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【宮城・婚活サイト殺人事件:前編】木嶋佳苗に続いた“セックスと金”の婚活オンナ……「結婚するつもりの男」と1000万円の援助金

  • 2020.11.13
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世間を戦慄させた事件の犯人は女だった――。平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。自己愛、欲望、嫉妬、劣等感――罪に飲み込まれた闇をあぶり出す。

【宮城・婚活サイト殺人事件:前編】木嶋佳苗に続いたセックスと金の婚活オンナ……「結婚するつもりの男」と1000万円の援助金の画像1
写真ACより

【宮城 婚活サイト殺人事件】

宮城県刈田郡蔵王町、蔵王連峰を望む高原のリゾートホテルMは、2012年10月も、例年と同じく繁忙期を迎えていた。この時期は紅葉が見頃で、各地から観光客が訪れるのだ。Mに入社して3年の従業員・山本は、同月21日から夜勤でシフトに入り、翌日22日の10時に退勤予定だったが、紅葉シーズンで混み合うフロントでのチェックアウト業務に追われ、11時を過ぎても仕事を続けていた。

レジ締めにもようやく終わりが見えてきた正午前、フロントの電話が鳴った。

「救急車呼んで。ちょっと部屋に来て」

女性スタッフを伴い部屋の前まで行くと、ドアの外に中年の男女が立っていた。宿泊客の連れで、隣の部屋に泊まっていたのだという。「すごいことになってるので、部屋を見てほしい」と、通報主である女が言う。スタッフを残し山本がひとり部屋に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。

窓の方を向き、寝室の床に座る初老の男性。壁には血が飛び散り、床には嘔吐物や排泄物が散乱している。山本が男性の顔をよく見ると、両目の上がボクサーのように腫れていた。山本は思った。「転んでけがをしたんじゃなく、誰かにやられたな」

幸い、男性には意識があった。

「大丈夫ですか」

こう問いかけると男性は朦朧とした様子ながらも「ああ、ああ」と答える。まもなく到着した救急車で、すぐに男性は病院に搬送、入院となったが、目のけがにより、視力を喪失していた。担当医師は「人為的外傷の可能性がある」と消防に伝えている。だが、瀕死の重傷を負った当の男性は、何者かをかばうように、こう言うのだった。

「酔っててソファから転落した。覚えていない」

退院日の11月3日、男性を迎えに来たのは、ホテルMで部屋の前にいた、あの男女だった。そしてその日に男性は殺害されることになる。

木嶋佳苗に続いた「婚活サイト」の女

いわゆる〝首都圏連続不審死事件〟で殺人などの罪に問われ、死刑が確定した木嶋佳苗死刑囚(45)は、出会った男性たちからたびたび金を詐取し、うち3名を殺害していた。出会いの場は婚活サイトだ。ここに彼女は「結婚相手を探している」と登録し、男性たちに「学校に通うための授業料が必要」だと嘘をついて多額の金を振り込ませたり、ホテルに誘い、睡眠薬入りの飲み物で男性を眠らせた上で、財布から金を盗んで部屋から立ち去るなどしていた。

木嶋死刑囚の一審裁判員裁判が開かれたのは、さいたま地裁。2012年のことだ。それから2年後、ここで同じように「婚活サイト」が出会いの舞台となった事件の裁判員裁判が行われた。宮城県に住む女は、埼玉県行田市在住の男性とサイトで出会い、結婚をほのめかしながら多額の金を貢がせた揚げ句、男性を殺害した。

だが彼女自身が手を下したわけではない。実行犯は、同じく婚活サイトで出会った別の男だった。男は惚れた弱みにつけ込まれ、身も心も操られていた。

蔵王のホテルで瀕死の重傷を負ったのは、埼玉県行田市に住む電気設備業・黒木誠さん(仮名・67=当時)。彼は退院後の11月15日、自宅一階の居間で遺体となって発見された。死因は首元を牛刀で切られたことによる失血死で、死亡推定日時は11月3日であることがわかった。現場の状況から、自殺の可能性も捨てきれなかったために、他殺との両面で捜査が進められていたが、これはのちに他殺だったことがわかる。

