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転職時の健康保険の手続きで大失敗!その落とし穴とは

  • 2020.12.17
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会社で健康保険に加入している人は、退職時に健康保険証を会社に返さなければなりません。そして転職先が決まるまでは、国民健康保険に加入する、現在の健康保険を継続するなどの手続きが必要です。しかし、病気にかかる前に転職できるだろうと手続きを怠る人も…。

今回は、転職時に健康保険の手続きをしなかったためにとても面倒な手続きに追われた、筆者の知人Aさんの失敗談をご紹介します。

健康保険の仕組みを知らなかったAさん

Aさんは大学卒業後すぐに仕事が決まり、会社に所属しました。健康保険の仕組みについて教えられたことも学んだこともなく、親や会社から与えられた健康保険証を何も考えずに使っていました。そう、会社を辞めるときに健康保険の手続きが必要なことなど、知る由もなかったのです。

健康保険には種類がある

健康保険とは、病気やケガにより病院で診察・治療を受ける際に使用できる、公的な医療保険制度です。被保険者が納める保険料と、国税や事業主が支払う費用などを組み合わせることで、診療費の負担を軽減してくれます。日本では国民皆保険制度と言われており、日本に住むならば基本的に健康保険への加入は義務となっています。

そしてこの健康保険は、大きく分けて3種類あります。一般的に自営業などの人が加入する「国民健康保険」、会社員など組織に雇用される人が加入する「被用者保険」、原則75歳以上の人が加入できる「後期高齢者医療制度」です。Aさんは会社員であるため、会社の保険組合で被用者保険に加入していました。

Aさんは転職するため会社を辞めることにした

就職して3年、Aさんは今の仕事に行き詰まりを感じ、別の道を歩もうと考えます。転職を希望し会社に退職を願い出ると、会社側から提示されたのは退職に伴う多くの実務でした。

身分証明書や制服の返却、離職票の受領、年金や税金のやりとり…自分の仕事をこなしながら退職の手続きや引継ぎを行うAさんは、想像以上に煩雑な作業に追われ、退職までの日々はあっという間に過ぎていきます。

健康保険証の返還

Aさんは会社で健康保険に加入していたため、退職実務のひとつに健康保険証の返還がありました。退職後の保険加入について会社から尋ねられましたが、仕事や引継ぎに追われていたAさんは真剣に考えていませんでした。

「転職先もすぐに決まるだろうから、保険については次の会社の指示に従えばいいか…」と安易に考え、会社側の健康保険についての説明をきちんと聞かなかったAさん。このときのことを大いに悔やむトラブルが起こるなんて、このときは知るまでもありませんでした。

会社を退職後に体調不良となり病院へ

Aさんは仕事の引継ぎが終了し、勤めていた会社を円満に退職。ところが、転職に向けて動き出そうとした矢先、Aさんは体調を崩してしまったのです。このとき、会社側の説明を真剣に聞かなかった健康保険の手続きは、まだ行っていません。

病院に行きたいけど保険証がない!

Aさんが退職したのは12月。インフルエンザウイルスが猛威を振るうシーズンに、Aさんは頭痛や高熱に襲われました。普段あまり病気にかからないAさんは、あまりの症状に驚き、必死の思いで病院へ行きました。

無事病院にたどり着いたところで、窓口で求められたのは健康保険証の提示。いつものように財布の中を確認すると、健康保険証が見当たりません。それもそのはず。退職時に健康保険証を返還した後、新たな健康保険の手続きをしていなかったのです。

転職時には健康保険の取り扱いに注意!

退職して保険証を返還すると、健康保険に未加入の状態になります。健康保険による診察料の補助を受けるには、先に説明した3つのうち、必ずどれかの健康保険に入っておかなければなりません。

選択肢のひとつは、退職前に入っていた健康保険の「任意継続被保険者」となること。任意継続を希望すると、会社で加入していた健康保険の被保険者である資格を退職などで失っても、条件を満たすことで一定期間、健康保険に継続加入できます。

他にあるのは、国民健康保険に加入する、もしくは、親族が加入している被用者保険の扶養に入るという選択。しかし、どの形をとるにしても手続きが必要で、新しい健康保険証を取得するまでには時間がかかります。

保険に加入していないと診療代は全額負担…!

