーさんが行っている介護の形も、ひとつのマネジメントだと思うんですよ。

スー:おっしゃるとおりマネジメントです。うちでは「終わらないフジロック」って言ってます(笑)。

太田:終わらないフジロック!

スー:「トリのアーティストが来日してめちゃくちゃワガママ言うし、昨日と今日で口にする内容も違うけど、とにかくステージさえバッチリやってくれればそれでいい! ミック・ジャガーさすが!」って気分でやってます(笑)。

父親にも、最初に「ただ世話をされるんじゃなくて、自分が1日でも長く健康的で文化的な生活を送るためのプロジェクトメンバーだと思ってくれ」って話をしています。「このフリーズドライもただ食べるだけじゃなくて、全部試してレポートするのがあなたの仕事だから!」って。そうしたら拗ねなくなりましたね。

太田:素晴らしいです。親の介護問題って“感情”で考えてしまうケースが多いのですが、それだけになるとしんどいんですよ。たとえば、「親の介護より自分の仕事を優先する自分ってなんなんだろう」と罪悪感を覚えてしまい、実際に仕事を辞めてしまう人もいます。そこは割り切りも必要です。

スー:私は23歳のときに両親がふたり一度に倒れて介護休職をしているのですが、そのときの経験から「感情で介護をやるのは絶対無理」ということを知っていたんですよね。どんなに親への気持ちがあったとしても、身体や精神がそこに追いつかないということは当然あります。

そのためにも、テクノロジーやサービスにどれだけ頼れるかというのは大事なところ。うちの場合は、LINEも覚えてもらって、毎食何を食べたかを写真で送ってもらうようにしています。おかげでコロナ禍で頻繁に訪問できなくても、比較的マネジメントは続けることができていますね。

太田:LINEは助かりますよね。ビデオ通話だってできるし、既読ってつくだけでも安心する。

スー:そう、生きてるんだってわかるんですよ!

太田:「うちの親にはLINEなんてできないに違いない」と思い込んでいる40〜50代の方も多いんですが、手取り足取り教えたら使えるようになったという話もよく聞いています。ただ、ITが本当に無理という人も一定数いるので、向き不向きはあるのですが……。

スー:お孫さんがいる人とかは、孫の写真で釣れないかな。

太田:やってらっしゃる方もいますね。あとは毎朝LINEビデオで朝ごはんを一緒に食べてるご家族も。LINEにはいろんな可能性があります。

スー:食べた写真を送ってもらうだけでも、何の栄養が足りないかわかって指示できるので便利です。「ミカンも食べろ!」とか(笑)。

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お父様からジェーン・スーさんへの実際のLINE

■親の介護費用は、親のお金でまかなっていい

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太田差惠子さん

——親の介護には、金銭的な不安も付きまといます。何か対処法はあるのでしょうか。

太田:私は基本的に、親の介護費用は親のお金でまかなうべきだと考えています。

スー:今の高齢者は年金たくさんもらってますしね。

太田:そうなんです。介護保険や医療保険もいまの高齢者には手厚いです。だから私はいつも「親の介護に自分のお金は出すな」と伝えています。そのためにもまず、親がどれだけの資産を持っているのか、どんな保険に入っているのかなどを洗い出すことから始める必要があります。

それに、介護保険が使えない・介護認定が受けられないなどの場合でも使えるサービスはあるんですよ。私の知り合いにも、介護認定が受けられるレベルじゃないくらいピンピンしているひとり暮らしの方がいるんです。それでも週に1回、ヘルパーとデイサービス(通所介護)を利用しています。自治体サービスを活用しているから、1割負担で済むんです。

だからお金にゆとりがないことがわかったり、親自身介護のためにお金を使ってくれないというのであれば、行政サービスを頼ってみてほしいですね。

スー:うちももう少ししたら地域包括支援センター(※2)に行かなきゃと思ってるんですけど、たぶんうちの父は集団行動のあるデイサービスは苦手なんですよ。間違いなくトラブルを起こして帰ってくるのが目に見えてるので、もうちょっと必要になってきた場合に行こうかなと。親の性格を考慮することもありますよね。

