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「パワハラの証拠になる」メールやチャットでつい感情的になってしまう人の盲点

  • 2020.11.28
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2020年、多くの企業がテレワークへと移行し、働き方が変化しました。ハラスメントに詳しい弁護士の井口博さんは、「テレワーク時代ならではの、新たなハラスメント“テレハラ”が急増している」と警告します。一体、どこまでがセーフでどこからがアウトなのでしょうか……。

※本稿は、井口博『パワハラ問題』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

スマホと並行してパソコンを使用する女性
※写真はイメージです
コロナ収束後も続けたい人が6割

テレワークというのは、直訳すれば「離れたところでの労働」であり、ITを使って場所や時間にとらわれずに働くことである。

パーソル総合研究所が全国2万5000人を対象にした「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(2020年4月10~12日)では、テレワーク実施率は27.9%にもなった。

テレワークが広がって在宅勤務も増えた。2020年4月7日の緊急事態宣言が出される前に行われた国土交通省の「テレワーク人口実態調査」(3月9、10日に実施)では、在宅勤務率は12.6%であった。それが緊急事態宣言後には増えて、日本生産性本部が5月11日から13日にかけて会社勤めの1100人を対象にした調査では、29%(319人)が在宅勤務だった。

今後、働き方がコロナ以前の状態に完全に戻ることはないだろう。この日本生産性本部の調査では、在宅勤務などをしている人の約6割が新型コロナ収束後もテレワークを続けたいと回答している。テレワーク時代が始まったと言える。

テレワークの限界

テレワーク時代の始まりということで、時流に乗り遅れるなと世の中は大変な勢いである。もちろん、テレワークは、ワークライフバランスを図る観点から積極的に導入すべきではある。しかし、テレワークは世間で言うほどすべてバラ色ではない。こんなことを言うと時代遅れと言われそうだが、そのようなことはない。それほど生産性が向上するというのなら、コロナ以前からもっと導入されていたはずだ。テレワークには当然ながら限界がある。

まずテレワークを導入できる企業とできない企業がある。工場や飲食店はそもそもテレワークに向いていない。それ以外にもさまざまな問題点がある。

最大の問題点は“コミュニケーション”

経済同友会の105社へのアンケート調査結果(2020年4月20~24日)では、ほぼすべての会社でテレワークが実践されているが、課題として、「込み入ったやりとりは、在宅勤務では難しい」「テレワークによる生産性の低下に対する抜本的な働き方改革」などが挙げられている。この回答の中の「込み入ったやりとりが難しい」、つまりコミュニケーションがとりづらいというのは、テレワークがもつ最大の問題点だろう。

テレワークが増えてくると、直接会うことが減り、上司と部下のコミュニケーションのレベルは大きく低下する。コロナ以前であれば、上司と部下が顔を合わせ、お互いのその日の気分や体調も見ながら仕事ができた。しかしテレワークとなるとそうはいかない。机を並べていないので、上司と部下でお互いの状態がよくわからない。

ビデオ会議中の女性
※写真はイメージです

テレワークのひとつとして、ZoomやTeamsといったアプリを用いたテレビ会議がよく取り上げられる。しかし、会社はいつも会議をしているわけではないから、在宅や社外で業務をしている部下の様子はわからない。労務管理として、パソコンの前からの離席状況を記録するという会社があるようだが、そのような監視体制で業務のモチベーションが上がるかは疑問である。

「カーテンがかわいいね」「さぼってないだろうな」

このような問題点をかかえたテレワークであるが、今まで想定されなかった新たなハラスメントが出てきた。テレワーク・ハラスメント、テレハラである。テレハラは、リモートワーク・ハラスメント(リモハラ)と言われることもある。

実例としては、テレワークをしている社員から、「上司に、カーテンの模様がかわいいねと言われた」「オンライン飲み会に一部の人だけが呼ばれる」「子供がうるさいから黙らせろと言われた」「見えないところでさぼってないだろうなとか、服装がだらしないと言われた」というようなケースが報告されている。

