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人事は気づいてない! 入社半年で「優秀な日本女性たち」の昇進意欲を大きく削ぐ4つの要因

  • 2020.10.23
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「女性は管理職になりたがらない」という話は飽きるほど聞かれます。しかし、最初からそうだったわけではなく、入社時は半数以上の女性が「管理職になりたい」と答えているのです。入社後、その気持ちが減退していく理由はどこにあるのでしょうか。

ビジネスウーマン
※写真はイメージです(写真=iStock.com/byryo)
たった半年で「管理職になりたい気持ち」がなえる

「すべての女性が輝く社会づくり」を推進している政府。「輝く女性」には当然「仕事で活躍する女性」も含まれているはずですが、日本生産性本部が新入社員教育プログラムの参加者を対象にアンケートをとったところ「管理職になりたい」と答えた女性社員は53.5%。男性より低いものの、半数を超える女性がなりたいと答えています。逆にそう思わないと答えた女性は46.5%でした。

ところが女性社員が入社してから「半年後」に同様の調査をしたところ「管理職になりたい」と答えた女性は27.0%に減っており、「管理職になりたくない」と答えた女性社員は73.0%に増えていたのです。この数字からは、当初は「管理職になりたい」と考えていた女性が、仕事の現場に身を置く中で心境に変化があったことがうかがえます。なぜ日本では働く女性が管理職になることを望まない傾向があるのでしょうか。海外の事情とも比べながらこの問題を考えてみたいと思います。

「家庭をもつ管理職」のロールモデルがいない問題

なぜ多くの女性が管理職になりたがらないのかという問題を考える時に、原因についていろいろと難しいことを考えがちですが、メディアでも現実の世界でも「女性の指針となるような女性のロールモデルがいないから」というのも一つの要因としてあるのではないでしょうか。

筆者は日本の映画では「おくりびと」、日本の連続ドラマだと「半沢直樹」や「白い巨塔」が好きですが、どの作品にも「仕事でトップまで登り詰めながら、幸せな家庭も築いている」女性は出てきません。「働いて上まで登り詰める人」は全員が男性であり、主役ももちろん男性です。女性はというと「かわいい妻」や「クラブのママ」「愛人」の役で登場することが多いのです。

舞台となっている「銀行員や医者の世界」は男性社会ですから、ドラマに男性が多く出てくるのは自然だといえる一方で、視聴者の中には女の子もいるでしょうから、彼女たちへの影響が心配です。BLM運動でもよく言われていることですが、映画やドラマで活躍するヒーローや主役が白人ばかりだと、黒人の子どもは自分に自信を持ちにくくなります。日本の場合、これを女性に置き換えると同じことが言えると思います。葛藤しながらも仕事に邁進し組織の上のほうへと登り詰めるのが男性ばかりなので、そういった作品を見た女児は、主人公を自分と重ね合わせて考えることがむずかしいのではないでしょうか。

欧米の作品も全体を見るとジェンダー面の偏りが見られるものの、約20年前の『アリー my Love』のように「働く女性」を前面に押し出している作品も多く見られます。

日本では、これが画面越しやスクリーン越しだけの問題ではなく、現実の世界でも「長期にわたり仕事で活躍し家庭も築いている女性」が身近にいることはそう多くありません。新入社員が職場のそんな状況を見て、何かを感じ取り、半年で「管理職になりたい気持ち」が減退してもおかしくないでしょう。

一方、ドイツだと家族や親戚など身内に「家庭を築きながら出世している女性」がいることは珍しくありませんし、テレビをつければ国のトップだって女性(メルケル首相)です。

「男性が家庭を養う」という価値観が強すぎる

近年ヨーロッパでは女性の駐在員が増えています。企業で女性の出世が増えたことに伴い、海外に数年間駐在する女性の数も増えたというわけです。駐在の良いところは今さら言うまでもないかもしれませんが、現地の家賃や子どもの学費などが会社からカバーされることが多いということ、また外国にいるということでさまざまな手当てが出るため、母国で働いている時よりも経済的に余裕があることです。外国の文化に触れることができるのも貴重です。

日本に駐在する欧米人女性がよく聞かれる質問があります。それは日本人からの「ご結婚はされているのですか?」という質問。そして答えがイエスの場合は驚きの声があがることが少なくありません。

日本に駐在している既婚の欧米人女性のなかには子どもがいる人もいますが、配偶者の男性がいわば専業主夫となり子どもの面倒を見ている場合もあります。これも日本では驚きの対象であることが少なくありません。それが仲良さそうな夫婦であっても、日本ではこういったスタイルをうらやましがる女性があまりいないことを個人的には残念に思います。