翌年2月に、黒木さんに対する強盗殺人容疑で逮捕されたのは、宮城県丸森町に住む無職・佐藤奈苗(仮名・逮捕当時42)とその交際相手である仙台市太白区の会社員・鈴木光俊(仮名・逮捕当時48)だった。

地元で評判の“ませた子”、口癖は「私はこんな場所にいる人間じゃない」

奈苗は生まれて間もなく、子どものいない夫妻に引き取られ、丸森町で育った。仙台市内から車で南へ1時間。緑豊かでのどかな風景が広がる福島県との境にある小さな町は、その面積の1割を国有林が占める。雄大な自然と心優しい養父母のもとで育った彼女だったが、近所では“万引きの常習犯”として知られていたという。

「いつも服の下に本やお菓子など盗品を隠していた。注意すると、悪びれた様子もなく、謝りもしないんです。捕まえるたびに、お母さんが謝りに来ていました」(近所の住民)

学校での評判は“ませた子”。中学生の頃から化粧をしていた。当時から高級品志向で、ブランド物の化粧品を万引きすることもあったという。地元の高校を中退した奈苗が飛び込んだのは夜の世界だった。ルイヴィトンのバッグを持ち歩き、都会への憧れをたびたび口にしていた。

「私はこんな場所にいる人間じゃない」

20歳で地元の男性と結婚し、2人の子どもに恵まれたが、6年で離婚。子育てを義父母にまかせ、再び夜の世界に舞い戻る。さまざまな婚活サイトを通じて複数の男性と交際し、その男性を騙しては金を貢がせていたともいう。奈苗はバツ2になった02年、3度目の結婚を果たすが、夫となったAさんは2年後、31歳で突然死した。

「Aさんは体格が良く、元気だったのに突然病気で亡くなった。彼には3500万円の保険金がかけられており、受取人は奈苗だった」(捜査関係者)

夫を亡くした奈苗は実家に戻り、毎日のように通販でブランド物を買いあさるようになる。「夫の保険金で買い物するなんて……」――そう近所で囁かれていたともいう。

だが特にAさんの死が事件として扱われることはなかった。

お見合いサイトで出会った2人の男

黒木さんと奈苗が出会ったのはAさんの死から2年後の06年。登録した中高年向けのお見合いサイトでマッチングし、交際を始めた。奈苗は黒木さんに借金を重ねる一方で、09年には同じサイトで光俊とも知り合い、交際を始める。

奈苗と出会うまで、女性と付き合ったことがなかったという光俊は、彼女の胸の大きさに惹き付けられ、一気にのめり込む。

初めて会った日に、リサイクルショップで10万円の指輪を買い与え、奈苗と結婚するつもりだった。でも「一番下の子が18歳になるまでは」と、籍をすぐに入れることができないと言われていたという。

それでも“夫婦同然の関係”だと思い、給与や貯金も奈苗に渡していたという。また“あなたの子どもを妊娠した”と告げられたこともあった。

「『今はまだ産めないので、子どもは堕ろさなくちゃいけない』と言われました。実際に中絶したかは確かめていませんが、そこから給与の全額を渡すようになりました。年齢的に考えて、今後もう子どもは無理だろうと思ったからです」

のめり込んでいた光俊に奈苗は、2012年に入ってからこんなことを告げてきた。

「黒木さんという男から1000万円ほど借り入れている。借金の返済がなかなかできないため、肉体関係を強要されている」

夫婦同然だと思っていた女性が、借金のカタに体を捧げていた……この話に、光俊は「私以外の男との肉体関係があったということで嫉妬心を覚えました」と振り返る。この日から黒木さんのことを「埼玉のエロじじい」と呼ぶようになった奈苗は、光俊にこんなメールを送る。

「黒木には死んでほしい、この世からいなくなってほしい。誰かに殺してもらうか、ミッチーに手を下してもらうしかない」

そして起こったのが、蔵王での強盗殺人未遂事件だった。

――後編は11月13日公開

<参考文献>
・「女性セブン」(小学館) 2013年3月14日号
・「週刊新潮」(新潮社) 2013年3月7日号

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
傍聴人・フリーライター。2005年に傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。著作に『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)など。好きな食べ物は氷。

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