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旅する気分で巡る、日本酒好きの酒蔵探訪記。

  • 2020.10.22
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フィガロジャポン12月号では、いま気になる日本酒を特集!これに連動してmadameFIGARO.jpでは、外資系化粧品会社PRを経て、酒蔵巡りをライフワークにする藤本教子さんによる酒造探訪記を特集の番外編としてご紹介。おつまみと日本酒片手に、本誌と合わせてどうぞ。

苦手だった日本酒にハマり始めたのは焼酎ブームの頃。種類は違えど、米・麹・酵母・水と同じ原料で造っているのになぜこうも味が違うのか?ということに興味を持ち始め、毎年蔵見学に行くようになって、はや四半世紀。日本酒は分かりにくい!という声も多いが、ここではスタンダード、マニア好き、プレミアムの3つの蔵をご紹介したい。

一日中楽しめる、自然豊かな魚沼の里へ。

八海醸造

新潟県

 

まずは本誌でも紹介している、スタンダード代表の八海山。誰でも聞いたことがある、この新潟のビッグネームの歴史は意外と新しく、大正11年創業。たった3代で大規模な蔵に成長させる手腕にも興味があり、訪れた。

まずは体育館のように大きな第二浩和蔵で、蔵人さんがお酒の造りを説明。「メーカーには供給責任がある」と、消費者が手に入れやすい体勢を整えていることが八海山の成功の秘訣だと感じた。おいしくていつでも手に入れやすければ、たしかに飲み手としては言うことなし!

魚沼の里に立つ、第二浩和蔵。

蔵は現在コロナウイルス感染症対策のためしばらく見学不可だが、通常であれば事前web予約制で公開をしている。冬の造りの時期はガラス越しに見学することも可能。造りの順番に合わせて3階から2階へと工程を踏んでいき、1階から貯蔵タンクへと導線が整っている。

素敵な試飲スペースもあり。日本酒から焼酎まで試飲可能。

ここではお酒の造りだけではなく、魚沼の文化に触れることができる施設も充実している。たとえば雪室。2000石分を貯蔵できるという巨大スペース。圧倒されること間違いなし!一見の価値ありだ。(当日予約制)

雪室とは、冬に降り積もった雪を室内に蓄えて冷蔵庫状態にした倉庫のこと。 蓄えた雪は一年を通じて室温を低温に保ち、 夏でも4度ほど。 3~10年の長期熟成の試験も行っているそう。

そのほかにも、蔵書を3,000冊も備えた資料館でゆっくり時間を過ごしたり、春から秋までのシーズンは、庭を散策するのも楽しい。

お腹が空けば、そば屋 長森や、カフェ、アンドフォレストへ行ってもいいし、お土産を買いに、バームクーヘンのおいしい菓子処さとやや、さとやベーカリーに立ち寄ってもいい。たくさんの施設を擁する「魚沼の里」は、1日いても飽きない。

八海山みんなの社員食堂では、社員と同じ空間で魚沼産コシヒカリを始め、地元食材で作られた定食などがいただける。

清酒八海山を核としつつ、日本酒以外の製品やサービスを充実させてメーカーであるための努力を続ける。そして何より地元を大切にし、魚沼の文化を継承していこうという心意気に人々の賛同が集まるのだなと感じた蔵見学であった。アフターコロナのプチ旅行にぜひ。

八海醸造「魚沼の里」新潟県南魚沼市長森426-1tel : 0800-800-3865https://www.uonuma-no-sato.jp※コロナウイルス感染症対策のため、当面の間、蔵見学を中止しています。見学再開の日程が決まり次第、公式ホームページで掲載予定。

 

見学ではなく勉強⁉ プロのための学び舎。

川西屋酒造店

神奈川県

次にご案内するのが、マニアが多い川西屋酒造店。

和食に合う食中酒を追求するため、純米酒のみを造っている。料理の繊細な出汁の旨味を損なわない、柔らかくまろやかな味が特徴だ。特にお燗にするとその味わいがいっそう強調され、酒質は丸みを帯び、飲み飽きない。

神奈川県足柄、丹沢山の麓にある19代続く老舗の酒蔵。

東京の新宿駅から1時間あまり、小田急線新松田駅で降りてタクシーに乗るや、運転手さんから「米山工場長のところ?楽しい1日になりそうだね!」と声を掛けられる。米山工場長は20年前に酒屋から蔵人に転身し、酒造りを熟知しながら、お酒の特性やおいしい飲み方を指導してくれる稀有な人。特にお燗についての知識やアイデアが豊富で、希望に応じて“勉強会”を実施している。

そう、ここの蔵は“見学”ではなく“勉強会”というスタイルをとっている。基本的に一般の見学客は受け付けておらず、酒販店や特約店からの紹介制。酒販店、飲食店、日本酒愛好家が酒造りから楽しみ方までを勉強しに来る。店の料理メニューを持ち込んでペアリングの相談をする飲食店店主もいるほど、プロからも絶大な信頼を得ている。

