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詩人・文月悠光が薦める3冊。【美しい言葉を味わえる本 vol.6】

  • 2020.11.21
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詩人の文月悠光に聞いた、言葉にまつわる5つの質問。

──日本語の魅力はなんだと思いますか?

発声の響き、字の見た目が柔らかいところ。ひらがな、漢字、カタカナなど、さまざまな表記方法があり、表現の可能性に満ちています。

──あなたにとって美しい言葉とは?

美しい言葉も、醜い言葉も、この世には存在しないと考えています。大事なのは、話者や書き手が「この言葉でなければ思いを表現できなかった」という必然性です。ある一言から「必然性」がどの程度強く伝わってくるか、が一つの基準ではないでしょうか。そういった表現を、人は「この言葉は切実だ」「心に訴えかけてくる」と呼ぶのだと思います。

──あなたはどのようにして美しい言葉、自分らしい言葉を培ってきましたか?

日記を書くこと。可能なら手書きがお勧めです。その日の自分の心境やコンディションの違いが、書いた瞬間からわかります。詩集や歌集を読み、気になった歌や詩句を書き留めること。いろんな人から話を聞き、言葉の引き出しの風通しをよくしておくこと。映画の日本語字幕と原語をじっくり見比べること。詩作の際、表現に少しでも迷ったときは、類語辞典を開きます。意味が似た言葉の、小さなニュアンスの違いに敏感になれるからです。

──「本」や「詩集」などを読むことは、自分らしい言葉を築く上で重要だと感じますか?

重要ではあるけれど、唯一の方法ではないと思います。たとえばSNSに「書くこと」もその一つ。



──SNSや日々の生活での現代人の言葉の使い方、選び方についてどうお考えですか? また、「美しい/自分らしい言葉」を手に入れるには、何をしたらいいでしょうか?

誰かを傷つける投稿、攻撃的、もしくは自罰的な内容が目立ちます。「この表現をする必然性があるかどうか?」「誰かを傷つけるリスクを負っても、今これを書く意義があるのか?」自分の胸に問いかけることだと思います。

『傷を愛せるか』著/宮地尚子

精神科医・宮地尚子さんのエッセイ集。特に「弱さを抱えたままの強さ」の章は、強がりな心を持て余す方に読んで欲しい名文。傷を「傷」と名づけ、自身の在り方も問い続ける。そんな著者の言葉は、どこまでも厳しくて優しい。

『街の人生』著/岸 政彦

社会学者・岸政彦さんによるインタビュー集。話し手は外国籍のゲイ、摂食障害の女性、シングルマザーの風俗嬢、ホームレスなど、この社会が包む(覆い隠してしまった)「私」の一人。話し言葉は無防備で、実感に追いつこうとして時折つまずく。どもったり、黙り込んだり。その〈つまずき〉こそが、「語り」ならではの魅力だと気づかされた。

『えのないえほん』作/斉藤 倫  絵/植田 真

詩人の斉藤倫さんが手がけた絵本です。絵本を読んで初めて泣きそうになりました。〈ろばさん みたいで しかさん みたいで ほしくさ みたいで うみなり みたいな あなたを しっているわ〉という言葉に胸を打たれます。名久井直子さんの造本も素晴らしく、ページを戻って何度も楽しめる一冊です。

Photo: Shinsuke Kojima Editors: Gen Arai, Mina Oba

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