太田:とくに男性は馴染めないという話はよく耳にします。ただ、デイサービスにもいろいろありますから。ジム感覚で行く人もいるし、広いお風呂に入ることだけを楽しみに行っている人もいるし、デイサービスはダメでもヘルパーさんだったら受け入れる人もいます。地域包括支援センターでスタッフさんに相談してみると、意外とその人に合うサービスやケアの方法が見つかるかもしれません。

でも、やっぱりほとんどの人が最初は「サービスなんか使わない」って言うんですね。第一のハードルはそこで、みんな試行錯誤しています。とくに残念なことに「娘が言っても耳を貸さない親」っていうのが非常に多くて……。献身的に動いている娘さんの言うことは聞かないのに、ほとんどやらない長男が言うと耳を貸すとか。

スー:私の友だちもそれで揉めていました。

太田:腹が立ちますよね。それで女性が怒るケースはとても多いです。だからこそ、そんな親の介護をしなければいけないときには、マネジメントとして捉えることが有効だと思うんです。あくまでこれはマネジメントで、親のこともやっかいなクライアントとして見る。自分の代わりにお医者さんから言ってもらったり、ヘルパーさんではなく最初は訪問看護師さんを使うと成功する確率が上がるという話もあります。

親のために子どもはそこまで考えなければいけないのかと思うと頭がくらくらしますが、マネジメント体制を整えるためには仕方ないんですよね。そこを頑張らないと。

介護って、延々続くんですよ。自分が40代のころは子育や仕事と介護の両立が課題になりますけど、そのうち定年退職して、自分の老後と親の老後の両立になっていくわけです。親が100歳になったとき自分はいくつになるかなって考えると、背中がぞくぞくしてきます。

スー:このあいだラジオのゲストで俳優の大村崑さんに来ていただいたんですけど、89歳でムキムキなんですよ。86歳くらいからライザップを始めて、今では30キロのバーベルをしょってスクワットができるんです。

太田:はー、すごい!

スー:そのとき、初めてリアリティをもって「人生100年」っていうのが見えました。この人だったら楽しく100歳まで生きられるんだろうなって。すぐに父親に連絡すると「俺もジムに行く」と言い出して(笑)。大村崑さんは父と私の目指すメンターですね。

■介護は情報戦。私たちの集合知は強い!

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——最後に、これから自分が経験する(かもしれない)親の介護に不安を感じているDRESS会員さんに向けて、おふたりから伝えたいことがありましたらお聞かせください。

太田:私は介護は情報戦だと思ってます。親を支えるプロジェクトなんだと捉えて、マネジメント体制さえ整えればなんとかなるんですよ。お金の負担を軽減する制度だってあるし、地域包括支援センターに相談したら適切なアドバイスをしてくれます。仕事を辞めたり、自分を犠牲にしないでください。なんとかなりますから!

スー:情報戦ということでいうと、女性は強いと思いますよ。友だちの親が特別養護老人ホームに入所するとき「着るものすべてに名前を書かなきゃいけない!」と慌てていたら、子どもが2人いる他の友だちが「お名前ペンはこれが一番いいよ!」とすぐ勧めてくれたり。

太田:素晴らしいですね。

スー:得意分野が違う女性たちが集まるとけっこうな集合知になるので、よく「我々強いな!」って話をしてます。SNSで介護アカウント作って愚痴を言ったり、情報を共有するのもいい方法だと思います。

※1……要介護認定の中ではもっとも軽く、自立に近い状態
※2……介護保険法に基づいて自治体などが設置している、高齢者の暮らしをサポートする機関

取材・Text/いつか床子

出演者プロフィール

ジェーン・スー
コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~木11:00~)のMCを勤める。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。最新作に『女のお悩み動物園』(小学館)。現在「マイ・フェア・ダディ!介護未満の父に娘ができること」連載中(新潮社)。

太田差惠子
介護・暮らしジャーナリスト。1993年頃より老親介護の現場を取材。FPの資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。遠距離介護を支援する「NPO法人パオッコ」理事長。著書に『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)など多数。

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