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行政サービスの99%がデジタル化!「エストニア」電子政府のここがすごい

  • 2020.12.1
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コロナ禍での現金給付に伴う行政手続きの遅れは、記憶に新しいことです。
マイナンバーカードを使ってインターネットから申請すると給付が早くなる、との触れ込みでしたが、かえって時間がかかる自治体が続出。なかにはインターネットからの申請をやめてしまったところもありました。これには、各自治体がまだまだアナログな体制であると、がっかりした人もいるのではないでしょうか。
そんな日本とは異なり、行政サービスのほとんどをデジタル化している国が電子政府と言われる「エストニア」です。

今回は、エストニアの状況と、これからの日本の行政サービスについて考えてみたいと思います。

エストニアってどんな国?

エストニアは、バルト海に面したヨーロッパの国のひとつ。リトアニアとラトビアとともに「バルト三国」と呼ばれ、首都タリンは中世の街並みが美しいことで有名です。
人口は約132万人(2019年1月)と長崎県と同じくらいですが、面積は4.5万平方キロメートルで九州全体と同じくらい。とても広々とした印象ですね。

長らくロシア領でしたが1918年に独立を宣言します。その後旧ソ連とは平和条約を締結するものの1940年に再び旧ソ連に併合されました。
再び独立するのは1991年。それからは、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)にも加盟し、2011年にはユーロを導入しています。

エストニアの国内総生産をあらわす名目GDPは、約315億ドル(2019年:IMF)です。※日本の名目GDPは約5兆799億ドル(同)ですから、経済的な規模にはかなり違いがあります。
しかし、エストニアはITなどのイノベーション産業の誘致・育成を積極的にすすめており、その分野では世界をリードしていると言ってもいいでしょう。
※参考:GLOBVAL NOTE「世界の名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)

エストニア電子政府の行政サービス

エストニアでは、IT立国化が国策となっており、電子政府、電子IDカード、ネットバンキングが広く普及しています。なかでも政府の行政サービスは99%がデジタル化されており、ほとんどの手続きがオンラインで可能になっています。

IDカードが普及

エストニアには、ICチップが付いた電子IDカードがあり、ひとりひとりに個人番号があります。そして、これによってさまざまな行政サービスを受けることができるようになっています。
行政サービスの99%はオンライン化されていて、現在オンラインでできないことは結婚、離婚、不動産売買のみ。各種手続きのために役所に行かなくていいという国民の利便性もさることながら、政府のコスト削減にも大きく影響しています。

選挙投票

日本での選挙は、送られてきた投票券(=投票所入場券)を持って、決められた投票所に出向いて投票する方法が基本です。選挙当日に投票所に行かれない人のために期日前投票ができるようになっていますが、それでも場所や期間が限られており、便利とはなかなか言えない状況です。

選挙には透明性・公平性などが重視され、便利さが多少犠牲になっても仕方ないのかもしれませんが、郵便投票やオンライン投票ができるようになればいい、との意見はよく耳にしますが実現には遠い印象がぬぐえません。

しかし、エストニアでは世界で唯一、国政選挙で電子投票が行えるようになっています。電子投票の専用アプリケーションをパソコンにダウンロードして投票しますが、投票受付期間内であれば何度でも再投票できます。
紙による投票が行われた場合にはオンライン投票は無効になり、紙の投票が優先されます。

選挙には投票日だけではなく集計にも多くのコストがかかりますが、オンライン投票になるとコストも大幅に削減できるメリットがあります。
エストニアでは2019年までに10回の選挙でオンライン投票が実施されました。2019年の国政選挙では、投票者の43.8%がオンライン投票を利用したとのことです。
システムが高いセキュリティを持ち、また国民の信頼が高いからこそ実現しているシステムではないでしょうか。

オンライン納税

また、エストニアでは納税もオンラインで完結します。
日本でも確定申告がオンラインでできる「e-Tax」があり、国税庁はデジタルガバメントの実現に向けて普及・定着につとめています。その成果により年々利用者は増えていますが、2019年度のオンラインでの所得税申告は59.9%と前年比2.0ポイント増にとどまりました。※