筆者は「妻が仕事できるように応援し家事や育児に積極的な旦那さん」のいる家庭は単純に「いいな」と思うのですが、日本では「男性が女性や子どもを食べさせるべき」との考えが根強いためか、そういった夫婦はいわゆる憧れの対象にはならないようなのです。でも最後まで「男性が家庭を養うこと」にこだわっていては、女性に活躍のチャンスが来てもうまく波にのれないのではないでしょうか。

実はパートより管理職のほうが、自由がきく

女性が管理職になりたくない理由として「重い責任のある仕事は避けたい」「自分の自由な時間を持ちたい」などの声が多く聞かれます。「子どものことを考えるとパートのほうが時間の融通がきく」ということもよく聞くのです。しかし日本の場合、ヨーロッパと違い、パートなのに休みがとりにくい職場も少なくありません。パートにもかかわらず「責任」という名のもと仕事量が正社員並みに多い職場もあります。しかしパートは正社員と違い簡単に首を切られる可能性があることを考えると、果たしてどこまで「パートが自由」なのか微妙なところです。

パートではない一般職の正社員にしても、一般職である以上、出世は望めません。事務職はいくらでも「代わりがきく」のが現実です。「上のほうにいくと責任も重い」「それよりも責任が重くない仕事のほうが自由でいい」という発言を聞くことがありますが、ヨーロッパと日本で合計44年間生きてきて周りにいる女性を観察していて思うことは、「女性なら、仕事上、なるべく上のほうのポジションを目指したほうが、自由がきく」ということです。

経営陣や上のほうのポジションになってしまえば、出勤時間や退出時間など自由に調整できる場面も出てきます。逆にパートや一般職の仕事の場合、出社時間や退社時間にフレキシビリティーはありません。子どもを持つのだったら、むしろ「上」を目指したほうが時間のことも含め子育てはしやすい場合もあります。

女性は子育てを考えて「仕事上、小さく収まればよい」と考えがちです。でも女性が「決済のできる立場」になれば、ある意味「こっちのもん」です。組織の上にいけば、自分が会社で「何かを変える」ができます。言葉は悪いですが、下っ端のまま会社の悪口を言っていても会社は変わらないのです。筆者ももっと早くこのようなことを自覚していたら、今頃企業の経営陣になり子どももいたかもしれません(笑)。

「転勤」が女性活躍の足を引っ張っている

女性になぜ管理職になりたくないのかを聞いてみると、「やっぱり地元にいたいから」という答えが返ってくることもあります。これはとても日本的です。何が日本的かって一般職と総合職があるのも日本的ですが、出世が可能な総合職には「転勤」というものがつきもの(断ると出世コースから外されてしまうことも)なのが日本的なのです。

筆者の母国ドイツに転勤がないわけではありませんが、制度として社員の意思を確認することなく会社が社員に転勤を命令することはできません。ドイツでは女性だけでなく男性も地元を離れたくない人が多く、また家族を大事にする人も多いため、会社が一方的に転勤の命令を出すことはできないわけです。

日本の転勤のシステムは「専業主婦の妻がいること」を前提に作られたものです。昭和の時代の転勤は「そもそも転勤させる人」に「女性」は含まれておらず、あくまでも男性が対象でした。男性社員が転勤となったら、専業主婦である妻が転勤先についていき、独身の場合は転勤をきっかけに結婚するケースも多く見られました。

昭和の時代、妻がついていくことなく男性が単身赴任をする場合、それは「子どもの受験」などの理由によるものでした。

政府による女性活躍がうたわれる今も、一部の会社をのぞき日本の会社の転勤制度はなくなっていません。でも専業主婦が少なくなり、仕事を持つ既婚女性が増えた今の時代は「夫が転勤になり女性がついていこうとすると、それは女性が仕事を辞めること」につながってしまい、これではキャリアは望めません。

企業や組織でキャリアを積み出世するには日本では「転勤」の二文字がついてまわることがどうしても多いのです。そのため「ヘタに出世して自分が転勤になるのは嫌」と考える女性もいれば、「夫がいつ転勤になるか分からないから、その時に自分がついていけるために仕事は『そこそこ』にしておこう」と考える女性もいます。いずれにしても女性が仕事に対して消極的な思考になってしまう時点で、転勤制度は今の時代にそぐわないといえるでしょう。

女性活躍を考える時、「女性の気の持ちよう」にスポットを当てるだけではなく、足かせやネックになっているものをどんどんなくしていくことも大事なのではないでしょうか。

写真=iStock.com

サンドラ・ヘフェリン
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)など。

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