このような画面に映った部屋の様子を指摘することは、部下のプライバシーを侵害し不快感を与えるのでセクハラ、パワハラになりうる。

「子供がうるさいから黙らせろ」というのも、時と場合によるので一概に問題だとも言い切れないが、乱暴すぎる言い方は部下に不快感を与えるだろう。

さぼってないだろうなとか、服装のことを指摘するのも、行き過ぎた言動として部下に不快感を与えるのでパワハラになる可能性がある。

ITに疎い上司をばかにする「テクハラ」にも注意

このようなテレハラが出てくるのは、先に挙げたテレワークの問題点に関係している。

まず、在宅勤務によって部下の部屋などのプライバシーに関わるハラスメントが生じやすい。それは自宅といった私の部分が会社の仕事という公の部分に関わるからである。上司には公と私の区別意識が必要である。

井口博『パワハラ問題』(新潮新書)
井口博『パワハラ問題』(新潮新書)

もうひとつは部下との十分なコミュニケーションがとれないことに原因がある。

まず部下が職場にいないので、画面から離れるとその時間に部下がどのようにしているか様子がわからない。

例えば、今までであれば部下が机に向かって仕事をしているのを見ているのでよいが、テレワークだと部下が見えないので、その仕事が不十分だと思った上司は部下が家でさぼっていたのではないかと疑ってしまう。そうすると上司から「見えないところでさぼっていただろう」という言葉が出てきて、ずっと仕事をしていた部下に不快感を与えてしまうことになる。

それ以外にも、IT機器の扱いがうまくできない部下を業務からはずしたり、逆に部下がITにうとい上司をばかにするような言動をしたりするテクハラも起きるだろう。

親しみを込めた軽口のつもりでも……

では、このようなテレハラを起こさないようにするために経営者と管理職はどんなことに注意したらよいのだろうか。

要は前に挙げたことが起きないようにすることなのだが、第一に必要なことは、上司としては勤務という公的な部分だけに関わるという意識である。つまり、在宅でのテレワークでの私的な部分であるプライバシーに注意することである。

例えば「カーテンの模様がかわいいね」というのは、言った方からすると素敵とほめているのに、なぜハラスメントなのかと思うかもしれない。しかし自分の部屋はプライベートな空間であり、言われた方は自分の部屋を見られたという意識の方が強い。

「部屋が片付いていない」というのも、やはりプライベートについての指摘なので避けるべきである。管理職としては親しみをこめた軽口のつもりでも、言われた方にショックを与えることを十分に認識しておく必要がある。

次に必要なことは働き方についての理解である。テレワークという働き方では、上司が部下を信頼することが前提になる。その信頼がないと「見えないところでさぼっていただろう」というセリフが出てしまう。

最も注意が必要なのは、証拠として残るデータ

新時代の新しい働き方に合わせて、テレワークにおいては今以上に経営者と社員、管理職と部下との信頼関係を構築しなければならない。人間関係とコミュニケーションが今以上に必要になるということである。

京都大学の若林直樹教授も、テレワークが成功するかどうかのポイントは、リーダーと部下とのコミュニケーションと信頼関係の強化であると言っている(「日本経済新聞」2020年8月11日付朝刊)。

最後にひとつ注意すべきことがある。画像や文字など上司と部下のやりとりの記録が残ることである。これはテレワークに限ったことではなく、これまでもメールなどでのやりとりは記録に残っていた。ただテレワークが広がると、それだけ記録に残ることが多くなるのは間違いない。

このことはハラスメントについて言えば、それだけやりとりが証拠になって残るということを意味する。テレワーク時代では画像やメールなどのやりとりは感情的になることなくより慎重にしなければならない。

井口 博
弁護士
1949年生まれ。東京ゆまにて法律事務所代表弁護士。一橋大学法学部卒。同大学院を経て1978年から1989年まで裁判官・検事。1992年ジョージタウン大学大学院修士課程修了。第二東京弁護士会登録。元司法試験考査委員。ハラスメントに関する著作、論文多数。

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