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“クラフト”の街、浅草橋。古民家カフェ「葉もれ日」で感じる“街”の魅力

  • 2020.10.20
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古くから玩具や人形などの問屋街として発展した浅草橋。近年ではハンドメイドブームを受けてかビーズやアクセサリーパーツなどの手芸用品を扱う店が増え、ハンドメイド好きの聖地として知られている。ここ1、2年はそのクラフトブームが食や飲料の分野にまで拡張し、知られざるグルメエリアとしても徐々に注目を集めている。路地裏には昔ながらの下町らしさもあり、東京のなかにもこんな場所があるんだと不思議な気持ちにさせてくれる街だ。

カフェ葉もれ日があるのは、小学校の目の前というまさに“生活のど真ん中”。しかし入り口のガラス扉の先に待っているのは、現代の日常とは一線を画した古い蔵を思わせる情緒ある空間だ。古い素材を使いながらも、スタイリッシュなデザインが目を引く。天井は高く抜かれ、築70年という月日の流れを色濃く映し出した年季の入った木材が四方を囲んでいる。以前は酒屋だったというその壁には、棚板がはめ込まれていた跡がところどころに残り、色づきの差がまた時代の経過を感じさせる。

実に聞き心地が良い葉もれ日という店名は、葉と葉の間から光や風が通る光景を表した言葉だ。
「欄間(らんま)ってご存知ですか? 古くから日本の建築に取り入れられているもので、遮光や通風、装飾のために、天井と鴨居との間に設けられる工芸品です。組子欄間に葉の模様がよく使われるので、そこから名付けました」そう話すのは、店主の山口斗夢(やまぐち とむ)さん。

葉もれ日は、山口さんが親族から継いだ欄間づくりの発信源として始めた。コーヒーの焙煎を手がける仲間がいたことや、安定していい生豆を仕入れるルートがあったことからカフェという形にしたという。「以前の事務所が清澄白河にあったので、コーヒーカルチャーが根付くその近辺でも良かったのですが、欄間を扱うちょっと特殊なお店だから、ものづくりの街として盛り上がっている蔵前の近くもおもしろいかなと思って」
ものづくりという側面にシンパシーを覚え、清澄白河から隅田川を渡って、ここ浅草橋へ。店では組子欄間をモチーフにしたコースターやアクセサリー、照明なども販売する。

2018年末にオープンしてからまもなく2年。少しずつ街にも馴染み、手芸店めぐりの合間に訪れる客はもちろん、浅草・蔵前から流れてくる雑貨好き・カフェ好きたちが、カメラを手に来ることもしばしば。
山口さん自身も長くデザインの仕事をしてきた身ゆえ、もともと職人気質なのだろう。酒屋の頃に使われていた資材はできるだけ活かしたいと、随所に工夫を凝らした空間づくりや、「焙煎も調理過程のひとつ」と手回しロースターにこだわり自家焙煎する各国のコーヒー、試行錯誤の上にできあがった自慢のスパイシーチキンカレーをはじめとしたカフェメニューの数々は、この街を訪れる“手づくり”好きたちの心をガッチリと掴んだ。

棚板だった板は、土間から家屋へと上る階段に利用。Harumari Inc.

客席にあたる部分は古民家の「土間」。古民家で美味しいカレーやコーヒーをいただく時間は、まるでタイムスリップしたようなゆっくりした時間だ。東京の真ん中にこんな場所があるなんて、不思議な感覚にとらわれる。

看板メニューの「スパイシーチキンカレー」。肉がぷりっと柔らかく、しっかり辛みもある。Harumari Inc.
コーヒーはやや珍しいインド産の豆が主。お手製の欄間のコースターにのせて。Harumari Inc.

カフェ好きやハンドメイド好きなどのビジター……いわゆる「外の人」に人気という側面もありながら、この店の「葉もれ日」たる由縁は街の人々と店の関係性にある。
「浅草橋って、暮らす人たちの日常生活や街のコミュニティが、ちゃんと目に見える形で残ってるんですよね」
周辺のオフィスワーカーがランチや息抜きに訪れたり、近くで個人店を経営する仲間たちが顔を出したり、顔見知りのご近所さんが集まってきたりと、ここが街のコミュニティスペースのような場になるというのだ。老若男女が集まる、そのカジュアルさが心地よい雰囲気をつくりあげている。
「居合わせたお客さん同士を紹介するなんてこともしょっちゅうです。自分たちも、お客さんのお店に飲みに行ったり髪を切りに行ったりします。この街で暮らしている人や働いている人が、この街を回遊していることを実感するんです」
訪ねた時に感じるあたたかさや、ビジターにも優しく流れるゆっくりした時間は、この店と街の人々が醸し出すその柔らかな空気がつくり出しているのだ。地元の人だけの入りづらさも、若者しか入れないようなスタイリッシュすぎる敷居の高さもここにはない。

“歩いていける近場”に限って、デリバリーも行っている。と言っても、最新アプリによるピックアップサービスではなく、個別で連絡を受けて自分たちで運ぶいわば“出前”スタイル。なんともアナログな気もするが、あくまで街で暮らす人々へのサービスのひとつという位置づけだそう。オーダーする側も、見知らぬ配達員がやって来るより、いつもの店主が顔を出してくれるとなれば嬉しいに違いない。そのあたりも、人と人が直接会話することを大切にする下町ならではといったところだ。

地元のつながりの強さは今までも感じてはいたものの、今年は特にその存在の大切さを実感したと語る山口さん。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令された4月以降は観光客や買い物客が減るなか、近隣の住民がテイクアウトで多く利用してくれたと振り返る。
「もし外からくるお客さんだけだったら、もっときつかったと思います。今後はもう少し、木工製品の発信にも力をいれていくつもりですが、街のコミュニティの場として人がつながる場でもあり続けたいですね」

ものづくりと暮らしが息づくこの街に寄り添い、外の人にも街の人にも風通しのいい、葉もれ日。決して派手な存在ではないのに、大切なものは何かを気づかせてくれるような存在だ。流れる時間と風の気持ち良さを感じに、ぜひ手芸店やカフェ巡りのルートに組み込んでみよう。

取材・文 : RIN

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