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サウナブームで再注目? 東京に「日帰り温泉施設」が急増したワケ

  • 2020.12.2
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東京都には多くの温泉施設があり、利用者でにぎわっています。そのような流れはいつ頃から始まったのでしょうか。フリーライターの本間めい子さんが解説します。

都内の温泉利用施設、4割以上が23区内に

東京にはたくさんの温泉があることをご存じでしょうか。特に東京都の区部南部にある大田区は温泉銭湯も多く存在します。

温泉のイメージ(画像:写真AC)

それだけでなく、面積あたりの温泉公衆浴場の数がもっとも多いのも東京23区です。2012年のデータによると、全国で温泉公衆浴場は125カ所。このうち64カ所が東京23区にあるといいます(『東京新聞』2013年9月4日付朝刊)。

また、都内の温泉利用施設は257カ所(2013年時点)で、このうち23区には114カ所(44%)、多摩地域には103カ所(40%)、島しょ部には40カ所(16%)があります。

京浜工業地帯の発展と温泉の普及

東京で温泉開発が進められたのは、京浜工業地帯の発展と時期を同じくしています。

東京の臨海部で温泉が出ることは江戸末期にすでに知られていましたが、開発は進んでいませんでした。その理由は東京の温泉が自噴しておらず、穴を深く掘る必要があったためです。

しかし、京浜工業地帯が開発され工場が立ち並ぶようになると、用水を確保するために地下水の活用が進められます。こうして掘られた井戸のなかから温泉が掘り当てられることもあり、利用が活発になったのです(『産経新聞』2014年8月17日付朝刊)。

京浜工業地帯(画像:写真AC)

特に都心の温泉は地下深くから伝わる熱で地下水が温められており、いずれも非火山性の温泉。この熱による地温の上昇率は100m深くなるごとに平均3度とされているため、1000m掘れば、地表温度が20度とすると50度になる計算です。

ちなみに温泉開発がなかった時代は、100mから300m程度まで掘って出るぬるいお湯を加熱して使っていたことから、現在でも温泉銭湯の多くはお湯を沸かしています。

温泉は、貴重な温泉の保護や開発の許可、成分表示などを示した法律「温泉法」で明確に定義されています。法律の第2条では、泉源の水温が25度以上であること、19種類の含有成分とその量を規定しています。

大田区を中心する温泉銭湯の水温は25度に至っていません。そのため温泉ではなく鉱泉という扱いになりそうなのですが、含有成分の点から温泉となっています。

1990年代後半から始まった温泉施設ブーム

温泉銭湯が主流だった都内で温泉掘削ブームが始まり、日帰り温泉施設が急増したのは1990年代後半のことです。

この頃になると掘削技術が進歩したことで、年単位だった地下1000mまでの掘削工事が数か月でできるようになりました。費用も「1000m掘って1億円」と、温泉施設を建てれば十分に採算に合う値段まで下がりました(その後、費用はどんどん下がることに)。

こうして掘り当てられたのは、従来の温泉銭湯とは違う、本物の温泉です。前述のように掘削が深くなればなるほど地下水は地熱で温められるため、掘るだけで25度以上の温泉が出るように。

日帰り温泉施設のイメージ(画像:写真AC)

バブル景気崩壊後の景気低迷のなか、利用者の自宅から近くて安い日帰り温泉施設は人気となり、都内ではあちこちで温泉の掘削が行われました。

この流れは都内はもとより首都圏一帯に広がり、独自の温泉を持つフィットネスクラブや、温泉付きの分譲マンションまでも販売されるように。ついには、温泉付きのパチンコ店まで登場したのです(『東京新聞』2000年1月24日付朝刊)。

ブームを支える安全技術の向上

しかし、いいことばかりではありません。

南関東の地下には千葉県を中心として「南関東ガス田」と呼ばれる天然ガス田が広がっているため、このガスが溶け込んだ地下水を掘り当てれば、天然ガスが地上に噴出することになります。

経済産業省関東東北産業保安監督部の「平成における可燃性天然ガスが原因と考えられる主な爆発・火災等事故事例」には、天然ガスが原因となった全国各地の事故例が掲載されています。これを見ると、天然ガスに引火して発生する事故は頻繁に起こっていることがわかります。

2007(平成19)年に渋谷区の温泉施設で起こった事故以外にも事故は度々起きています。2005年には北区で噴き出したガスがさらに水を噴き上げて照明を壊し、引火。鎮火するまで約15mの火柱が立つ事故となりました。

日帰り温泉施設の館内着(画像:写真AC)

近年では引火の防止技術や法整備も進み、事故も減っています。都心で温泉を楽しめる背後には、このような安全技術の向上があることを忘れることはできません。近年のサウナブームにあわせて覚えておきたいものです。

本間めい子(フリーライター)

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