コロナ禍の影響で、オンラインでの確定申告を利用する人は増えたものの、操作に不慣れなため手間取る人も多く、e-Taxの満足度は74.2%と前年比7.3ポイント減になっています。
オンライン納税が普及するには、わかりやすいサービスやインターフェースの開発はもちろんですが、利用者のインターネットリテラシーの向上も課題になりそうです。

一方エストニアでは、メールで税申告書が届きます。申告書には所得、所得控除とともに税金の金額まで計算されて記入済みです。これに承諾をするか、それとも修正するかを選ぶのみなので、あっという間に申告手続きを完了することも可能。還付金のお知らせは数日後にメールで届きます。
市民の95%以上がオンライン申告を利用しているのも、うなずけますね。
※参考:国税庁「令和元年度におけるe-Taxの利用状況等について(令和2年8月)」

会社設立

エストニアは決して大きな国ではありませんが、自由経済をかかげており、経済の活性化にも積極的なようです。会社設立はオンラインで可能で、数時間で手続きが完了できるというスピード感です。
そのためスタートアップ企業が多く、起業しやすい国としても有名です。

エストニアの会社設立のオンライン申請は、24時間365日受け付けています。費用は約2万円からで、資本金の払込みは会社設立後でもOK。
日本では定款認証に公証役場へ行き、登記には法務局へ、その後税務署や年金事務所などへの会社設立届の提出など、日数も手間もかかります。費用も約20万円以上かかるため、エストニアと比べるとかなりハードルが高いと言わざるを得ません。

企業の資金調達に関しては、投資環境が整っていることから海外からの投資も多く、世界的なIT企業が輩出される原動力ともなっています。
税務申告はもちろん便利なオンライン申告が利用できます。

電子裁判

エストニアでは、裁判を電子化することで判決までの期間を短くすることに成功しています。
電子裁判といっても、裁判自体をオンラインで行うのではなく、書類や証拠をインターネット上にアップして提出することで裁判を進めていきます。裁判に必要な意見書や証拠書類をタイムリーにアップすることで、迅速な裁判がやりやすくなるのです。

刑事事件では、証拠となる映像などがあれば、誰でも裁判所にアップできます。裁判には直接関係しているわけでない、一般の第三者でも可能。たまたま写したスマートフォンの写真に証拠となる画像が写りこんでいたら、解決のために役立ててもらえるのは画期的なシステムですね。

電子カルテ

エストニアの医療保険は日本と同様に国民皆保険制度です。IDカードが保険証としての機能を持ち、体調に不安があればまずは家庭医の診察を受けます。家庭医は登録制でいつでも医療アドバイスが受けられるようになっています。
必要であれば専門医への紹介を受けて専門の医療を受けることができます。

救急の場合は、IDカードの個人番号(=患者識別番号にもなっている)から、患者の基本情報が分かるようになっています。救急隊員が患者の情報と状態・症状を救急病院の医師へオンラインで伝達することで、担当の医師は患者が到着する前にそれらの情報と、最新の受診歴や検査履歴を確認することができるため、速やかに治療を始められる大きなメリットがあります。

自分や家族の医療データは、インターネットのポータルサイトで閲覧できるので、受診歴の確認なども簡単です。さらに、自分のデータにアクセスできる人を指定できるセキュリティもしっかりしています。
また、代理人として自分の代わりにアクセスできる人も指定できるので、万が一の場合にも安心です。

電子居住

デジタル化が進むとここまでできる?!と驚くのが、電子居住(eレジデンシー)です。
電子居住カードは世界中の人が取得できますが、取得には大使館などで対面による本人確認が必要です。
取得後はエストニアのデジタルIDを得て、公的サービスを受けられます。

起業しやすいエストニアで会社を立ち上げ、EUに進出する、という大きな夢も現実的になりますね。
ただし、近年はマネーロンダリング規制との関係で、ほとんどの銀行ではeレジデンシーによる銀行口座開設ができないケースが増えているとのこと。国外からの企業運営には制約があると見られています。

どうしてエストニアは電子政府を作ったのでしょうか?次のページで、その理由と日本の電子政府について、考えていきましょう。

どうしてエストニアは電子政府を作ったの?

