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「運転手さん、手伝って」 新宿で乗せた長身美人が見せた、華麗なるヘビ退治の一幕【連載】東京タクシー雑記録(3)

  • 2020.12.4
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タクシーの車内で乗客がつぶやく問わず語りは、まさに喜怒哀楽の人間模様。フリーライター、タクシー運転手の顔を持つ橋本英男さんが、乗客から聞いた奇妙きてれつな話の数々を紹介します。

ヘビだ! 思わず切った急ブレーキ

フリーライターをやりながら東京でタクシーのハンドルを握り、はや幾年。小さな空間で語られる乗客たちの問わず語りは、時に聞き手の想像を絶します。自慢話に嘆き節、ぼやき節、過去の告白、ささやかな幸せまで、まさに喜怒哀楽の人間模様。

さまざまな客を乗せて走る東京のタクシーのイメージ(画像:写真AC)

今日はどんな舞台が待っているのか。運転席に乗り込み、さあ、発車オーライ。

※ ※ ※

杉並区の永福町、井の頭通りを走っていると前方の路面にヘビのような物体を発見。

慌てて左にハンドルを切り急ブレーキ! オー危ない。……よく見ると、長いゴムひもの切れ端。

「東京にヘビなんているわけないか」

後ろの女性客がすかさず、

「運転手さん、それが都内にもいるのよ、子供が通う杉並の学校グラウンドに、いたいた」

「へぇー」

「少年野球公式戦のとき、でっかいヘビがグラウンドの真ん中あたりにいて、それで監督や父兄は驚いてビクビク。そこに若い奥さんがツカツカと行って、ヘビを手づかみすると、草むらの所に持って行って、ポイと投げたの」

ふと思い浮かんだクレオパトラの映画

「私たち、それ見て2度ビックリ。しかもその奥さん、瞳のきれいなすごい美人だったの」

「へぇー、信じられない」

「あんなキレイな人が平気でヘビをつかんだのには、目が点になったわよ」

「そうですね」

「都内にヘビが出るのは、川が多いからね。それで入って来るんじゃない。カエルはよく見るけど」

私は青梅街道をハンドル回しながら、ふとクレオパトラが毒ヘビにつかまれる映画を思い出していました。

美女とヘビの親和性が高い気がするのは、クレオパトラ伝説の影響か?(画像:イラストAC)

その女性客は新宿副都心の三井ビルで下車。するとすぐに若い女性が乗り込んでくる。長身の美人。

「少し遠いけど東品川。山手通りから少し南に入ったあたり」

「はい、あの辺は詳しいですよ」

「それは良かった」

近くまで走り、指示されて寄木神社(品川区東品川)の小路を入ったその時です。

10歳くらいの少女が自転車から降り、左手で口を押さえ、右手である物を指差しているのが見えました。

女性は両手でヘビの頭をつかんで

何をしているのかなぁーと、何とはなしにその先を見ると、

「ヘビだーーー!」

しかも大きい! 民家の軒下で長くなっていて動かない。

ペットで飼われて逃げ出したのか、目がクリッとしてかわいい。さっきヘビの話をしていて、ま、さ、か……!

すると客の女性がバッと降り、ヘビに向ってスタスタ歩いて行くではないですか。ヘビが女性に驚き、ニョロニョロする。

「えい!」

信じられない。女性はやっぱり両手で頭をつかんだ。 1m80cmはあろうか、でかいヘビだあー。しかもホラー映画のように腕にしっかりと巻き付き、

「運転手さん、手伝って」

「え、俺何すればいいんですか?」

「袋、ビニール袋」

でも袋がない。するとさっきの少女がどっかから持ってきたのか、袋を私に渡してくれる。ちょうど入りそうなサイズ。それをへっぴり腰で女性に渡すと、

「少し小さいけど、まあいいか」

110番で駆け付けた警察官も驚き

でも、暴れるからやっぱり入らない。私は覚悟を決めて座席シートを外して渡す。女性は手際よくヘビをそのシートで包んだ。

まさかヘビの話をした直後に、この東京で本物のヘビを捕まえることになるとは(画像:写真AC)

がっちり縛って、へぇぇ、よく咬(か)まれないもんだ。旧・東海道の大捕物も成功。後は110番するしかない。

すぐサイレンの音。ヘビをパトカーのお巡りさんに渡すと、「うぇぇ、どうしたらいいんだ、これ」……。

このときばかりは、女性の方がよほど頼もしく見えたのでした。

※ ※ ※

皆さんは東京で巨大なヘビに出くわしたことがありますか? ましてやヘビにまつわる雑談をしていた直後なんて。

少なくとも私は、長いタクシー人生でこのときただ一度きりです。

橋本英男(フリーライター、タクシー運転手)

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