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“自分に都合よい情報”だけを信じる心理、日常生活にどう影響する?

  • 2020.12.23
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トランプ米大統領(2020年6月、AFP=時事)
トランプ米大統領(2020年6月、AFP=時事)

11月の米大統領選では、トランプ、バイデン両候補の支持者の一部がそれぞれにとって都合のよい情報だけを信じて主張し、激しく対立しました。彼らに限らず、「自分にとって都合のよい情報を選んで、それだけを信じようとする」という傾向は多かれ少なかれ、全ての人の心に潜んでいるのではないのでしょうか。ネットの世界では、好きな情報、都合のよい情報だけを閲覧できる環境が整っています。

自分にとって都合のよい情報を選んで、それだけを信じたいという思いが強まると、日常生活にどのような影響があるのでしょうか。心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞きました。

物事にハマりやすい人は強く

Q.人は自分にとって都合のよい情報を選んで、それだけを信じたい傾向があるようですが、この心理は何と呼ばれているのでしょうか。

小日向さん「『確証バイアス』と呼ばれています。確証バイアスは人間がもともと持っている心理ですが、近年はネットの検索サイトがユーザーの属性(男女別、年代、居住地など)から、『ユーザーが見たいであろう情報』を上位で表示したり、『ユーザーの見たくない情報を遮断する機能』を提供したりするようになっており、見たい情報だけが集まる状態になりやすく、確証バイアスはさらに働きやすくなっていると考えられます。

こうした背景を考えると、興味を持った事象や人物をネットで深掘りしていくことが好きで、物事にハマりやすいタイプの人は確証バイアスが強くなりがちだといえるでしょう」

Q.自分にとって都合のよい情報を選んで、それだけを信じたい思いが強まると、日常生活にどのような影響があるのでしょうか。

小日向さん「バイアスとは『偏り』を意味しますが、日常生活における確証バイアスの影響は『傾倒する』ことだと考えると分かりやすいかもしれません。例えば、(1)ある人のファンになると、その人の発信するSNSや好意的な情報だけを信じるようになる(2)ある思想に傾倒すれば、同じ思想を持つ人の情報だけを信じる(3)ある情報サイトでの予測が当たると、そのサイトで発信される情報ばかり信じるようになる――などです。

これは、傾倒していく本人にとっては高揚感や安心感、帰属意識の醸成など心地よい感情を持てるため、日常生活が楽しくなる要素が強いです。しかし、反対意見に激しくかみつく、仲間同士での過剰な結束など、周囲の人から好意的に受け止められない場面も出てきます。さらに、傾倒したことによって、反社会的な行為や道徳に反する行為につながってしまうと、最終的には、本人も大きな後悔を感じる事態になる可能性があります」

Q.今は「都合のよい情報を選んで信じる」ことをしていない人が知らないうちに、そうした心理状態になる可能性はありますか。ある場合、どのようなことをしていると、そうした心理が強まりやすいのでしょうか。

小日向さん「可能性はあると思います。例えば、今まで安定した職を得ていた人が急に失業したときです。そうした場合、ほとんどの人は将来の不安を払拭(ふっしょく)しようと、ネットでキーワード検索をするのではないでしょうか。

そうした際は、これまで意識して中立を心掛けてきた人でも『自分が安心できる情報』ばかりを探すようになってしまいます。つまり、それが意図したものであってもなくても、精神的に『足元がぐらつく』という不安な状態になってしまうことが確証バイアスを強める要因になるのではないでしょうか」

Q.ネット上には、自分の都合のよい情報だけを信じて、異なる意見を全否定するコメントも見られます。こうしたコメントを投稿する人は普通のバランス感覚の取れた社会人であることも多いようですが、ネット上と日常生活とで心理を使い分けることができるのでしょうか。

小日向さん「一人の人間が異なる顔を使い分けすることで、心のバランスを取っていることは珍しいことではありません。むしろ、『バランス感覚のある社会人』ほど異なる顔を使い分けている可能性があります。なぜなら、有能な人は自分の主義や価値観に確固たるものを持っている傾向が強いのですが、実際の社会に迎合して、バランスよく生きていくためには自分を抑える場面の方が多いのも事実だからです。

そのため、もちろん、自分が信じる情報を世間に浸透させたいがために他の人の反対意見をつぶしている人もいると思いますが、実はそれほどその情報に固執していない人もいると思います。そうした人は社会生活で抑圧されたストレスを発散させることがメインで、そのために、異なる意見に対して過激なまでに反論しているのではないかと思います」

Q.「自分にとって都合のよい情報を選んで、それだけを信じる」ことがないようにするには、どのようにすればよいでしょうか。

小日向さん「まず、すでに多くの人が感じていると思いますが、ネットで自動表示される情報はすでに選別された情報であるという事実を忘れないようにすることです。そして、日常生活が都合のよい情報によって振り回されていないかを時々点検することも重要です。具体的には、自分が満足する情報を得られるまでネットサーフィンをやめられなくなる、書き込みに夢中になるなどにより、睡眠や食事、仕事、入浴といった日常生活が大きく乱れていたら要注意です」

Q.自分に都合のよい情報だけを信じる人は今後も増えていきそうでしょうか。理由も含めて教えてください。

小日向さん「現代はネットの検索機能によって、個人が自由に情報を取捨選択できるようになりました。また、先述したように、検索サイトも個人に与える情報を操作しています。

実際、心理学のカウンセリングの場でも、本人に都合が悪いアドバイスになると『でも、ネットではこのように書いてあります!』とネットの情報を盾にして、自分に都合がよい言葉を引き出したい心理が垣間見える場面が増えたと感じています。ネット社会が衰退する可能性は低いと思いますので、やはり、今後もこうした人は増えていくのではないでしょうか」

オトナンサー編集部

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