勉強部屋、またの名をしごき部屋(笑)にて米山繁仁工場長と。プロをも唸らせる絶妙な日本酒の楽しみ方と豊富なアイデアを楽しく教えてくれる。この日はリーデルの日本酒専用のグラスとハリオの丸底フラスコを使ったおいしい飲み方の技を披露してくれた。

地元では、農家支援と日本の田園風景を残したい、という目的で35年前から「若水」という酒米の育成に励んでいる。コロナウイルスの影響で、今年は米のオーダーを控えたいところだが、なんとか支えていくという心意気だ。

たわわに実る酒米「若水」。粒がもろく溶けやすく、造り手泣かせ。苦労してできたお酒は、柑橘系の香りと独特の苦味があり、食中酒に最適。雄町ファンの雄町ストにもすすめたい♡

お燗に最適な丹沢山シリーズ、左の「秀峰」はどんな和食にもマッチ。左から2番目の「麗峰」は、ブルゴーニュの赤のようなしっとりとした味わい。スペイン料理や中華料理にもよく合う。右ふたつは、川西屋ならではの地元で取れた酒米「若水」を使用。

お酒を(ますます)飲んで、日本の文化や田園風景を守ろう! と心に誓った訪問であった。

川西屋酒造店神奈川県足柄郡山北町山北250tel : 0465-75-0009https://kawanishiya.wixsite.com/kawanishiya

 

名店で引っ張りだこ! 美味の秘密を分析。

磯自慢酒造

静岡県

最後はプレミアム代表として、静岡県焼津市の磯自慢酒造をご紹介する。日本酒が初めての方や苦手な方も日本酒通の方やプロ飲み手の方も誰もが「おいしい」そして「スゴい」と思ってしまうお酒。

私自身、苦手な日本酒が飲めるようになったのは磯自慢との出合いがあったから。それから日本酒沼にハマるにつれて色々なおいしさに目覚める中、ますます磯自慢の虜になっている。海外の知人たちにも大好評で、日本のよさを代弁してくれるCool Japan親善大使だ。残念ながら蔵は一般非公開だが、ぜひこのおいしさの秘密を共有したい。

目を引くボトルとラベルの美しさ。蔵元自らのデザインがひとつひとつのお酒の世界観を表現している。左から二番目のボトルにある八角形のロゴは今年発表の新デザイン。綺麗に洗米された白米の結晶が美しく水面に浮かぶ様子を表現。

ほのかな香りとともにスタートするフルーティな柔らかい喉越しは、スッとキレのよい後味で爽やかにランディングする。毎回、初めまして感の強いフレッシュな印象は、この爽やかなエンディングがもたらす好効果かもしれない。単体でもおいしいし、和食やイタリアンなど、魚介や野菜を中心とした料理の食中酒としても最適で、さまざまな名店でいろんな形のマリアージュに出合う。

プロも初心者もどハマりする唯一無二の美しい味の秘密を知りたいと、2011年からほぼ毎年お蔵に伺い、そこで得た知識をもとに私なりに分析してみた。

その1厳選した原材料

地元に愛されるレギュラー、本醸造以外すべてのお酒は、ザ・キング・オブ・キング酒米、兵庫県東条町の山田錦特Aクラスの新米のみを使っている。そしてピュアで柔らかな大井川系伏流水の軟水を使用している。

その2徹底した清潔感

洗米も搾り機の洗浄も、いつも徹底しているのでピカピカで清潔。蔵の中の壁や天井はオールステンレスで菌を寄せつけず、温度管理も抜群。透明感のある味の秘密は、徹底した衛生管理にあるとみた。

その3手を掛けた造り

酒造りの要である麹造りは通常50時間だが、こちらはなんと70時間! そんな長時間の麹造り、ほかでは聞いたことがない……。時間をかけた丁寧な麹造りは、静岡酵母HD1の特性を引き出すための工夫だそう。南部杜氏多田さんのもと、蔵人12人は抜群のチームワークで(ダジャレも醸しながら……)ハードワークを乗り切っている。

仕込み蔵は、芸能人御用達の都内撮影スタジオかと思うほどモダンでまばゆく輝いている。

 

専務の寺岡智之さん。180㎝を越す身長に、長い手足のモデル体型で颯爽と作業服を着こなす(ので私服に見える……) 。

専務の寺岡智之さんは、「よりよい酒を醸せるような環境づくりをしたい。蔵人のモチベーションを引き出せるよう余裕を持って取り組みたい」と意欲満々で酒造りに挑む。

いままでの成功体験を糧にしつつも捉われずに、酒造りの現場を体験しているからこその気づきを経営視点に変換できるあたりが、今後どのような形で表現されていくのかとても楽しみである。

磯自慢酒造静岡県焼津市鰯ヶ島307tel : 054-628-2204www.isojiman-sake.jp※蔵は通常非公開

 

以上3つの蔵探訪記、いかがでしたか?願わくばぜひ彼らのお酒を試して頂けたら幸いです。

藤本教子Noriko Fujimotoフランスの化粧品ブランドでPRやコミュニケーションを25年間担当し、現在はフリーで活動。シャンパーニュ&ワイン好きから、日本酒好きに。SSI認定国際唎酒師。

 

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