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わたしは愛される実験をはじめた。第61話「モテる男には恋愛の舞台裏トークが刺さる」

  • 2020.11.26
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【読むだけでモテる恋愛小説61話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

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心の内側では、サイレンの赤い音が響いていた。

好きでたまらない〝イケメン〟テラサキさんとのデート。冷められないために恋愛認知学の〝好き好き節約の法則〟によって、好き好きアピールを封印しつつ、おたがいの心を探るような会話の応酬をする。かつて経験したことのない危険地帯に突入しているのを感じていた。

「最近は順調ですか?」私は京都タワーサンドにあるフードコートのテーブルを挟んでいった。串から焼き鳥の最後のピースをはずした。

これは〝順調メソッド〟だった。

どのジャンルについて順調なのかは決めないまま質問をする。生活かもしれない。仕事かもしれない。悪の組織に命を狙われているのかもしれない。これは〝質問はするけれど、返答のレベルは相手にまかせる〟というもの。探りをいれるフレーズだ。

デートで話題にこまっても無理にひねりだす必要はない。相手に話題をひねりだしてもらえばいいだけだから。この〝順調メソッド〟を使って。相手がなにかを話しだせば、その話題に乗っかればいい。それは相手の関心ごとだから必ず盛りあがる。自分がペースを合わせるのではなく相手にペースを合わせてもらう──実に恋愛認知学らしい。銀の弾をこめた、いつでも撃てるピストルのように便利なメソッドだから、頭に叩きこんでおいた。

もし相手が返答に困るそぶりをみせたら「仕事でも、プライベートでも、人間関係でも、なんでもいいですけど」という助け船をだすのも忘れないこと。

そして、もしデートで色っぽい空気になったときに〝順調メソッド〟を使えば──この質問は独特のニュアンスを帯びる。

「え、なにが?」グラスを手にテラサキさんは眉をあげた。

ちょっと不意を突かれたという感じだった。聞こえているのに聞き返すときは、その質問に、後ろめたいことや引っかかりがある証拠だ。ていうか、その表情が可愛すぎて心の奥のカメラロールに永久保存したのは内緒だ。

「なにがって」私はなんでもない顔をつくった。「普通に女子と飲みにいってるかとかですよ」

「ああ、ね」

「別に、この年齢なんだから異性と食事に行くぐらいするじゃないですか」

「ここで男の反応は二パターンに分かれるわ」フランソア喫茶室で、このメソッドを教えてくれたときベニコさんはいった。「まず〝他にデートしている女性がいないパターン〟ね。やたらにいないと強調するときは真実だと思っていいわ──あなたによく思われたいという脈ありサインでもあるでしょう──くれぐれも男の嘘には注意しつつね。ラッキーパターンよ。そのまま恋愛認知学のアプローチを続けるだけでいい。そして、もうひとつが〝他の女子ともデートしているパターン〟よ。タイガーを相手にする限り、正直、こちらの方が多いでしょうね」

「うん? てか、デート中に他の異性の話を持ちだすなんて失礼じゃありません?」私は珈琲をスプーンで混ぜながら首をかしげた。「ふたりだけで楽しむのがデートなのに」

「だから、あんたは無限にパンケーキ女なのよ」

「すごい抽象的になじられた」

「いい?」ベニコさんは人差し指をたてた。ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じだった。「パンケーキちゃんが狙おうとしているのはタイガー(モテる価値の高い男性)なのよ。とにかくタイガーに対しては〝いつものファンみたいに近づいてくるパンケーキ女じゃなくて、恋愛や人生を深く知っている価値の高い女なんだな〟と感じさせることが大事なの」

「恋愛や人生を深く知っている価値の高い女、ですか。てか、まだ半信半疑なんですけど。私とデートするってことは、他にデートしてる子がいないってことじゃないんですか?」

「パンケーキちゃんはアホなの?」

「すごい直球」私はビクッとなった。ちょっと恥ずかしかった。

「ある程度、モテる人間にとって、異性とのデートなんてコーヒーブレイクくらいの日常茶飯事よ。息をしているだけで誘われるんだから──女だってそうでしょ? それが〝タイガーの日常〟なの。そういう男を手に入れようとしてるんだってことを自覚なさい」

真横から除夜の鐘でつかれたみたいな衝撃だった。意味なく手で側頭部をおさえた。「じゃあ、私は、何人かいる候補のひとりに過ぎないってことですか」

「パンケーキちゃんがなにを恐れているかを教えてあげるわ」ベニコさんはいった。「好きな男にとって、自分が取るに足りない存在だと認めることが怖いのよ。男が、他の女とデートしてることを認めたくないわけ。いえ、信じたくないといった方が正しいわ」

その言葉は四条大丸デパートの屋上からスナイパーライフルで狙撃されたみたいに心の奥に刺さった。確かにテラサキさんにとって、私が、たくさんデートする女のひとりにすぎないと考えるのはつらかった。というか、わざと酷なことをいってるんだと思った。