健康保険証を持っていないAさんは、「健康保険証がない場合、本日の診療代は全額負担となりますがよろしいですか?」と病院側から告げられました。

今までは健康保険に加入していたため、病院窓口での自己負担額は3割です。「3割でなかったら治療にはいくらかかるのか、持っているお金で足りるのか…」などの不安が募りましたが、あまりの体調不良に断ることはできませんでした。

ひとまず診療してもらえたが高額請求

診察の結果、Aさんはインフルエンザであることが判明。問診後、点滴を行いインフルエンザ治療薬の説明を受けました。待合室で待っていると名前を呼ばれたため、会計窓口へ向かい、支払金額を確認してビックリ!なんと数万円の請求が提示されたのです。

診察代を全額負担することは理解していましたが、健康保険の補助がないと数万円の出費になるとは考えていませんでした。もちろん、財布の中にある金額だけでは足りません。Aさんは家族に電話をして、お金を持ってきてもらうことになったのです。

当月中に健康保険証を持参できれば差額返金

なんとか病院での支払いを済ませると、病院側から「当月中に健康保険証の持参があれば3割の差額を返金します」と言われたAさん。インフルエンザの完治後、急いで健康保険の手続きを行いました。

75歳未満であるAさんの選択肢は、国民健康保険への加入、被用者保険の継続、家族の被用者保険に扶養として入ることの3つです。退職時に被用者保険を継続する手続きをしなかったAさんが、前職の健康保険を任意で継続したい場合は、退職した会社に再度詳細を確認しなければなりません。また、国民健康保険に加入するなら自分で役所や出張所に出向く必要があります。

転職先が決まるまでの期間、どの保険に入るか悩んだAさん。手続きが少なくて済みそうだからと、最後の選択肢である家族の被用者保険の扶養に入ることを選びました。しかしAさんの手続きには、まだまだ困難が続きます…。

被用者保険の落とし穴!健康保険証がすぐに届かない

家族に被保険者保険の扶養手続きをしてもらったAさんは、当月中には保険証が届くだろうと簡単に考えていました。ところが、家族が会社から受け取ったのは保険証ではなく「健康保険被保険者資格証明書」なるもの。Aさんの家族が手続きを行ったのですが、保険証発行までに時間を有したため、会社側が保険証が届くまでの代わりの証明書を発行してくれたのです。

会社発行の証明書は保険証の代わりにならない

会社から、「この資格証明書があれば差額を返金してもらえるはず」と言われたため、病院に持参するようにと家族に言われたAさん。インフルエンザを治療した病院へ資格証明書を持っていくと、受付で対応したスタッフが困惑気味です。「証明書を調べたいので少しお時間をいただけますか」と言われ、待合室で待つことになりました。

すぐに差額を返金してもらえるだろうと待っていたAさんに、予想外の展開が起こります。病院スタッフが告げたのは、「全国健康保険協会が発行した資格証明書でなければ、健康保険証の代わりとして使用できない」という説明です。

健康保険証や資格証明書は政府の管轄(かんかつ)

健康保険証は、市町村や全国健康保険協会などの政府が中心に運営する組合が発行しており、資格証明書も発行者が保険証と同じでなければ意味を成しません。Aさんが持参した証明書は全国健康保険協会ではなく会社が発行したものだったため、「正確性に欠けるため差額返金できません」と病院側から告げられます。

病院側が全国健康保険協会に確認したところ、資格証明書の発行事例が少ない会社は知識がなく、全国健康保険協会の許可なしに作成してしまう場合があるそうで、Aさんの親族の会社は、残念ながらそれに該当した様子。

手続きが簡単だからと、家族の扶養になることを選んだAさん。結局、健康保険証は診察を受けた当月中には取得できず、病院からの返金はすぐに受け取れませんでした。その後、保険証ができてから自分で健康保険療養費の支給を全国健康保険協会に申請し、差額の返金という形になったそうですが、手間も時間もかかり散々だったと話してくれました。

健康保険は宙ぶらりんNG!退職前にきちんと準備をしておこう

会社を辞めた次の日から新しい勤務先で働けて、健康保険の手続きを速やかに行ってもらえるなら、自分で手続きをしなくても良いでしょう。しかし、転職活動などで保険に空白の期間ができてしまうのなら、手続きは必ず自分で行う必要があります。

いつ病気にかかるかは誰にも分かりません。一時的とはいえ、Aさんのような高額出費をしなくていいように、退職前から準備をして、きちんと健康保険の手続きを行いましょう。

文:amatsushi
監修者:ファイナンシャルプランナー歴3年 千見寺 拓実

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