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ポーラ初の女性社長が語る、女性が自然に昇進していける分岐点はどこにあるか

  • 2020.10.21
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他社に先駆けて女性活躍を進め、現在も役員、管理職ともに高い女性比率を維持しているポーラ。女性のキャリアアップには何が必要なのか、今の日本企業には何が足りないのか──。社長の及川美紀さんに、ポーラの取り組みや今後の課題を聞いた。

女性には壁を壊す力がある

【白河】ポーラでは、女性活躍推進法が施行される前に、すでに女性管理職比率約30%という数値を達成されていました。なぜ、これほど早くから女性が活躍できたのでしょうか。

【及川】トップの意思がはっきりしていたことが大きかったと思っています。私がまだ一般社員だった頃から女性活躍を打ち出しており、それを明確なメッセージとして発信していました。女性には壁を壊す力がある、だから男性は壊れた壁を片付けるために、ほうきとちりとりを持って付いていけばいいのだと。

及川美紀さん

私はこの言葉を、企業は女性の突破力と男性の構築力があってこそ成長するのだという意味で受け止めました。男女双方が力を合わせることに意義がある──。そこに気づかされたことを、今も鮮烈に覚えています。

【白河】トップの思いが、早くから社内に浸透していたのですね。現在は、女性管理職を増やすために工夫されていることはありますか?

【及川】女性管理職が2割を超えた頃から、特別な工夫はいらなくなりました。女性課長の存在が当たり前になると、周囲が性別ではなく30代課長の一人として見るようになるんですね。そうなると、同じ女性でもマネジメントスタイルは人によって多様だと明らかにわかってきますから、特徴も「女性」ではなく「こういうタイプの課長」という表現になってきます。多様なロールモデルがいるおかげで、後に続く女性たちもキャリアアップへの抵抗感はあまりないようです。

ポーラにもある「思いやりバイアス」とは

【白河】一般的に、女性の存在が当たり前になる分岐点は3割と言われていますが、2割でもそうなるんですね。ただ、他の企業では、トップが号令をかけても女性がなかなか役職まで上がってこないという現状があるようです。ポーラでは、役職候補リストなどに女性が入っていなかったら、入れるように声かけをされるのでしょうか。

【及川】もちろんです。当社でも、男性上司が「あの女性は育児中で大変だろうから」といった、まったく悪気のない“思いやりバイアス”で女性をリストから外してしまうケースがあります。そんな時は、周囲が「このリスト、男性しかいないけどおかしくない?」と声かけをしていますね。やはり、残業できる人や転勤をいとわない人からリストアップしていく慣習がまだまだ根強いのかなと思います。

【白河】ポーラでも、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)にまつわる課題があるのですね。

【及川】私も以前、ある部長に「うちの部署に男性を1人異動させてほしい」と相談されたことがあります。どんなスキルを持った人がいいのか聞いたところ、それにぴったり当てはまる女性がいたんですね。彼女を紹介したらとても感謝されたのですが、「でも確か男性がほしいって言ってましたよね」と言ったら、自分のバイアスにハッと気づいたみたいで(笑)。必要なスキルが備わっていれば性別は関係ないはずなのですが、これは幼い頃から育まれた思考のクセみたいなものですから、やはり時間をかけて修正に取り組んでいかなければいけないなと思いました。

【白河】トップがそうした意識をお持ちなのはすばらしいですね。

【及川】ただ、こうしたことはトップの意志だけではうまくいきません。ダイバーシティを日常化するためには、トップやマネジメントクラスそれぞれで気づきのフェーズが必要になってきます。女性管理職の数も目標数値はクリアしていますが、そこに安住してしまうと、いずれ伸びが鈍化するでしょう。トップも社員も、全員が常にダイバーシティを意識しておくことが大事だと思います。

「抜擢人事」で女性に清水ジャンプさせてみる

【白河】女性管理職をさらに増やすために、制度化している事柄はありますか? 他社でも導入できそうな制度があったら教えてください。

【及川】当社では「抜擢人事」を制度化しています。これは、昇進試験の合否にかかわらず、能力のある人をトップダウンで昇進させるものです。女性は男性に比べてライフイベントがネックになることも多いですし、清水の舞台から飛び降りる“清水ジャンプ”も苦手な傾向がありますから、会社が「まずはやってみなはれ」と背中を押すのです(笑)。

責任はこっちが持つからとりあえずやってみて、それでダメなら元のポジションに戻ればいいと。初期の女性課長は、この制度で着任した人がほとんどです。早ければ30代前半で、もちろん女性だけでなく男性も抜擢してきました。