赤いビロードの椅子の上で、ベニコさんはむっちりした足を組みかえた。「もちろん恋愛認知学のアプローチをするからには〝その他大勢のパンケーキ女のひとり〟になることはないでしょう。むしろ〝ドキドキできる数少ない価値の高い女のひとり〟にカテゴライズされているはずよ──」

「よかった──でも本当ですか?」私は眉をよせた。「やっぱり好きな人だからこそ信じてみるのも大事だと思うんですけど。誠実にというか。やっぱりデートをしてる男性が、他の女性とデートしてると疑うなんて失礼じゃありません?」

「パンケーキちゃん」ベニコさんは首をふった。その声はやさしかった。「この世のすべてにおいて、あなたが信じたいかどうかと、それが真実かどうかは別なのよ。そもそも私たちは信じたくないことを真実でないと思いこみたがる生き物だから。そのための理由ならば──自分を正しいと主張するための──いくらでも思いつけるしね」

「はあ」私はつぶやくようにいった。「むずかしい」

「むずかしいのは承知よ」ベニコさんはいった。「それでも、私は、あなたに信じたくないものを信じないような女になってほしくないのよ。女たるもの〝信じる信じない〟ではなく〝真実〟を追求なさい。その強さを持つことよ」

言葉の奥に深いものを感じた──それこそ海の底よりも深いものを。自分がその意味の半分も理解できていないことだけはわかった。その残り半分に人生の秘密が隠れていて、私は、いまだに人生の初心者らしかった。

「そして常に最悪を想定して、最善の行動をとること。タイガーを口説くからには〝タイガーの日常〟を理解しておく必要があるから──信じたくない真実として。その上でタイガーと接するときは〝おたがい価値の高い人間だから、他の異性ともデートはしてるだろうけれど、いまの関係がいちばん心をおきなく話せるよね〟という空気を醸しだすことなの」

「うん、それってフランクシップ(男女を意識しながら、なんでも言いあえる関係のこと)みたいな感じですか」

「まさに」ベニコさんはにやりと笑った。「それをアップデートしたものよ。これを〝タイガーズ・フランクシップ〟と呼ぶ。虎を手懐けるには、火の粉をまぶしたようにピリっとした関係性が必要よ」

「ま、ね」テラサキさんはいった。肩の力をぬいて、この女になら本当の話をしても問題なさそうだと判断された感覚があった。「なんかLINEしてくる子とかはいるかな」

「そんなもんですよねえ」

私はビールに口をつけた。やっぱりなのか。心の奥にさびしい風が吹くのを感じた。お箸に力が入ったけれど、ぐっと平静を装った。数秒後、私は乗っかるように笑った。「え、いまも、めっちゃ女子のLINEとか未読無視してそう」

「すごい想像してくるじゃん」テラサキさんは隣の椅子に置いたジャケットを背もたれにかけなおした。「正直あるっちゃある」

「どうせ返信してないんでしょ」

「そだね。てか、できない」

「まあ、言い寄ってくる全員と仲良くすることはできないですからね」

「そう」テラサキさんはビールを飲んだ。「なのに、こっちが悪いことしてるみたいになるんだよな。こういうのって誰にも言えることじゃないんだけどさ」

「あー、わかる人にしかわからない話ですもんね。反感買うし」

「それな」テラサキさんは笑った。「ミホちゃん、めっちゃわかってくれる」

これが〝舞台裏トークの法則〟だった。

タイガーと接するときは〝あなたが普段まわりにみせているキャラクターじゃなくて、その裏の苦労やあれこれを理解してる側ですよ〟という立場に潜りこむこと──なるべく早くに。

舞台上の姿ではなく、舞台裏の姿にこそ、その人の本質があらわれるから。

例えばミッキーマウスを口説きたいなら「いつも笑顔で、俳優もできて、歌えて、踊りもできてステキですよね」と褒めてはいけない。むしろ「正直、ディズニーランドに出勤したくない日もありますよね。まわりは〝あいつは全員を楽しませるのが好きだから、そんなことないよ〟とかいうんだろうけど」と語りかけるべきなのだ。

忘れてはいけないのは「どんな人物にも舞台裏の姿はある」ということ。

それをモテる女は見抜いて、さっと舞台裏トークを投げかけられる。タイガーは演じることに慣れているので、それが演技だと見破っていると伝えるだけで〝なんでも話せる貴重なポジション〟につける。

「ていうか──」私はここでテラサキさんの心を一気に引きつける禁断のメソッドを繰りだすことにした。恋愛認知学史上、もっとも汚い手段かもしれない。それでも、どんな手を使ってでも恋を叶えたかった。

■今日の恋愛認知学メモ

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・【順調メソッド】「順調ですか」と質問することで相手から話題を掘りおこす。すると盛りあがる会話になる。

・【タイガーの日常】モテる男性は他の女子ともデートしていることが多い。ここを認めることからスタート。

・【タイガーズ・フランクシップ】お互いモテるから異性とも出かけるかもだけれど、この関係がいちばんだよねという空気感のこと。

・【舞台裏トークの法則】相手が普段みせているキャラクターではなく、その演技をしていない素の姿に接するように会話すること。

・男性の心に刺さりまくるトークをみせてやる!

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