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怒髪天・増子直純「この時代は鋼の心が必要」と語るカオスなアルバムとは

  • 2020.11.8
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【音楽通信】第57回目に登場するのは、“JAPANESE R&E(リズム&演歌)”をテーマにロックを鳴らし、昨年バンド結成35周年を超えた怒髪天のフロントマン・増子直純さん!

写真・北尾渉 取材、文・かわむらあみり

【音楽通信】vol. 57

ザ・ビートルズを弟と一緒にずっと聴いていた

1984年に、ボーカル&ギターの増子直純さんを中心に札幌で結成されたロックバンド、怒髪天。その後メンバーチェンジなどの期間を経て、1988年より増子さんとギターの上原子友康さん、ベースの清水泰次さん、ドラムの坂詰克彦さんという、現在のメンバーで本格的な活動を始めました。

1991年には、アルバム『怒髪天』でメジャーデビュー。“JAPANESE R&E(リズム&演歌)”をテーマに、オリジナルのロックンロールを鳴らし、2019年には結成35周年を迎え、アニバーサリーイヤーを駆け抜けました。

そんな怒髪天が、11月11日にニューアルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』をリリースされるということで、バンドを代表して、増子直純さんにお話をうかがいました。

ーーそもそも増子さんは少年時代、どんな音楽を聴いていらっしゃいましたか。

母親がザ・ビートルズが好きで、家では毎日曲がかかっていたから、弟(ロックバンド・DMBQのボーカル&ギターの増子真二)と一緒にずっと聴いていて。本来はものすごく深いけれど、一聴したときにはポップだしわかりやすい。

あとは歌謡曲かな。われわれは『ザ・ベストテン』(1978〜1989年放送のTBS系列の音楽番組)世代。小学校から観ていたけど、あの頃の歌謡曲って、作詞も作曲も職業作家が本気で作ってるから、日本の音楽の最先端の曲を当時のアイドルで実験してたんだよね。

ーー10年以上前にインタビューさせていただいた際、増子さんが高校を卒業後に自衛隊に入隊されたお話も印象的でした。

地元の北海道にいた高校生の頃、素行が悪くてね。高校もほぼ行ってなかったし、勉強したくないから大学も行きたくないし。パンクバンドやってたから眉毛もないし、髪はモヒカンだし、就職もできるわけない。高校卒業後は、バイトしながらバンドをやろうと思ってたら、おやじに「半年だけ自衛隊で研修すれば、千歳の空港で働きながらバンドもやれるぞ」って。「まじか! さすが親父は俺のこと考えてるな」と思ったけど、だまされたね(笑)。

ーー自衛隊では音楽も聴けないのでしょうか。

そんなことはないよ。ただ、外出できないのと、体力的にきついから音楽を聴く余裕がなくなるというのはあるね。

ーー高校時代に怒髪天を組まれた後、自衛隊に入られて、戻ってきてまたバンドを再開されたんですよね。

そう、自衛隊はすぐにでも辞めたかったけど、未成年だと親のハンコがないと辞められないからね。逃げたら連れ戻されて外出できないし、1か月に1日しかない外出日を取り上げられたらたまらんから、2年弱ぐらいかな。18歳で入隊して、20歳になるまで我慢して、すぐ辞めた。

ーーそれから怒髪天を続け、2019年は結成35周年でしたよね。おめでとうございます。

いえいえ、こんなにバンドをやっているとはね。

ニューアルバムは「かなりカオスな感じ」

ーー2020年11月11日に、ニューアルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』をリリースされます。

今回は、かなりカオスな感じのアルバムだね。2011年の東日本大震災のときから、音楽に対する向き合い方って、俺に限らずみんな変わったと思うのよ。それでいまはコロナ禍。結局、自分がいままでやってきたことが封印されてしまったというか、必殺技といえるライブもできない状態になって。人を集めるためにこれまでやってきたわけで、それができない。

震災のときは被災地を「なんともない俺たちが支える」という気持ちで音楽ができたけど、いまは世界中が閉塞してて、気持ちも重い。じゃあどうするか、こういうときに自分が聴きたいのはなにかなと思って、作ったアルバムだね。

ーー現在のコロナ禍に対してのお気持ちが、歌詞には綴られていますね。

そうね。なんでもそうだけど、あらゆる問題に直面したときに1回俯瞰で見てみる、でっかいスケールで自分を見てみると、解決策が見えてくる。「まあ、なんとかなるか」と思えるようなものを作りたいなと。

言いたいことを伝えるときに、伝えたいことがシリアスであるほど、ユーモアって大事。ユーモアがないと伝わりづらいというか、そのシニカルな笑いがあるのがパンクロックだから。そういう部分も歌詞に入れつつ、聴いて「楽しいな」と思えるものがいまの自分にはほしいかなと思ったんだよね。

ーー収録曲の3曲目「孤独のエール」はとても励まされる楽曲ですし、6曲目「や・め・と・き・な」や8曲目「ヘイ!Mr.ジョーク」といったユーモアのある楽曲もあって、バラエティに富んだ内容になっていますね。