会議のほとんどがオンラインに。
会議のほとんどがオンラインに。

【白河】女性の場合、会社の“背中押し”が必要なのはよくわかります。実際、経営トップの方から「女性に役職を打診してもなりたくないと言われる」という声を聞くことがよくあります。

【及川】それは女性にやる気がないわけではなくて、自分が役職になった姿をイメージできないだけだと思います。また、家庭や育児など、何かを犠牲にしてまで頑張りたくないという思いもあるでしょう。私生活をかなぐり捨てて仕事を頑張っている先輩を見たら、「私は彼女みたいになれない」とあきらめてしまうはず。「なりたくない」じゃなくて「なれない」と思うわけです。日本には、いまだに夕飯は母親がつくるものという風潮もありますから、そのせいで両立に苦しむ女性も少なくありません。

でも、今は多様性の時代です。仕事や家庭への姿勢は人それぞれでいい。女性社員には「私にはできない」と思い込まず、まずはやってから折り合いをつけてみたらと伝えています。ちなみに当社では、この抜擢人事で昇進した後、疲労困憊して降格を希望した人はいません。

社員の10%が産休・育休中

【白河】女性は真面目な傾向がありますから、完璧な管理職にならなければと思い込みがちですよね。そうじゃなくて多様でいいと。ただ、産休や育休、その後の時短勤務などを選択する女性が増えると、トップとしては経営負担も気になってきませんか?

【及川】本社では今、社員の10%程度が産休・育休中です。時短勤務の人も少なくありませんが、もともとフレックス制を導入しているので、それほど大きなひずみは起きていません。百貨店の販売職には、欠員が出たらすぐ駆けつけてくれるサポート人員がいますし、本社でも人事部が産休・育休後の働き方について丁寧にアドバイスし、時短勤務からの復帰を後押ししています。

夫が妻のキャリアを支えるのは当たり前

【白河】もともと働き方が柔軟で、代替要員もしっかり確保されているのですね。女性活躍を推進するには、その辺りが大きなポイントになりそうですね。

【及川】特にフレックスや在宅勤務は必須だと思います。在宅勤務は、当社では一昨年から整備を始め、コロナ禍をきっかけに全面的に導入しました。私自身、育児中にいちばんムダだと思っていたのが通勤時間なんですよ(笑)。働き方がさらに柔軟になり、ママワーカーがより活躍しやすい環境が整ったと思っています。今後も、本人たちが自分で働き方をデザインできる環境、「こう働きたい」と声に出せる環境をつくっていくつもりです。

【白河】男性の育休についてはどうお考えでしょうか。男性の働き方を変えてでも女性活躍を進めようというお気持ちはありますか?

【及川】男性の働き方を変えるというよりも、社会人として、また家族として、夫が妻のキャリアを支えるのは当然のことです。「子どもが生まれたら働き方を変えるのは女性のほう」という前提自体に違和感を覚えますね。男性育休については、他の経営者の方々から「うちの男性社員を他社の妻のために休ませるなんておかしい」という意見も聞きます。私としては、なぜそれが跳ね返って自社の女性社員のためになると考えないのか、本当に不思議です。

社員は全員が埋蔵金

【白河】おっしゃるとおりですね。女性社員たちの活躍は、経営にも力を与えていますか?

【及川】もちろんです。私にとって、経営の最大の課題は「社員の力をいかに最大化するか」です。社長という立場になってみて、会社の成長は私一人の力では果たせないのだと痛感しました。現場で働く全員に、どれだけ内発的動機で活躍してもらえるかが重要なのです。その意味では、社員は全員が埋蔵金。宝の持ち腐れにならないよう、しっかり力を引き出していくのが私の務めだと思っています。

【白河】社員の力の最大化のために、ほかにどんな変革をお考えでしょうか。

【及川】内発的動機を高めてもらうため、ポーラがSDGsにどう取り組むか、どう社会に貢献していくかを社内に発信するとともに、役員と社員の「対話の会」を始めました。また、コロナ禍をきっかけに現場への権限移譲を進め、今では現場発のアイデアをスピーディーに実現できる環境が整いつつあります。アンコンシャスバイアスの撤廃にも引き続き取り組み、ポーラのダイバーシティについて社内で議論を深めていくつもりです。

【白河】社員の活躍やダイバーシティに対して、強い思いをお持ちなのですね。人は「女性」「管理職」といったステレオタイプな枠組みに押し込められると、本来の力を発揮できないと言われています。及川さんのお話からは、そうした枠組みを変えていくんだという覚悟を感じました。どうもありがとうございました。

構成=辻村洋子

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