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白石麻衣、卒業 アイドルの可能性示し、メンバーの関係性築いた軌跡

  • 2020.10.31
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白石麻衣さん(2019年3月、時事通信フォト)
白石麻衣さん(2019年3月、時事通信フォト)

乃木坂46のメンバーとして活躍してきた白石麻衣さんが10月28日に行われた配信ライブ「NOGIZAKA46 Mai Shiraishi Graduation Concert ~Always beside you~」をもって、グループから卒業しました。

今年1月に卒業を発表していた白石さんは本来、5月に東京ドームで開催されるはずだったライブで、乃木坂46のメンバーとしての活動を終える予定でした。その後、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて卒業ライブは中止、正式にグループを離れるタイミングもいったん延期されていました。

当初の卒業予定時期からここまでの半年ほど、白石さんはグループ在籍と卒業の中間的な立ち位置となり、乃木坂46全体の活動への参加はごく限定的でした。とはいえ、結果として、このペンディングの期間はグループにとって、白石さんがいかなる存在であったのかをゆっくりと確認する時間にもなっていたように思います。

「アイドルであること」の可能性示す

改めて振り返れば、白石さんは乃木坂46メンバーの個人活動において先頭に立ち、特にファッション分野でグループの顔として立ち回ってきた人でした。

白石さんが今年1月に卒業を発表した折の記事「乃木坂46卒業へ “絶対エース”白石麻衣が切り開いた境地、後進に示した道標」(「オトナンサー」1月12日配信)でも言及しましたが、乃木坂46が世の中に浸透していくための最も“外向き”のアイコンとしての立場を背負ってきたのが白石さんです。

その見かけ上のポピュラーさとは裏腹に、あるいはポピュラーであるがゆえに、著名アイドルグループのメンバーが他分野で継続的に活動し、受け入れられることは容易ではありません。偏見を持たれ、拒絶反応を受けることも少なくない中で、白石さんは長い時間をかけてファッションアイコンとしての足場を築き、やがて、乃木坂46全体がファッションと親和性の高いグループとして認知されていくための開拓者となりました。

それは、アイドルというジャンルの活動を通じて個人がいかなる道を開くことができるのか、後進の人々に向けて体現する姿でもありました。キャリア総体を通して「アイドルであること」の可能性を示してみせたことそのものが、白石さんの重要な表現活動の一つだったといえるでしょう。

このように、アイドルという立場から“外向き”に発信する旗手であった一方、今年初めの卒業発表から先日の卒業ライブまでの期間に、特に刻みつけられたのはグループの“内側”への貢献、すなわち、共同体のメンバー同士が互いに慕い、尊重し合う上で起点となる存在としての白石さんの姿でした。

コロナ禍で発せられたメンバーの言葉

白石さん卒業のはなむけとなる乃木坂46の25枚目シングル「しあわせの保護色」がリリースされたのは、新型コロナウイルスの感染拡大と前後する時期のこと。各種エンターテインメントが大幅に縮小する中、乃木坂46も白石さん卒業という一大転機が保留となります。そのため、白石さんはすでにグループ全体の活動からは、やや距離を置いてはいたものの“乃木坂46の白石麻衣”としての最後の日々は延長されていくことになりました。

この間、作品制作やライブイベントなど通常のアウトプットが例年に比べて滞る中、乃木坂46メンバーたちが、白石さんへの思いを各種マスメディアやSNSなどで紡いでいくための時間はむしろ多くなり、さまざまなメンバーから豊かに言葉が発せられていきました。

また、今年5月、乃木坂46はウイルス感染拡大防止の呼びかけと医療従事者への感謝を伝える楽曲「世界中の隣人よ」を発表します。普遍的なメッセージが楽曲に託されることも近年の乃木坂46にうかがえる傾向ですが、歌唱メンバーに目を向けると、同作には現役メンバー全員のほか、すでにそれぞれの道を歩む多くの卒業メンバーが参加しています。

正式な卒業を待つ白石さんはこのとき、いわば、その両者の中間的な立場として参加することになります。乃木坂46が結成以来育んできた共同体の絆が最も色濃く表れた作品で、図らずも卒業メンバーと現役メンバーをゆるやかにつなぐ存在として、楽曲の歌い出しを担当したことも印象的でした。

卒業、その先にある新たなキャリアへ

そして、先日、10月28日の卒業ライブでも目を引いたのは、主役である白石さんの存在のみを強調するのではなく、メンバーとの慈しみ合いを引き立てるようなライブ運びやグループ全体の振る舞いでした。

生田絵梨花さんや松村沙友理さんをはじめとする、結成以来の同志である1期メンバーから、グループの未来を担う4期メンバーまで、白石さんはそれぞれと肩を並べてパフォーマンスする瞬間をつくり、乃木坂46という場をめでるような時間をつくっていました。

多人数グループにおいては、メンバー間の関係性がさまざまにファンに受容され、それ自体が大きなコンテンツにもなっています。こうした関係性のアウトプットは時に、他者への思慕の感情が決してシンプルではなく、また、恋愛や友情などよくある簡潔な言葉だけに還元できない、複雑かつ雄弁なものであることを受け手に伝えます。

乃木坂46の場合、2019年のドキュメンタリー映画「いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46」でも顕著だったように、とりわけ、互いへの愛着を静かに確認し合うような繊細な関わり合いや思慕の感情が、グループ全体の営みを通じて表現されてきました。白石さんの卒業ライブはその意味で、まさに乃木坂46という共同体が持つ基調を存分に発信するものだったといえます。

個々人のキャリアへの道を開くための“外向き”のアイコンとして、そして、メンバー間の慈しみ合いの起点として。白石麻衣とは、その双方で大きな役割を果たし続けてきた人でした。

そして、ここから先に個人として描いていくキャリアもまた、本人にとって重要な歩みであると同時に、後進のメンバーたちの道を照らすものになっていくはずです。

ライター 香月孝史

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