どれもライブを前提とした曲なんだよね。作ったときはライブが出来ないときだったから、ステージでやったら楽しいだろうなという曲を作った。

ーーコロナ禍の最中に生まれたアルバムですが、もともとアルバムは出そうと思われていたんですか。

そうだね。日記と同じで、そのときに思うことを歌詞にしていくんで。「孤独のエール」に関してはずっと思い続けていることをストレートに言えたね。俺は世に蔓延する、がんばれソングを聴いて、よしがんばるぞと思ったことが1回もないからね(笑)。「お前に何がわかるんだよ」と思うから。

だから、自分発信で「がんばれ、俺」なんだよ。人に言われてがんばれるやつは、最初からがんばれるから。自分で自分を鼓舞していくしかない。これはひとつの答えであり、あきらめでもあるよね、自分でやるしかないんだっていう。

ーー「H.M.A.」は、アルバムタイトルの『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』の略なのですか。

そう、この時代ね、鋼の心が必要だから。今後のことも見えない今、世界中に必要なのは、ヘヴィ・メンタル・アティテュードだと思うんだよね。何がきても大丈夫という、鋼の心の精神。それは強い心ということじゃないんだよね。言いたいのは「でかい心」なのよ。強くなくても、俯瞰で見る、人類規模や宇宙規模で自分を見るというか。「まあ、たいしたことねっか」と思える精神力。

いま音楽に何ができるかって考えたら、ほぼ何もできないようなもんだけど、音楽なんてラーメンで言ったらコショウみたいなもんでさ、なくても困らないけどあるといい。人生のなかで、そういうスパイスみたいなもんだから、音楽は。全部ひっくるめて楽しく、楽に考えたほうがいいのになって俺は思うんだよね。

ーージャケット写真は、顔が入っているんですね。

これは4人の顔のコラージュ。むかって右上が俺かな、左がベースのシミ(清水泰次)、鼻がドラムの坂さん(坂詰克彦)かな。口がギターの友康(上原子友康)なんじゃないかな。最初にこのジャケを見たときは、「これは誰?」って笑ったよね。

ーー11月からは全国トークツアーを実施されますし、2021年には東名阪の「新春ツアー」が控えていますね。

12月には京都と長野で恒例ライブ、1月には大阪、名古屋、東京だね。キャパはだいぶ少ないけど、とにかく今はやれる範囲で無理せず楽しみたいね。

「健康で、1日でも長くバンドが続けられるように」

ーー音楽以外の増子さんのご活動ですと、2016年に宮藤官九郎さんが作・演出された、ロックオペラ『サンバイザー兄弟』で、永山瑛太さんとダブル主演で初舞台に立ちましたね。

前からクドカン(宮藤官九郎さん)とは仲良いから、「舞台やるとき出してね、チョイ役で」って言ってたんだけど、ある日「決まりましたー!」と連絡が来て。そしたら「ダブル主演で、もうひとりは瑛太くん」だって聞いて、「ダメだって、ほんとチョイ役でいいんだから」ってすぐ電話したもんね(笑)! 「すげえセリフあるじゃん」って言ったら「大丈夫です」って(笑)。1か月半ぐらい稽古期間があるから、だいたいどんな俳優さんでもできるようになるっていうことで、「絶対だな?」「絶対大丈夫です」というやりとりがあって、じゃあやるかと(笑)。

ーー永山瑛太さんからはお芝居のアドバイスはあったのですか。

いや、何を聞いても「兄貴、全然できてますよ」って言うから「ウソだろ!?」って(笑)。でも、細かいところを聞くと「それはこうやったほうがいいと思います」と返してくれる。たとえば相手としゃべるときに完全に横を向かずに斜めぐらいに体を向ける、目線もどうするかは聞くと教えてくれる。あとやっぱり、一緒に芝居した俳優たちは、びっくりするぐらいセリフを覚えるのが早いね!

最初、本読みで台本を読むんだけど、結局一番最後まで本を持ってるのは俺だった。いまバンドをやっていて、音楽に関してダメ出しされることはほぼない。OKラインは自分のなかにあって、俺という人間を最大増幅させるのがバンドだから。でも舞台は、俺ではなく役になるわけだから「これこうですか?」とやってみて「違う」となると、その加減も難しい。俳優の友達や芝居をやっている人に聞いても、自分のOKラインと作品なり監督のOKラインが違う時が結構あるんだって。役者“あるある”なんだろうね。

舞台は稽古の期間が長いし会話だから、意外と時間が長い作品でも、やりとりがあって覚えやすい。でもドラマは稽古がないから、現場に行って、演出家さんに「こんな感じでお願いします」と言われて、すぐやるからね。たとえば「悠然と階段を降りてください」と言われても、悠然と階段を降りたことないから難しいよね(笑)。