エストニアの電子政府のサービスは、このように大変進んでいますが、電子政府を作ったそもそもの理由は何のためなのでしょうか。
それには、エストニアの歴史が関係しています。

エストニアはロシア・旧ソ連占領されていた時代が続き、1940年の旧ソ連によるエストニア占領時には、多くのエストニア人が処刑、シベリア抑留もされたと言われています。
そういった経緯から、エストニアはロシアへの警戒感を強くしており、国力をつけるための国策のひとつとして政府の電子化がありました。

世界に先駆けて政府の電子化を進めることで、この分野ではなくてはならない存在感を示すことができ、多くの海外資本の流入によって経済がさらに活性化されるでしょう。

今後エストニアではどんなサービスができる?

これほどまでに進んだエストニアの電子サービスですが、さらに進化し続ける予定です。行政サービスのオンライン化がさらに進めば、官僚がゼロになる日もくるのではないでしょうか。
また、公的機関へのAI導入が進んでいきます。実験段階の自動運転車両や、ロボット宅配サービスなど、エストニアがどこよりも早く導入するかもしれません。

さらに、デジタルマネーについても注目です。エストニアの中央銀行は、電子政府システムの中核を成す技術が、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発に活用できるかを調査すると発表しました。※
クレジットカードの利用により、キャッシュレスは広まっていましたが、さらにデジタルマネーが通貨として流通する日に、一歩近づいたようですね。
※参考:coindesk JAPAN「電子政府の経験を活かすエストニア銀行、デジタルユーロを研究」

日本は電子政府になれるのか

日本もまた、電子政府を目指しています。2020年9月に発足した菅内閣で、デジタル庁設置を発表したのもその表れです。
デジタル庁のリーダーシップにより、各省庁を横断した電子化を進めていってほしいと思います。

電子化のカギは、マイナンバーカードの普及です。エストニアの電子IDカードのように広く普及すればよいのですが、日本ではすべての国民のわずか20.5%(2020年10月1日現在)。※
2020年9月から、マイナンバーカードを作ってマイナポイントを申し込むと、最大5000円分のマイナポイントが受け取れるキャンペーンが始まっていますが、それでもマイナンバーカードの普及は進みません。

マイナンバーカードを取得すると、今後マイナポータルを利用してオンラインでさまざまなサービスをうけることが可能になります。
たとえば、医療サービスです。2021年3月からはマイナポータルで事前登録しておくと、マイナンバーカードが保険証代わりに使えるようになります。引越しや転職などで健康保険証が切り替わっても、マイナンバーカードが使えるので便利です。

また、特定検診情報や、服薬履歴がマイナポータルから閲覧でき、医療者に共有することも可能になります。医師などから「どんな薬を飲んでいますか?」と聞かれて、薬剤名までは思い出せても、何ミリグラム錠だったかまでは…という時もありますよね。
そんな時にも患者が同意すれば、医師と情報を共有することができます。

さらに、年末調整が省力化できるようにもなります。年末調整では、保険会社の控除証明書を勤務先に提出する必要がありましたが、マイナポータルを利用して電子証明書として受け取れば、データとして提出して自動計算してもらえるという仕組み。
勤務先が対応しているかどうかにもよりますが、年末調整のシステムは2020年10月から、所得税の確定申告の手続きは2021年1月以降に利用できる予定です。
※参考:総務省「マイナンバーカードの市区町村別甲府枚数等について(令和2年10月1日現在)」

電子政府を目指すには、ひとりひとりの意識が大切

エストニアでは、政治・経済共に高い透明性を有し、各種資料や指標のほとんどがインターネットで閲覧可能である状況も、電子政府が実現した要因のひとつでしょう。高いセキュリティと政府に対する信頼は、デジタル化の基礎です。

日本が電子政府になるためには、多くの課題がありつつも、国民ひとりひとりの意識も大切なのではないでしょうか。

文・監修:ファイナンシャルプランナー(AFP) タケイ啓子

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