ーー近年では、2019年のNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺〜』、2020年はNEWSの増田貴久さん主演の連続ドラマ『レンタルなんもしない人』(テレビ東京系4〜9月)第1話にゲスト出演されましたね。

すごいんだよ、増田さん。ドラマでは普段ぼんやりした人の役だから、芝居に入るとNEWSじゃなくなくなる。すげえなって。芝居が上手なんだね。

ーーそういえば関ジャニ∞さんや、ももいろクローバーZさんといったアイドルの方に楽曲提供されたこともありました。

楽曲提供っておもしろくて、自分たちが絶対に手が届かないところに、球が届くからね。関ジャニ∞のシングル曲「あおっぱな」(2012年発表)を提供したときに、東京ドームのライブを観に行ったけど、俺たちが作った曲を5万人が歌ってたもんね。本当にうれしかったね。それを観たときに「曲は間違ってないんだな」って。じゃあ演者の問題かって(笑)。

役者仕事に関しては、いまも11月18日から始まる、山口紗弥加さん主演の連続ドラマ『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』(テレビ東京系 深夜0時58分)の収録をしていて。主人公がよく行くバーのマスター役なんだけどね。音楽で怒られることがないから、芝居ではすごく学びが多いよね。ほぼ初心者で入って勉強させてもらうということが多々あるから。

ーーそんなお芝居の経験がまた、音楽に還元されたり?

あるね。やってみて思ったのは、やっぱり、バンドは演じちゃいけない。リアルじゃないとね。そこがすごく大事で、芝居とはまったく真逆。けっこうみんな演じがちで、このバンドのこのキャラクターを演じてるなってわかるとスッと興醒めしちゃうよね。それはエンターテインメントとは別の話だから。

ーー最後に、今後の抱負をお聞かせください。

今年はいろいろあったからね。でも、都なり国のガイドラインのさらに内側を守るくらいの慎重さをもって「やっていいよ」と言われていることはやっていくよ。ツアーも決まってるしね。あとは、何しろ「健康で、1日でも長くバンドが続けられるように」ということのみ!

取材後記

さまざまなアーティストやミュージシャンからも慕われている、増子さんをはじめとする、ロックバンドの怒髪天のみなさん。増子さんの生きざまはそのままロックンロールを体現されていて多くの人たちから支持されるのも納得です! バンド活動はもとより、俳優業などでもご活躍中の増子さんが放つ、怒髪天のニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。

怒髪天 PROFILE

1984年に札幌で結成。増子直純(Vo)、上原子友康(G)、清水泰次(B)、坂詰克彦(Dr)からなる4人組ロックバンド。 “JAPANESE R&E(リズム&演歌)”を旗印に、オリジナルのロックンロールを鳴らす。
2014年1月、日本武道館ワンマン公演を敢行し、満員御礼におさめる。
2019年、バンド結成35周年を迎え、ミュージシャン、演歌歌手、俳優など怒髪天と親交のある総勢220名が参加した怒髪天トリビュート『オトナノススメ〜35th 愛されSP〜』をリリース。アニバーサリーイヤーを駆け抜けた。

2020年、11月11日にニューアルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』をリリース。11月7日から29日まで「怒髪天 爆音上映会&トークTOUR 2020 “4人いてライブせんのか~い!”」を実施。12月11日、「ライブ&ドキュメント 怒髪天 必要至急特別公演キャプテン野音2020 〜1/2の神話(キャパ)〜」DVD発売。
2021年、1月9日に大阪BIG CAT、 1月10日に名古屋ボトムライン、 1月17日に東京神田明神ホールと、新春ツアーを開催する。

Information

New Release
『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』

(収録曲)
01. SADAMETIC 20/20
02. 駄反抗王
03. 孤独のエール
04. ポポポ!
05. スキモノマニア
06. や・め・と・き・な
07. 憎まれっ子のブーガルー
08. ヘイ!Mr.ジョーク
09. タイムリッチマン
10. H.M.A.

2020年11月11日発売

(通常盤)
TECI-1709(CD)
¥3,000(税別)

(初回限定盤)
TECI-1708(CD+DVD)
¥4,000(税別)

[DVD内容]
2020年7月26日に京都磔磔で行われた配信ライブ「怒髪天 delivery 響都ノ宴“カラダ立ち入り禁止。第一回、タマシイ限定ライブ。カモン!俺達界隈(魂のみ)。”」のライブ映像全曲分を再編集して収録。
(DVD収録曲)
01. 酒燃料爆進曲 02. 欠けたパーツの唄 03. HONKAI 04. セイノワ 05. ポポポ! 06. ロクでナシ 07. 北風に吠えろ! 08. せかいをてきに… 09. GREAT NUMBER 10. NINKYO-BEAT 11. スキモノマニア 12. シン・ジダイ 13. クソったれのテーマ 14. ド真ん中節 15. 孤独のエール 16. 喰うために働いて生きるために唄え! 17. 歩きつづけるかぎり 18. オトナノススメ 19. 雪割り桜

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